変異した新型コロナウイルス「デルタ株」の感染が拡大する中、米国や欧州の各国で、ワクチン接種を義務づける動きが出てきた。
グーグルは2021年7月28日、オフィスで働く従業員に対してワクチン接種を義務づけると発表した。フェイスブックも同じ日に、同様の方針を明らかにしている。
フランスの放送局FRANCE24によれば、フランスの議会は26日に、レストランへの入店などの際に、ワクチン接種や陰性の証明書の提示を義務づける法案を可決した。
米国のバイデン政権は、連邦政府の職員らに対し、ワクチン接種を義務化した。
こうした強い措置が広がっている背景には、デルタ株の感染力の強さがある。
日本も無縁ではなく、28日のNHKによれば、東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県でデルタ株の感染が拡大。26日の時点で、1週間前と比べてデルタ株の感染者が1.65倍に増えたという。
いまのところ、日本では米国やフランスのような強い措置は取られていないが、デルタ株の拡大を抑え込めない場合、こうした議論が浮上してくることを想定しておく必要がある。
強い措置連発のフランス政府
フランスでは、証明書の提示義務が段階的に拡大されている。
これまでに博物館や映画館、プールなど50人以上を収容する施設では、「健康パス」と呼ばれる接種済み、または陰性の証明書の提示が求められていた。
今回の法案成立で、健康パスの提示が必要な施設が大幅に広がった。対象はレストラン、バー、カフェ、長距離の電車やバス、飛行機など。
まずは成人を対象に健康パスの提示が義務化されたが、9月30日からは12歳以上に拡大されるという。
同国では医療従事者のワクチン接種が義務化され、拒否した場合は職場に出勤できず、期限の9月15日以降は給料の支払いも停止される。
こうした強力な措置は反発も招き、25日には、フランス全土で約16万人が抗議行動に参加したという。
これらの措置は、パンデミックの状況にもよるが、11月15日が期限に設定されている。
期限を設けて強い措置を打ち出し、一気に抑え込むというのがフランス政府の描くシナリオだろう。
米国は連邦政府職員に義務付け
一方、米国はフランスと比べて、柔らかめの措置を打ち出している。
29日のAPは、バイデン政権が連邦職員に対するワクチンの義務づけを決めたと報じている。
この報道によれば、連邦政府の職員がワクチン接種を受けない場合、週1回の検査が求められる。
米国ではすでに、カリフォルニア州やニューヨーク市が、職員に対してワクチン接種や定期的な検査を義務づけている。
ワクチン接種ペースの鈍化に悩む米国
Our World in Dataによれば、米国では6月28日の時点で、必要な回数のワクチン接種を終えた人の割合は48.91%となっている。
米国は世界に先駆けてワクチン接種が始まった国のひとつだが、グラフを見ると、5月末に4割を超えて以降、ワクチン接種のペースが緩やかになっている。
フランスは同じ6月25日の時点で、45.26%。グラフを見る限り、目立った接種ペースの鈍化は見られない。日本は6月28日時点で、27.14%になっている。
米国が抱える深い悩みは、ワクチン接種に反対する人たちの存在だろう。
米政府は、ワクチンに関する誤った情報がSNSで拡散していることが問題だと考えている。7月16日にはバイデン大統領がFacebookなどを指して「人々を殺している」と強い言葉で非難した。
これに対して、翌17日にはフェイスブックが、ユーザーの85%が接種を終えたか、接種を待っているとする独自の調査結果を公表した。
一方、7月27日にはワシントン・ポストが、メディアとワクチン接種の関係についての調査結果を公表した。
この調査では、24時間以内にどの情報源から新型コロナのニュースを得たか、そしてワクチン接種をしたかを尋ねている。
以下は、調査結果の一部を抜粋したものだ。
複数の情報源(Facebook、FOX、Newsmaxを除く)…87%
バイデン政権のみ…79%
MSNBCのみ…77%
CNNのみ…73%
複数の情報源(Facebook、FOX、Nexmaxのうち少なくとひとつを含む)…67%
情報源なし…62%
FOXのみ…59%
Facebookのみ…47%
Newsmaxのみ…42%
Facebookのみから新型コロナ関連のニュースを得たと回答した人のうち、ワクチン接種を終えた人の割合は47%だった。
ワクチン接種を終えた人の割合が最も低かったのは、新興右派メディアNewsmaxのみを情報源とした人たちだった。
Facebookのみを情報源としている人たちは、この調査では下から2番目という結果になっている。「たぶん接種を受ける」と答えた人は29%。「接種済み」と「たぶん接種を受ける」の合計は76%だった。Facebookのみを情報源としている人の25%が「受けないだろう」を選んだ。
本格的な経済の再開や、国際的な人の往来の再開の前提として、各国でワクチンの接種率を上げる必要があるが、ワクチン接種に否定的な人たちの考えを変えるのは至難の業だろう。
フェイスブックが従業員に対するワクチン接種の義務化に踏み切った背景には、政府からの批判や、こうした調査結果の存在があるのではないか。
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