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三重の地方銀行、FIXERのサポートで全行員対象のデジタルリテラシー向上研修を実施し「手応え」を得る

百五銀行が業務アプリのノーコード開発研修まで踏み込んだ理由

2021年09月10日 08時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp 写真● 曽根田元

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Power Platformで「実業務に使える」アプリを開発する実践的研修

 百五銀行のデジタルリテラシー向上研修は、大きく3つのパートで構成されている。

 まず全行員を対象としたパート1は、DXをめぐる世界的な潮流や、百五銀行自身が考えるDXのあり方について、eラーニング形式で学ぶものだ。前者のビデオコンテンツはFIXERが、後者は百五銀行のデジタルイノベーション部が制作した。まずはこのコンテンツを通じて、行員に「自分も何かしないといけない」と危機感を持ってもらうことが目的だと若林氏は説明する。

 続くパート2は、受講希望者のみを対象としている。こちらもeラーニング研修だが、Power Platformの各ツール(Power Apps、Power BI、Power Automate)の使い方を学び、実際にツールを操作して、アプリをノーコード/ローコード開発する内容となっている。最終的には、3つのツールの機能を組み合わせて「営業成績管理アプリ」を完成させる。

 そしてパート3では、受講希望者から選抜したメンバーを対象に集合研修を行っている。各メンバーが自身の業務に生かせるオリジナルのアプリを考案し、開発に取り組むという内容で、ここでもFIXERが開発についてのアドバイスやサポートを行う。この研修は8月中旬まで実施された。

百五銀行の研修パート1、2では、FIXERが提供する「クラウドアプリ開発体験講座」のコンテンツも用いられた(画面はFIXER YouTubeより)

 実際に研修を行った結果はどうだったのか。全行員を対象とするパート1の研修を経て、パート2の参加希望者を募ったところ、およそ350名もの応募があったという。応募者の多さに、若林氏も「正直びっくりしました」と語る。

 「募集する前は若い人の応募が多いだろうと予想していたのですが、パート1の研修を受けて危機感を持った経営層や中間管理職からの応募も多くありました。さらに、システム統括部(IT部門)もほとんどの方が参加してくれることになり、『あれっ、これはうれしい潮流だな』と感じました」

 パート2研修では、各参加者がチュートリアル動画を見ながらPower Platform各ツールの使い方を学び、ノーコード/ローコード開発に対する理解を少しずつ深めていく。最終的には、3つのツールを組み合わせた営業成績管理アプリを“宿題”として完成させることになっている。

 多くの行員がチュートリアルに沿ってアプリを完成させる中で、画面デザインなどに自分なりのアレンジを加えてくる行員もいたという。受講者がアプリ開発研修を楽しんでいる雰囲気が感じられるエピソードだ。

 「わたしの部下にK-POPファンの女性がいるのですが、『K-POPのYouTubeが開くボタンを付けました』と見せてくれました。アプリ本来の機能とはまったく関係ないのですが(笑)、自分で調べて『こうすればできる』と考えて、作ってみた。そんな自発的な動きが生まれたのも、今回の研修の良い副産物だと思っています」

 パート3研修についても、当初7名としていた募集枠に40名近くの応募があり、急きょ13名に枠を拡大して参加者を選抜した。同行本部の各部署から1名ずつ選抜する、少数精鋭型のスタイルにしたという。

 「パート3では、参加者それぞれが自分の業務で使えるアプリのアイデアを出し、FIXERさんからのアドバイスを受けながら開発していきます。たとえば債権管理のアプリ、人事の新卒採用応募者の管理アプリ、わたし自身だと研修後のアンケート集計アプリなど、それぞれの業務で実際に活用できるものを考えました。やっていて楽しかったですね」

研修のパート3では、各参加者が「自らの業務に役立つアプリ」を考え、開発していった

実務に役立つデジタル研修とは? 検討段階では紆余曲折もあった

 行内全体を巻き込んだ盛り上がりを見せている百五銀行のデジタルリテラシー向上研修だが、研修プログラムの検討段階では「かなり紆余曲折があった」と若林氏は振り返る。デジタル人材育成プランの1つとして「全行員のデジタルリテラシー向上」という目標は決まったものの、具体的にどんな内容の研修にすべきかがまとまらなかった。

 「最初は『eラーニングで動画を見せる』『Scratchで簡単なプログラミング体験をしてもらう』といった内容でよいのでは、という意見が多かったのですが、わたしは今ひとつピンと来ませんでした。内容が実務と遠すぎて、業務改善やお客様への提案に生かせるとは思えなかったからです」

 それよりは、難易度が多少高くなったとしても「現実に仕事で生かせるスキル」を身につけてもらうことが必要だと考えた。デジタルリテラシーの高くない行員、デジタルに苦手意識を持つ行員もいるが、だからこそ高いハードルにチャレンジしてみる価値がある。そう考えてFIXERに相談したところ、出てきた提案が「実業務に使えるローコード/ノーコード開発研修」というものだった。

 「紆余曲折があった中で、研修内容に明確なビジョン、方向性を与えてくれたのがFIXERさんで、すごくありがたいと思いました。もちろん当初は、FIXERさん側も銀行業務に対する理解が不足している部分もあったと思いますが、お互いにアイデアを出し合い、内容を改善しながら研修を進めてきました。いわば『アジャイルなやり方』で研修を作ることができて、すごく満足しています」

「半年から1年のうちには業務アプリの成果物を出したい」

 今回の研修を通じて、行員全体のデジタルリテラシーが底上げされると同時に、本部の各部署にPower Platformの開発スキルを持つ人材が生まれた。この動きはこれからどう発展していくのだろうか。

 若林氏はまず、受講希望者が多かったパート2、3の研修を再度実施するなどして、デジタル人材のすそ野を「さらに広げていきたい」と語る。

 「その次は、各部署でアプリ開発研修を受けた人が“プロジェクトリーダー”になり、それぞれの業務現場で利用シーンを膨らませていってもらう計画です。今後、半年から1年のうちには、本部業務の中で成果物を出したいですね」

 ただし、銀行内でのPower Platformの活用や普及にはまだ課題もある。セキュリティ上の理由で行内ネットワークは外部と遮断されているため、現状では業務PCから直接クラウドにアクセスすることができない。今回の研修でも、行員が各自の自宅PCを使って研修を受けるかたちとなった。

 「銀行においてセキュリティが最優先なのは当然ですし、このIT環境をいきなり変えるのは難しいと思います。なので、現状ではスモールスタートのかたちで、各部署の担当者が個別にPower PlatformのIDを取得し、行内ネットワークには接続しないPCで使い始めることにしています。その後どうしていくのかは議論が必要ですが、この動きがうまく広がってきたら正式に開発契約を結び、イントラネットとクラウドをセキュアにつなぐかたちに持って行けるのではないかと考えています」

 これから何よりも大切なのは、研修をきっかけに百五銀行内で生まれた「デジタルにチャレンジする雰囲気」を絶やさないことだと、若林氏は語る。

 「ちょうど昨日も、休暇中の上司からLINEで『作っているアプリのここがうまく動かないんだけど……』と質問が来たんですよ。びっくりしたけど、うれしかったですね。デジタルが苦手だとか、そんなことはもう言っていられない。地銀はまさにいま、デジタルに向き合っているところです」

(提供:FIXER)

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