業務を変えるkintoneユーザー事例 第138回
医者がアプリを"解剖” アプリ作りのイメージは“バームクーヘン”
一度は挫折したkintone導入 2年後に再挑戦して理想郷を目指す
2022年07月01日 09時00分更新
アプリも自分で解剖し、自分のものにする医者魂
ウィルビジョンに開発を依頼して、患者情報管理などのアプリが要件通りに完成した。ここからが木村氏のユニークなところだ。プロが作ったアプリをいったん分解し、再度自分で組み立てたのだ。「アプリは非常にきれいに作っていただいたが、それをいったん壊してみて、中身を自分で理解してから再度作ることにした。課題は解剖して自分のものにするという、医者の考え方が出たと思う」
木村氏はこの“解剖”により、kintoneの構造に対する知識を急速に深めていく。そして、kintoneでアプリを作るときは、データベース系と入力系の2種類を組み合わせることがいいという考えに至る。「いきなりデータベースのアプリがどんとあると、入力する人が尻込みしてしまうようだった。そこで、シンプルな入力系アプリを作り、データベース系はデータを集約する機能に徹する形にした」
入力系アプリを極力シンプルにして入力に徹することで、どんどん入力が増えれば、その背後にあるデータベースのアプリは自然と厚みを増していく。そう木村氏は説明する。「自分にとってアプリ作りのイメージは“バームクーヘン”。塗っては焼くことを繰り返し、年輪を重ねるほど味が出るアプリを目指している」
そのため、入力しやすさには特に配慮した。基本的に「1アクション1アプリ」という原則で、小さなアプリを多数作ることにしたという。
ただ、どんなにシステムがシンプルでも、それに入力してもらうスタッフの理解が得られなければデータは蓄積されない。そこで木村氏は、スタッフに対してデータ蓄積が大事なこと、個人情報保護の重要性などを教育し、理解を促した。
さらに知識だけでなく、自動化することで情報が他のシステムと連携することで仕事が楽になることを実感できるようにした。なおシステムの開発には、kintoneだけでなく通知にはChatwork、自動化ツールにはZapier、Google App script(GAS)、RPAをなど使用している。木村氏は医師であり、ITに関しては素人。当然これらのツール全て初めて使ったが、1つずつネットで勉強して使いこなせるようになったという。
必ずやり抜くという「勇気」こそが成功の秘訣
こうして作り上げたのが、「患者情報管理」「住所録」「医療物品管理」「郵送管理」「インシデント・アクシデントレポート」の5つのアプリだった。
このうち業務の中核である患者情報管理について、木村氏は「カルテだけでは患者の情報を把握できない。そこを補完するシステムが必要だった。最初は使い物にならなかったが、改善を進めてなんとか使えるものになった」と語る。このアプリでは患者のID管理と電子カルテと連動した情報が記録される他、FAXなどで送られてくる患者の関連情報がレコードに登録される。
在宅医療には病院、訪問介護ステーションやケアマネージャーなど、非常に多くの関係者が存在するため、住所録も重要だ。また、医療に使う物品の在庫管理には、kintoneの「スペース」の機能を使い、一括管理を実現した。
同法人のポータルを開くと、最初に企業理念が大きく表示される。その下にkintoneをはじめとした各種アプリのリンク一覧が並ぶ。在宅医療に関わる医師やさまざまな業務別に分類されており、したいことにすぐアクセスできるようになっている。
また医療業界の特徴として、今でもFAXがかなり多く使われている。当初は紙のFAXをWebに取り込めばそれでいいかと思ったが、誰がそのデータを見て、返事をしたのかがわからないことが判明した。そこで Web FAXで受信したFAXをZapier、GASによってkintoneのデータベースと連携させて一覧できるFAX INBOXを開発した。「これで誰あてのFAXで、誰が対応したかがすぐわかるようになった」(木村氏)
さらに、同法人では「Wikiki」と名付けたkintoneのWikiも独自に作成している。「Wikikiの作成者は、ナレッジを書き込む際に、『これを学べば何を誇りに思えるか』を明記することにしている。新しいスタッフはこれを見てベテランスタッフの書き込みから学び、足りないところはさらに書き足して、新しいノウハウとして蓄積している。これが、当法人が自走するために極めて重要なツールとなっている」(木村氏)
木村氏はkintone導入に際して、必ずやり抜くという「勇気」を持って取り組んできたことが成功の秘訣だったと語る。「kintoneを導入するときに、『紙を捨てます』と宣言した。スタッフはまさか本気ではないと思っていたかもしれないが、実際に捨てた。それだけ本気だということを示すためだ。また、クラウド化を進めた先に、いずれスタッフ皆でリゾートに行ってテレワークしよう、という目標も公言している」
仲間を作り、自走する組織になる
kintoneの導入によって、定量的、定性的ともに大きな効果が出ている。資料作成では、kintoneアプリとRPAの組み合わせで、スタッフ1人あたり月間6時間ほどの業務時間を削減した。経費の申請も、従来は1件ごとに作成していたが、システム化したことによって一括作成できるようになった。また電話連絡を1件ごとにチャットに入力していたものをアプリで自動化し、月に5時間の業務時間の削減を実現している。
また定性的な効果としては、業務の可視化、標準化による情報共有が進み、経営ビジョンやナレッジの共有も進んだという。
木村氏は、今後も天竺=ビジョン実現のために自走するチーム作りを進めていく。「西遊記の旅も、猿と河童と豚と馬といった仲間が揃わなければ続けることができなかった。旅は険しいもので、苦難を乗り越えるには途中の旅路が楽しくなければ目的地には着けない。そのため、スタッフが働きやすく、楽しめる環境でなければいけないと思っている」
その上で木村氏は、「kintoneは目的値に早くたどり着くためのすごい道具。さらに使いこなしていきたい。単純作業はシステムに任せて、人としての働き方にじっくり取り組んでいくことを目指している」と語った。
ITの専門家ではないが、業務改善に賭ける強い意志を持って自ら学び、課題を解決してきた木村氏。オリーブ在宅クリニックのDXは、まだまだ伸びしろ十分だ。
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