日本酒×ブロックチェーンで信頼性のある情報を提供
以下では、中田 英寿氏のコメントを中心に、トークセッションの模様をお届けしたい。
中田 英寿氏は、現役引退後に、日本の文化、伝統、農業、モノづくりに直接触れたことで、世界に誇れる日本の文化や技術を再発見し、発信する活動を行なっており、特に代表取締役を務めるJAPAN CRAFT SAKE COMPANYでは、酒蔵やその銘柄、地域に根付く文化を、世界市場に向けて紹介している。
この日のトークセッションはJAPAN CRAFT SAKE COMPANYを通じた、テクノロジー活用によるイノベーション事例の紹介を主なテーマとした。
中田 英寿氏はトークセッションにおいて「かつては、国内に5000から6000の酒蔵があって、『住んでいるところの近くに酒蔵がある』状態が普通だった。そのような状態では、近くの酒蔵のことを地元の人はよく知っていて、お酒も各地域で消費されているので、外に向けて情報を発信する必要もなかった。
ところが、あるとき流通が発達し、製品と情報が遠くに届けられるようになり、物流と情報が分かれてしまった。海外で日本酒が販売される場合、外国人は、お酒のラベルを見ても読めない。読めないものを買おうと思う人は少ない。そこで、情報をどう扱うかを考えた」と、日本酒の流通の歴史に触れた。
そこでJAPAN CRAFT SAKE COMPANYが取り組んでいるのが、アプリ「Sakenomy」の開発や、ブロックチェーンの技術を用いた日本酒の管理システムの構築だ。
Sakenomyは、バーコードを読み取ることで「味わい」や「相性のいい料理」がわかる、酒蔵や日本酒の情報をデータベース化したアプリだ。自分が飲んだ日本酒を記録していけば、自分に合った日本酒を提案してくれるなど、専用の「ソムリエ」を持ったかのような使い方もできる。
一方のブロックチェーンについて、中田 英寿氏は「ビットコインというものが出たときに、この技術は製品と情報を信頼できるデータとして結びつけ、消費者の元へ届けることに使えると思った」と話した。
また「ワインも日本酒も、同じ銘柄の同じように見える2本の味が、ぜんぜん違うことがよくある。これは生産者から出荷されて、消費者の元に届くまでの保管状態がバラバラなために起こるが、ブロックチェーンの技術を使うことで、どこで、何日間、何度で保管されていたのか、すべてがわかる。
日本酒にブロックチェーンを掛け合わせることは生産者にとってもメリットになる。酒蔵は、前年の出荷数などを元に、原料の仕入れを行なうので、常に先行投資が発生していて、リスクを背負っている状態。
海外のディストリビューターやレストランも巻き込んでブロックチェーンを活用すれば、在庫の状況など、国をまたいで、皆で状況を同じように把握できる。使い方次第で、『在庫が少なくなってきたら出荷をする』といったことも可能になり、酒蔵にとっても機会損失を減らせ、コストの削減にもなる」と、ブロックチェーンの技術をお酒に適用することの意義にも触れた。
お茶のブランド化に取り組む中田 英寿氏
そんな中田 英寿氏が、日本酒の次のプロジェクトとして目下取り組んでいるのは、「日本茶」のブランド化だ。
中田 英寿氏は日本茶について、「国内でも、ペットボトルの商品名は知っていても、茶葉のブランドは知らない人がかなり多いと思う。コーヒーと違い、食事中に飲めるのがお茶の強み。
水出しをすると、『テアニン』という旨み成分が強く出て、苦味を抑えた食事に合うお茶ができる。お茶の需要はあるはずなのに、その生産地である日本や中国のお茶の銘柄はほとんど知られていない。日本茶をブランド化して、世界に出て行こうってことを、日本酒の次のプロジェクトとしてやっている」とコメントした。