このページの本文へ

FCNT携帯電話事業30周年! 携帯進化の歴史を開発者とともにたどる

2021年12月24日 11時00分更新

文● 村元正剛(ゴーズ) 編集●ASCII

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

祝! FCNT携帯電話事業30周年!
当時を知る関係者と歴史と端末を振り返る

 1991年に、それまでの自動車電話やショルダーフォンとは異なる小型の携帯電話として「mova F(TZ-804)」を発売して以来、FCNTは今年、富士通時代から数えて携帯事業30周年を迎えた。現在は、富士通グループから独立したFCNTが「arrows」ブランドのスマートフォンや「らくらくスマートフォン」を展開しているが、富士通と言えば、ドコモの “Fケータイ” を想起する人が少なくないだろう。

 富士通は、ドコモが1999年2月に始めた「iモード」対応の初号機「F501i HYPER」を製造したメーカーだ。ガラケーが主流の時代には、国内初の指紋センサー搭載モデル、世界最薄の防水ケータイ、世界初のディスプレーとキーボードが分離するモデルなど、先進的な機能でも人気を集めた。今回は当時から携帯電話の開発に携わっていた4人にお集まりいただき、開発の裏話を聞かせていただいた。

30年に渡って携帯電話の開発に携わっている、経営監査室部長 兼 情報システム開発部の藤田 博氏

「F902iS」や「F904i」など数々のヒットモデルを生み出した、プロダクト事業本部の井上欣也氏

iモード以前から商品企画を担当されていた、営業本部長の田中栄一氏

ディスプレーとキーボードが分離するF-04Bなど、先進的なケータイを担当されていた、デジタルマーケティング企画開発統括部 統括部長代理の松本吉哉氏

iモード以前は小型軽量化を競っていた

 F501iの開発にも携わった藤田氏は、1984年に入社後、携帯電話の初号機の開発に携わる部署にいたとのこと。

1991年に発売された「mova F(TZ-804)」。従来の自動車電話などとは一線を画す、気軽に持ち歩ける超小型ボディーを実現した

藤田氏 TZ-804が発売される以前は自動車電話が主流で、それをいかに小さくして人が持ち歩けるようにするかというところから関わっています。入社当時、近所の方に「どんな仕事をしているの?」と聞かれて「ケータイ」と言っても通じないので、「自動車電話を小さくする仕事をしています」と答えていましたね。

田中氏 iモードが始まる前から商品企画をやっていましたが、当時は「電電ファミリー」と呼ばれた4メーカー(NEC、富士通、松下通信工業、三菱電機)が強かった時代です。携帯電話の用途は音声通話が主体で、音声品質も今と比べると良くはありません。ですが、品質を向上させた新機種を出せば売れるという時代。100万台以上売れる機種も結構ありました。

藤田氏 小型軽量化を競い合っていた時代で、ひとつひとつの部品を秤で測りながら、試作を繰り返していたことを記憶しています。

iモード初号機「F501i HYPER」を開発していた札幌は
“不夜城”だった!

 1999年2月22日、世界で初めて携帯電話からインターネットに接続できるサービス「iモード」が始まった。広末涼子さんが出演したCMを記憶している人も多いだろう。CMで彼女が手にしていたのが、iモード対応初号機として同日に発売されたのが「F501i HYPER」だ。実は、ドコモは4メーカーにiモード対応機種の開発・製造を要請していたが、サービス開始日に間に合ったのは富士通だけだった。

ドコモが4メーカーに発注し、富士通だけがiモード開始日に間に合った「F501i HYPER」。今見ても古さを感じないスタイリッシュなデザインも魅力

藤田氏 F501iには、2つの新しい技術を取り入れる必要がありました。1つがCompact HTMLに対応させたブラウザーで、もう1つがパケット通信です。どちらも新しく仕様化されたものなので、他社さんも実装に苦労されたと思います。iモードの開発は札幌の事業所で行なっていたのですが、他社さんが次々にギブアップして、結局2月22日に間に合ったのは弊社だけでした。

田中氏 あとから開発者に聞いたのですが、札幌では夜中ずっと仕事をしていて、同じビルの中にあった居酒屋が朝5時まで営業していたので、そこで食事してまた出社という、まさに“不夜城”だったそうです。今だったら、ちょっと問題ですよね(笑)。iモードという新しいサービスを始めるにあたり、ドコモさんからいろいろな企業にお願いしてコンテンツを作ってもらって、サーバーを設営するなどの準備をしていたわけですからね。ドコモさんだけでなく、我々も必ず間に合わせなくてはならないというプレッシャーを感じていました。

「F501i HYPER」はスリムなストレート端末
先進的なデザインでも注目を集めた

藤田氏 デザインについては、商品企画を中心に検討しているのですが、パネルを透明にする必要があり、しかも商品性をアップするためにパネルに曲線をつけているんです。キズや強度の課題も含め、結構苦労しました。

 しかし、「F501i HYPER」は爆発的にヒットしたというわけではなく、まずまずの売れ行きだったとのこと。

藤田氏 「F501i HYPER」とほぼ同時に「F207 HYPER」と「F601ev」という機種も開発していました。ハードウェアの回路的なところは、どの機種も共通していて、ディスプレーとかパネルとか外観は変えていました。先進的なデザインの「F501i HYPER」よりも、一般的な「F207 HYPER」のほうが圧倒的に売れましたね。エグゼクティブ向けの「F601ev」も三和音の着信音を入れたりして人気を集めました。

 iモード対応の第2弾として1999年12月に発売された「F502i」では、ディスプレーをカラー化。国内の携帯電話では初めてのカラー液晶搭載モデルとなった。

田中氏 J-PHONEから発売されるシャープさんの機種と、どちらが先に出せるかを競っていました。結果、弊社が1週間だけ早く発売できました。

指紋センサーよりも先に搭載されていた
「プライバシーモード」

 2003年には、国内初の指紋センサーを搭載した「F505i」を発売した。その後、指紋センサーはFケータイの代名詞として人気を集めた。今でこそ、スマートフォンに指紋や顔による生体認証が欠かせなくなっているが、ガラケーが主役の時代からFケータイでは、それが常識だったわけだ。

折りたたみ式で、大きなカラー液晶を搭載し、さらに指紋センサーを初搭載した「F505i」

田中氏 「F505i」の前の「F504i」(2002年発売)に初めて「プライバシーモード」を搭載したんです。連絡先やメールなどを隠せる機能で、一部の方に好評だったのですが、指紋センサーを組み合わせるとよりセキュアではないか、といった流れだったと記憶しています。もちろん、ちょうど搭載できるデバイスがあったというタイミングでもありました。

 「プライバシーモード」はスマートフォン向けに仕様を変えて、今月発売された「arrows We」にも久しぶりに搭載されていた。非常に便利な機能だが、当時は大々的な告知はされておらず、どちらかと言えば“知る人ぞ知る”機能だった。

田中氏 営業的に大きく宣伝できない機能なので、広め方が難しかったですね。クチコミで広がったり、ブロガーさんに取り上げてもらったりして、ファンを増やしていました。

時代はFOMAへ。斬新なギミックのケータイが続々登場!

 ドコモは2001年10月に第3世代(3G)の「FOMA」を開始。井上氏と松本氏は、FOMAの立ち上げから関わっているという。構造設計者として開発に参加していた松本氏が初めて手掛けたFOMA端末は、2003年に発売された「F2051」というモデル。

松本氏 当時は、PDC(2G)の製品と並行して開発していましたが、FOMAには先駆けとしての先進感が求められていました。そこで、折りたたみ式の可動側(ディスプレー側)の上部にクルクルと回転するカメラを搭載させました。

 2004年には回転するタッチパネルを搭載した「F900iT」というモデルが発売された。

松本氏 コードネームは「モントレー」。ディスプレー側が回転して折りたためて、ペン操作もでき、Bluetoothも搭載したモデルです。まだ、Bluetoothが一般的ではなかったので、オプションでBluetoothヘッドセットも用意しました。

藤田氏 今では当たり前にBluetoothを使う機会がありますが、当時はなかったですからね。我々が用途を提案する必要がありました。

 2006年には、ディスプレーを左右90度に傾けて横向きに使える「ヨコモーション」を採用した「F903i」を発売。翌年には、ヨコモーションでワンセグが見られる「F904i」を発売して大ヒットを記録した。

ディスプレーを横向きにしてワンセグが見られる「F904i」

井上 初めて携帯電話にワンセグを搭載するにあたり、ヨコモーションのギミックを取り入れました。当時はワンセグの性能を出すのに苦労していろいろ試行錯誤していたんです。横向きと縦向きでワンセグのアンテナの感度が変わるんですよ。その後、2010年にスライドでヨコモーションになり、防水にも対応させた「F-06B」をだしたのですが、それも縦と横でアンテナ特性が変わるので、非常に苦労しました。

 富士通が初めて防水に対応したのは、2007年に発売された「F703i」だ。防水対応のケータイは、すでに他社から発売されていたが、F703iは17.9mmという薄さながら防水を実現したことで注目を集めた。

防水対応の携帯電話として、17.9mmの世界最薄を実現した「F703i」

藤田氏 当時は、カシオさんが防水対応モデルを出していて、防水=頑丈というイメージでした。弊社の企画は、そうではなく「若い女性がお風呂に入りながら、ケータイを使える」というコンセプトで作りたいと。この薄さの精密機器を防水にできるのか? もし水が入ってしまったら大問題になるなぁと、ハラハラしながら開発していました。

松本氏 私も「F703i」の開発に携わっていましたが、当時はまだそもそも携帯電話に防水は必要なのか? という風潮でしたね。

藤田氏 とりあえず、世の中に認められるレベルで出せてホッとしました(笑)。

ITの展示会「CEATEC」で話題に!
その後製品化が実現した「F-04B」

 富士通がフィーチャーフォン時代にリリースした端末の中で、最も異色で先進的と言えるのは、2010年に発売された「F-04B」だろう。普段はスライド式のケータイとして使えて、ディスプレーを取り外すとQWERTYキーボードが現れるという、今販売されていても話題になりそうなギミックを備えた画期的なモデルだ。

セパレートスタイルの「F-04B」は、合体させている時はスライド式のケータイとして使える

ディスプレー部を取り外すとQWERTYキーボードが出現。Bluetoothで接続され、PCライクにメールを入力したりできる趣向

松本氏 コードネームは「ネプチューン」。僕の最大のチャレンジといえる機種です。2008年秋に開催されたIT系展示会「CEATEC」にコンセプトモデルを出展したところ、すごい反響で、すぐに製品化が決まりました。しかし、商用モデルの開発では着脱の構造に苦労することに……。コンセプトモデルではマグネットを使っていたのですが、マグネットでは不安定で磁気の問題もあり、簡単に着脱できる仕組みを実現するために、何度も試作を重ねました。いろいろなスタイルで使えることが特徴だったのですが、ディスプレー部を外して取り付けて使うプロジェクターユニットも開発し、オプション品として発売しました。

 世界初のセパレートスタイルの「F-04B」はギーク層を中心に注目を集め、「踊る大捜査線 THE MOVIE3」で、湾岸署の業務用端末として使われたことでも話題になった。昨今のスマホよりも、スマートな機能を備えたケータイだったが、先進的すぎたため、売れ行きは「さほどではなかった」(田中氏)とのこと。

 各社が機能やデザインを競い合っていた時代とは言え、富士通ほど斬新なケータイを開発していたメーカーはほかにはないだろう。

田中氏 ほんと、イケイケの時代でした(笑)。

松本氏 当時は、常に新しさが求められていましたからね。開発者だけでなく、マネジメント層にも、そういうマインドがありました。

2008年にはWindows Mobileを搭載した「F1100」というWindowsケータイも発売。富士通のパソコンチームが中心となって開発したとのこと

東芝のモバイル部隊も合流し、スマホの時代へ

 FCNTは現在「arrows」ブランドでスマートフォンを展開しているが、実は富士通初のスマホはARROWSではない。2010年12月に発売された「REGZA Phone T-01C」というモデルだ。

初のAndroidスマホは東芝ブランドの「REGZA Phone T-01C」

田中氏 現在のFCNTは、富士通のモバイル部隊に東芝のモバイル部隊が融合した経緯があるのですが、「REGZA Phone T-01C」は社名が「富士通東芝モバイルコミュニケーションズ」だった時代に、東芝ブランドで発売したAndroidスマートフォンです。フォーチャーフォンからスマホへの流れは必然と考えていたので、すでに富士通もスマホの開発に着手していました。しかし、東芝さんは従来からPDA的なものを出されていたこともあり、開発のスピードが上がったのは事実でしょう。

 「REGZA Phone T-01C」は、Androidスマートフォンとしては国内初の防水に対応し、ワンセグ、赤外線通信、おサイフケータイといった、日本のケータイに欠かせない機能を備えていることでも注目を集めた。

 富士通ブランドとしての初のAndroidスマホは、2011年7月に発売された「F-12C」。イギリスのトラベルケースブランド「GLOBE TROTEER」とコラボレーションしたことも話題になった。また同年、新しいOSとして普及することが期待された「Windows Phone」を搭載した東芝ブランドの「IS12T」をau(KDDI)から発売している。

富士通ブランド初のAndroidスマホは「F-12C」

 ARROWSブランドとしては、2011年10月に防水タブレット「ARROWS Tab LTE F-01D」、12月にLTE対応で、防水性能を備えたスマホ「ARROWS X LTE F-05D」をリリース。今年(2021年)はARROWSブランドも10周年を迎えた。今回お話しを聞かせていただいたみなさんはスマートフォンの開発にも携わっており、世界初の虹彩認証を搭載した「ARROWS NX F-04G」(2015年発売)にまつわる思い出も聞かせていただいたが、ARROWSについては次回にご期待いただきたい。

私が忘れらないアナザーモデル

 最後に、みなさんに30年の歴史の中で特に印象に残っているケータイをもう1機種ずつ教えていただいた。

藤田氏 私は、世界最小最軽量を実現した「F203」(1997年発売)です。当時、LSIを小型化するプロジェクトに関わっていて、それを実際に搭載したのが「F203」でした。たしか100万台超えをして、同時に発売された4メーカーの製品の中で最も売れたんですよ。

井上氏 たくさんあって1機種を選ぶのは難しいのですが、「F902iS」(2006年発売)は特に印象に残っています。当時、開発費などを抑えるために三菱さんと協業することになって、回路はまったく同じでデザインや構造が異なる端末を出していたんですね。開発費は富士通が出すというスタンスだったのですが、「F902i」の売り上げが「D902i」に大負けしたんです。それで、とことん薄くして、背面パネルで音楽プレーヤーを操作できるにした「F902iS」を出したら大ヒットしたんですよ。三菱さんは協業という仲間でもあり、お互いマーケットでは、しのぎを削りあいながら競争するという関係性、とてもワクワクしました。

田中氏 私は「F505i」が発売された日のことをよく覚えています。発売初日だけでも5万台くらい売れたのですが、居酒屋に行って飲んでいたら、隣の席の人が「今日買ったんだ」と自慢しているケータイが、うちの「F505i」だったんですよ。実際に使っている人を見て、うれしい気持ちになりました。

松本氏 一番記憶に残っているのはセパレートスタイルの「F-04B」ですが、ディスニーとコラボしたスマホ「F-07E」も印象に残っています。背面にシンデレラ城がデザインされていて、そこが光るんですね。そのイルミネーションの実装が結構難しくて、発売ギリギリまで改善を繰り返したことを覚えています。開発に苦労した機種ほど記憶に残るんですよね。

★★★

 人に歴史があるように、携帯電話にも歴史がある。今回は携帯事業30年史の中でも、エポックメイキングだったり、ブレイクスルーだったりする端末を紹介したが、当然ほかにも多くの端末をリリースしてきた。それらすべてがらくらくホン20周年、そしてarrows10周年に繋がっていくことは言うまでもないだろう。

 次回、らくらくホン20周年、arrows10周年もそれぞれお届けするので楽しみにしていてほしい。

■関連サイト

カテゴリートップへ