WGメンバーが語るIPv6マイグレーションの課題と解決への議論
IPv6とゲームの課題に向き合ったJAIPAのゲーム・エンタメWGの活動とは?
ルーターだけでは完結しないIPv6対応 キャリア・ISPも巻き込む
大谷:川島さんにはルーターベンダーとしてのIPv6対応について教えてもらえますか?
川島:IPv6の仕様策定はすでに完了していまして、プロトコルとしてはメンテナンスフェーズでの改訂が入っている程度です。IPv6がこれだけ普及してきた現在は、むしろ実装レベルでの問題を懸念しています。特に私が注目しているのは、セキュリティの部分です。IPv6普及・高度化推進協議会のIPv6家庭用ルーターSWGでも議論しているのですが、IPv6のセキュリティに関する実装は国際的にもあまり深い議論がされていなくて、あるべきセキュリティ要件を検討すべき時期に来ていると考えています。
現行のIPv6のセキュリティ要件だと、ゲームでピアツーピアの通信がうまくできません。現状、IPv6対応している多くのルーターは、NATがなくなった代わりに、SPI(Stateful Packet Inspection)を実装しているのですが、これがファイアウォールと同じように機能して、ゲームの通信をフィルタリングしてしまう可能性があります。もう1つはIPv6マイグレーション技術の登場で機能しなくなりつつあるUPnPの取り扱いですね。IPv6に対応したUPnPv2を使うのか、PCP(Port Control Protocol)を使うのか、どう使い分けるのかなど、明確に決まっていません。
川島:このようにざくっとセキュリティと言っているSPI、UPnPv2、PCPの取り扱いをきちんとやらないと、せっかくIPv6に移ってきたのにIPv6でもダメじゃんと佐藤さんに言われてしまいます(笑)。
佐藤:今年の頭からUPnPv2対応のルーターがちょこちょこ出てきて、問題になりかけたので、OSSを用いたルーターで検証を始めていたりしています。
川島:実際、UPnPなど多くの技術は標準化作業も終わっているのですが、標準化と製品実装は別なので、問題が顕在化していないのが現状です。今のうちにゲーム会社ときちんとやりとりして、早い段階で手当していきたいと感じています。
佐藤:たとえば、IPv6のフィルタリングって、ルーター側だけではなく、ISPやキャリア側で対応することも多い。IPv4の時代はルーターだけ対応すればよかったのに、IPv6になるとルーターのみならず、キャリアやISP側でも対応しないと問題が解決しないということもあります。そういった意味でも、ルーターベンダーだけではなく、ISPやキャリアと歩調をあわせて課題を解決しなければなりません。
川島:UPnPv2もそうですが、最近はQUIC※の話もけっこうしびれる感じです(笑)。
佐藤:確かにQUICはしびれますね。個人的には「IPv6のQUICはOKだけど、IPv4はNG」という意見もなかなか熱いと思います。
※Googleが開発した次期HTTPの基盤となるプロトコル
共存技術の品質は高い すぐにIPv6に移行しなくてもよいかもしれない
大谷:最後にWGの今後の方向性や活動についてコメントください。
佐藤:僕がWGに参加する頃は、ちょうど共存技術が認知され始めたくらい。でも、当時は共存技術にあまりよい印象は持っていませんでした。NATの接続性を悪くするやつという考えだったんです。だから、IPv4とIPv6の移行時期を済ませて、早々にIPv6に移行する方がよいと考えていたのですが、WGに参加したこの数年でそうじゃないのでは?と思うようになりました。
というのも、国内でしか使えないIPv6マイグレーション技術とはいえ、いろいろな方が関わって策定されているので品質が高いんです。だから、IPv4オンリー、デュアルスタック、IPv6オンリーしかないという世界はちょっと違うかなと。当然、IPv6を利用しないと解決が難しいところはあるのですが、共存技術でうまく共存できている部分があるのであれば、すぐにIPv6に移行しなくてもよいのではというのが、今の考えです。
大谷:驚きました。無理にIPv6に全面移行せず、共存技術でカバーできるところはカバーしようというのは新鮮です。
佐藤:先ほど川島さんもおっしゃっていましたが、すべてを一気にIPv6化するのは現実的ではないんです。たぶん、このWGに入っている方の多くもそういう考えだと思っています。であれば、今ある課題を持ち寄って、解決できる技術を当てはめ、問題なさそうであればIPv6を使えばいいと思っています。
大谷:あくまで課題に即した現実解を考えているわけですね。
松本:実際にIPv6に移行するために、どれくらいのコストを時間がかかるのか、試算しようとしているのですが、なかなか大変です。ですから、短期的には用語の統一やサブWGの議論を続け、長期的にはIPv6に移行していくための手段を検討していこうという感じ。現時点では、みんな諸手を挙げてIPv6に移行するわけではないので手探り。でも、それでよいのではないでしょうか。