3月22日に発売されたムック本「横浜LOVEWalker 2022」では、横浜ベイスターズ(当時)のリーグ優勝&日本一で熱く燃えた1998年の横浜を特集。誌面ではV戦士である齋藤隆、石井琢朗、鈴木尚典の3人のコーチに、1998年当時のことを振り返っていただきました。お互いの印象に残っているプレーや出来事について聞いてみると、鈴木コーチは野球以外の、意外なことで齋藤コーチを絶賛したのでした。野球とは全く関係のない話だったので、誌面では割愛したのですが、せっかくなのでここでキリトリっぽく公開したいと思います!
鈴木 1998年の齋藤さんの思い出ですか? カッコイイ! 顔がいい! スタイルもいい! 声がいい!歌がうまい!
齋藤 なにそれ? 野球のことじゃないじゃん(笑)。
鈴木 「横浜アリーナ、松山千春コンサート熱唱事件」について話してくださいよ!
齋藤 ええ? その情報、本当に要ります?
――ちょっと気になりますし、鈴木コーチも熱望されているようなので。
齋藤 1998年のオフ、12月に横浜アリーナで行われた松山千春さんのコンサートのことです。せっかくなので順を追って思い出しながら話しますね。まず権藤(博)さんと松山千春さんが親友なんです。それで権藤さんからの依頼で、1998年のキャンプに千春さんがやってきて、1時間くらいスピーチをしてくれたんです。
――そうなんですか!? どんなお話を?
齋藤 「一流」と「超一流」は違うんだぞという言葉を、鮮明に覚えていますね。プロ野球選手は一流だけれども、優勝することで超一流になるんだという意味だと思います。実は僕、兄の影響で松山千春さんの大ファンだったんですよ。憧れの本人を目の前にして、もう舞い上がっちゃいまして、千春さんに「1回でいいからカラオケに連れて行ってください!」ってお願いしたんです。
――それこそ「超一流」のアーティストに向かって? 若さって怖いですね(笑)。
齋藤 今思えば本当にそうですね。結局キャンプ中もシーズン中も、一緒にカラオケに行くことはありませんでした。当たり前といえば当たり前ですけれど。
松山千春コンサート招待の裏に隠された権藤監督&松山千春の秘密作戦
齋藤 その年、僕らはリーグ優勝して、日本一にもなった。そこで千春さんが、ごほうびじゃないけれど、年末に横浜アリーナで行われる自分のコンサートに、選手を何十人という規模で招待してくれることになったんです。
――何十人! なかなかの太っ腹ですね。
齋藤 そうしたら権藤さんが、「タカシ、お前は歌うことになったから、曲を決めておけ」と。僕が千春さんとカラオケに行きたがっていたから、それならステージの上でということになったようです。それで僕も、じゃあ千春さんの「燃える涙」を歌いますって。
――えっ、即答したんですか? 断る選択肢はなかった?
齋藤 監督と千春さんからのご指名ですし、当時の僕は怖いもの知らずのところもあったので(笑)。
――「燃える涙」を選んだ理由は?
齋藤 この曲は、千春さんが、同郷(北海道)で同級生の、親友だった故・千代の富士さんのために作った曲で、引退後に放送された「千代の富士物語」の主題歌になっていました。僕は1997年はひじの手術の影響で1試合も登板していないのですが、そのころ、リハビリしながらよく聞いていた曲が「燃える涙」でした。歌詞の中に「ついてない自分を嘆くのは心を疲れさせるだけ」「幸せへとたどり着く近道は知らない」というのがあるのですが、本当に励まされました。
――それでカラオケから生ステージにランクアップしたわけですが、実際にステージで歌った感想は?
齋藤 お客さんはたぶん1万人以上は入っていたと思います。カラオケどころか、千春さんの生バンドです。たぶんこのくらいのキーだろう、とかいろいろ気を使っていただいたみたいなのですが、僕はもう全然余裕がなくて。歌い終わった後にあんなに吐き気を催したのは初めてです(笑)。
――千春さんからの評価は?
齋藤 まぁまぁだなって(笑)。
鈴木 それはもうすごかったですよ! 僕は隆さんの歌声にしびれました!
齋藤 当時の千春さんのマネージャーさんが、その時のもようをテープに録音してくれていたんです。それは今でも僕の宝物です。
――ありがとうございました! なかなか貴重なお話が聞けました!
齋藤 実は最近、この話の続きのエピソードができまして。昨年(2021年)、仕事の移動で使ったタクシーの運転手さんが、松山千春さんの熱狂的なファンだったんです。千春さんのコンサートはほとんど行っていて、あの日の横浜アリーナにもいらっしゃっていたそうです。「齋藤さんの歌、今でも覚えていますよ」って言っていただきました。そのすぐ後に、横浜DeNAベイスターズから、コーチのオファーをいただいたので、何か不思議な縁を感じましたね。今回こうして取材で話す機会をいただいたし。何かあるんですかね(笑)。