トロッコ電車の路線を電波バリ4にするため
KDDIが苦難を乗り越えアンテナを設置
富山県の黒部川沿いを走る観光向けの「トロッコ電車」で知られる黒部峡谷鉄道。KDDIは、この黒部峡谷鉄道の全区間20.1km(宇奈月駅~欅平駅)を8月にエリア化したと発表しており、今回そのためのアンテナ設備などをプレス向けに公開した。
黒部峡谷鉄道は、もともと黒部川流域での電源開発のために敷設された鉄道。作業員の移動や資材運搬に用いられており、軌間も762mmと一般的な狭軌よりも狭い規格となっている。この発電所の管理に使われている鉄道というのは現在でも変わらないが、一般旅客向けの「トロッコ列車」を運航し、風光明媚な峡谷を走る観光鉄道として人気の路線なのだ。
ちなみに黒部峡谷鉄道の歴史は1923年(大正12年)からスタートしており、旅客鉄道の営業も1953年(昭和28年)から始まっている。黒部峡谷鉄道 営業部 営業企画・広報グループ チーフマネジャー 谷本 悟氏によると「黒部峡谷の自然を楽しみたいという声があり、一般旅客も乗車するようになったが、初期の頃は『便乗』という形式で、乗車の際には安全は保証しないという条件が『便乘證』に書かれていた」とのこと。
現在はそのような条件はないものの、魅力的な観光路線であるのと同時に、日本でも有数の深く大きな峡谷という厳しい環境に敷設された鉄道というわけだ。谷本氏も「もし今ここに鉄道を敷設しようとなっても、投資が大きすぎて誰も手を挙げないと思う」と説明するほど。このあたりの説明は、始発駅の宇奈月駅に併設されている歴史紹介コーナーでも展示されているので、もし黒部峡谷鉄道を乗車する際はチェックしてみてほしい。
エリア化のネックだったトンネル内でも
しっかり通信ができた
今回この黒部峡谷鉄道全区間がエリア化されたわけだが、屋外については数年前からほぼ対応済みで、新たにエリアに加わったのはトンネル区間となる。黒部峡谷鉄道は、深い峡谷を走ることからトンネル区間も41と多いのだが、このトンネルがエリア化を阻む大きなハードルになっていた。
というのも前述のように、762mmの特殊狭軌により、当然ながらトンネルも小さい。走行する列車ギリギリといってもいいくらいだ。現地で説明を行なったKDDIエンジニアリング 建設事業本部 モバイルプロセス本部 屋内センター 屋内設計G 嶋田直樹氏によると「一般的なトンネルよりも狭く湾曲しているため、電波が内部まで届かない。さらに列車のサイズもギリギリなので、列車がトンネル内に入ると電波を塞いでしまう」そうだ。
そのためトンネル内に基地局の設備はもちろん、ケーブルを延長してアンテナだけの設置も厳しいトンネルが多いとのこと。そこでトンネルの両端から指向性の高いアンテナを使って、トンネル内に電波を吹き込むイメージでエリア化を進めた。