中米の小国エルサルバドルが、ビットコインを法定通貨にした。
2021年9月7日のロイターによれば、仮想通貨を法定通貨にするのは世界で初めての取り組みだ。
世界初の取り組みは、運用開始直後から様々な混乱を引き起こしている。
法定通貨としてビットコインを使ってもらううえで、エルサルバドル政府は「Chivo Wallet」をいうスマホアプリを提供しているが、7日の運用開始直後から、ナジブ・ブケレ大統領は、アプリが一時的にダウンロードできなくなっているとツイートした。
この混乱を受けてビットコイン価格は急落した。同国内では、反ビットコイン運動も起きている。
GDPの18%を海外送金に依存
エルサルバドルは、どんな国だろうか。
場所はメキシコの少し南、北米と南米のつなぎ目のようなところにある。
人口は、2020年7月の推計で約650万人。日本の都道府県に置き換えてみると、約628万人(2021年6月1日)の千葉県に近い人口規模だ。
日本の外務省によれば、主な輸出品としては、コーヒー、衣類などがある。
独自の通貨はなく、米ドルが法定通貨として流通している。
アメリカのCIA(中央情報局)がウェブで公開している「ワールド・ファクトブック」に興味深い記述があった。
エルサルバドルのGDPの約18%を、海外からの送金が占めている。そして、同国の全世帯の3分の1が海外送金を受け取っているという。
このニュースを読み解くカギは、この数字だろう。
ビットコイン価格は乱高下
ビットコインを法定通貨化する少し前から、エルサルバドルと仮想通貨界隈は大騒ぎだった。
9月7日のロイターによれば、法定通貨化を控え、同国政府がビットコインに買いを入れると、ビットコインの価格は急上昇した。
ブケレ大統領がツイッターで「歴史の扉」とつぶやき、法定通貨ビットコインの運用が始まったが、まもなくウォレットアプリがダウンした。
同国政府によれば、アクセスが集中したのが原因だという。
運用開始直後のシステム障害で、今度はビットコイン価格は急落に転じた。
エルサルバドル政府の狙いは
エルサルバドル政府が、ビットコインの法定通貨化に踏み切った背景には、同国経済が海外送金に依存している現状がある。
9月9日のCNBCによれば、エルサルバドルは2020年、海外から約60億ドル(約6600億円)の送金を受け取った。
この金額は、GDPの約23%を占めるという。
コーヒーや衣類などの輸出品はあるものの、多くの人が職を求めてエルサルバドルを離れ、米国などで暮らしている。
こうした人たちが母国の家族に送る仕送りが、同国向けの送金の大部分を占めるのだろう。
海外送金をする際に利用されるのが、ウェスタン・ユニオンなどの送金業者だ。
海外で働く人たちは、家族に仕送りをするたびに、送金業者に手数料を支払う。
送金手数料について、同国のブケレ大統領は、年間約4億ドル(440億円)にのぼるとし、ビットコインの法定通貨化で、こうした手数料が大幅に削減できると主張している。
混乱は続いているものの、世界初の法定通貨化はお祭り感もある。
政府のウォレットアプリに登録すると、エルサルバドル国民は30ドル相当のビットコインがもらえる。
街の商店や、マクドナルドには、「ビットコインで支払えます」という広告が掲示され、政府のウォレットアプリで支払いをすると割引が適用される店もある。
出稼ぎ経済にもたらすメリット
5年ほど前、日本の仮想通貨取引所(暗号資産交換業者)の幹部から、こんな話を聞いた。
中米と同様に、東南アジアの開発途上国から、多くの女性たちがシンガポールや香港、台湾、日本などに出稼ぎに出ている。
女性たちは、やはり海の向こうにいる家族に仕送りをしている。
こうした女性たちの間でビットコインが静かに広がっているという。
この幹部は、「ビットコインは足元から広がっていくんです」と熱っぽく語っていた。
推進派のセールストークだったと捨て置くこともできるが、筆者は素直に「素敵な話だな」と思った。
当時、関係者たちが強調していた仮想通貨の強みとして、ほとんど手数料がかからず、瞬時に世界中に送金できる点を挙げていた。
数年間でこうした強みはほとんど忘れ去られ、現在のビットコインの姿は単なる投機対象のようにも見える。
だが、エルサルバドル政府が先行した法定通貨化は、多くの途上国にとって無視できない動きだろう。
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