東京オリンピック・パラリンピックの招致と開催のキーマンとされる人物が受託収賄の疑いで東京地検特捜部に逮捕された。
17日のNHKの報道によれば、逮捕されたのは、組織委員会元理事で元電通専務の高橋治之容疑者(78)。東京大会のスポンサー契約に絡み、紳士服大手のAOKIホールディングス側から総額5100万円の賄賂を受け取った疑いが持たれている。
高橋容疑者は、五輪やサッカー・ワールドカップといった国際スポーツイベント関連のビジネスで、強い影響力を行使してきた人物だ。
その名前は、かなり前から、海外メディアのワールドカップや五輪に絡む汚職報道で目にすることがあった。
この事件を見るうえで、今後、日本国内にとどまらず、フランスの検察当局との協力を含め、国際的な捜査に発展するかどうかがひとつのポイントとなるだろう。
招致成功で9億円の報酬
ロイターは2020年3月31日、「東京五輪の招致活動で、820万ドルを受け取った日本のビジネスマン、フランスの汚職捜査の中心に」との記事を掲載している。
この記事のビジネスマンは、高橋容疑者のことだ。
記事によれば、高橋容疑者は、東京五輪招致が成功したことで、招致委員会から8億9千万円の報酬を得ていた。
国際オリンピック委員会(IOC)の幹部に強力なパイプを持つ高橋容疑者は、五輪の招致活動でもIOCの委員と接触し、日本での開催への支持を取り付ける役割を担っていたとされる。
高橋容疑者は、五輪招致時に国際オリンピック委員会(IOC)の幹部に対して、デジタルカメラやセイコーの時計などを渡したという。
ロイター通信の取材に対して高橋容疑者は当時、「手ぶらで行くことはない。それは常識だ」と答えたという。
フランスの検察当局は数年前から、IOCの幹部、高橋容疑者ら日本の五輪招致関係者らを対象に汚職捜査を進めてきた。
20年前の事件にも高橋容疑者の名前が
20年ほど前の事件でも、高橋容疑者の名前は出てくる。
国際サッカー連盟(FIFA)の腐敗を追い続けている英国のジャーナリスト・アンドリュー・ジェニングス氏の著書『FIFA 腐敗の全内幕』には、高橋容疑者に金が渡った疑惑があるとの記載がある。
電通などが出資して、スイスに設立されたスポーツマーケティング会社ISL社が2001年に倒産した際、ISLからダミー会社を通じて高橋容疑者側に金が渡っていたという。
ただ、高橋容疑者は別の書籍でこの疑惑を否定している。
高橋容疑者へのインタビューを中心に構成した田崎健太『電通とFIFA サッカーに群がる男たち』の中で、「ISLがお金を払うのは、自分たちが権利を獲得するのに必要な人物のみ。ぼくに払うはずもない」と答えている。
2019年1月には、フランスの検察当局が、東京五輪招致に絡む贈収賄の疑いで、日本オリンピック委員会の当時の会長だった竹田恒和氏らを、正式な捜査対象としていることが明らかになっている。
たくさんの疑惑、どう解消
この連載の記事
- 第315回 暗号資産(仮想通貨)の税金、55%→20%になるか 与党が税制見直し検討も、財務省は前向きとは言えず
- 第314回 SNSの“ウソ”選挙結果に影響か 公選法改正議論が本格化へ
- 第313回 アマゾンに公取委が“ガサ入れ” 調査の進め方に大きな変化
- 第312回 豪州で16歳未満のSNS禁止 ザル法かもしれないが…
- 第311回 政府、次世代電池に1778億円 「全固体」実現性には疑問も
- 第310回 先端半導体、政府がさらに10兆円。大博打の勝算は
- 第309回 トランプ2.0で、AIブームに拍車?
- 第308回 自動運転:トヨタとNTTが本格協業、日本はゆっくりした動き
- 第307回 総選挙で“ベンチャー政党”が躍進 ネット戦略奏功
- 第306回 IT大手の原発投資相次ぐ AIで電力需要が爆増
- この連載の一覧へ