次世代の交通サービス「MaaS(Mobility as a Service)」の支援に、金融機関であるみずほ銀行が乗り出す。
2021年6月21日に、みずほリサーチ&テクノロジーズと連名で発表したプレスリリースで明らかにした。
支援先はOsaka Metro Groupが手がけるオンデマンドバスサービス。みずほ銀行と、みずほリサーチ&テクノロジーズが、Osaka Metro Groupの一員である大阪市高速電気軌道でコンサルティング契約を締結して、支援を行なう。
プレスリリース:「次世代モビリティサービス開発における〈みずほ〉の取り組みについて」
一見すると、交通サービスと金融は縁遠いように見えるが、実は金融はMaaS普及に欠かせない立役者になる。そもそもMaaSとは何か、どのような仕組みか、Osaka Metro Groupとみずほフィナンシャルグループの事例を基に、金融が立役者になる背景を本稿で解説しよう。
■Osaka Metro Groupのオンデマンドバスの概要
概要:
Osaka Metroグループが2021年3月30日から開始した社会実験。乗車日時や乗降場所をスマホアプリまたは電話により利用者が指定。指定された場所に対して最適な運行ルートを導き出して運行する新しいスタイルの乗り合いバスサービス
対象地域:大阪市生野区・同平野区
料金 :大人210円、子ども110円
車両 :8人乗りのワンボックスカー
そもそもMaaSとは何か? 何が便利になるのか?
MaaSとは「Mobility as a service」(モビリティ・アズ・ア・サービス)の略称で、テクノロジーを介して移動そのものをサービス化することであり、ITによって「自家用車以外の交通手段」を特定の移動に関連するサービスとしてまとめる概念である。
国内外問わず、さまざまな地域でサービス提供や社会実験が行なわれている。
なぜMaaSが必要なのか。ひとことで言うと、「利用者のニーズに対して、交通事業者のリソースを最適化できる」ためだ。
昨今の日本の場合、少子高齢化による人口減少、コロナ禍によるテレワークの増加などにより、人々の移動手段のニーズが変化している。またバスやタクシーなどの交通事業者には、運転手不足や、赤字路線の拡大などの課題がある。
そのため、”交通分野では多様な交通手段を統合した最適な移動サービス(中略)が期待されています”と、みずほリサーチ&テクノロジーズは、プレスリリース中で述べている。
■MaaSの必要性の図解
■オンデマンドバス停留所設置イメージ
Osaka Metro Groupが手掛けるオンデマンドバスでは、既存のバス路線のバス停に加え、新たな乗降場所をメッシュ状(網目状)に配置。決まった路線を運行するのではなく、利用者の予約日時と乗降場所をAIで最適化して運行している。
ITによる多様な交通手段の統合には至っていないものの、稼働効率が最適化された移動サービスとして機能し始めているようだ。
MaaSと金融との接点はキャッシュレスだが、わざわざ銀行が支援する理由
本題となるMaaSと金融についてだが、その接点にはキャッシュレスがある。
MaaSにおいて移動の最適化をはかるには、どこからどこまで移動したかというデータは必須となるが、これこそキャッシュレス決済を通じて収集・分析するのが合理的だ。
現金決済でも利用者がどの区間をいつ利用したかの情報収集は可能だが、同一人物かを特定することは難しいため、キャッシュレス決済の出番となる。
クレジットカードや交通系ICなどのキャッシュレス決済で利用料金を支払ってもらい、支払データは、個人を特定できない形にして利用履歴を分析し、MaaSの運行設計や日々の需要予測に役立てられる。前述したOsaka Metro Groupのオンデマンドバスでは現金またはクレジットカードでの支払いが可能だ。
ここでひとつ疑問を呈したい。金融との接点はわかったが、クレジットカード事業者やPayPay、JRグループなどのキャッシュレス事業者が支援すればよいのに、今回みずほ銀行が支援に名乗り出たのはなぜだろう。
ひとつには稼働効率の分析として、複数の事業者間でのデータ連携を行なう際、フィンテック関連のノウハウ・知見が銀行には多数あるという見方もできる。だがMaaSには、「信用力と公共性」こそが必要だからだと筆者は見ている。
利用者を想像すると、家族が不在の時間帯は移動手段が公共交通機関しかないような、免許証を返納した高齢者がまず思い浮かぶ。
そして高齢者に「MaaSを使ってキャッシュレス決済してください」と勧めたところで、使い方がわからない。「サービス名が怪しそう」といった理由で、使ってもらえないなどの課題がありそうだ。また高齢者でなくとも同じ課題を持つ人は当然いる。
今回の事例では、オンデマンドバスのアプリがOsaka Metro製とわかっていても、交通サービスを使うのにクレジットカード番号を入力するのに抵抗を示すかもしれない。MaaS運営に「銀行」が携わっていれば、もっと信用してくれるはず。銀行の窓口で使い方や利用時の決済の仕方を説明できるメリットもある。
このような「信用」が必要な背景には、MaaSの公共性がある。一般社会の交通インフラとなるためには、利用者を囲い込む閉鎖的なサービスとなってはいけない。移動に関連する複数の企業を巻き込むなどの活動が必要不可欠であり、さまざまな事業・業種の基盤となっている銀行の役割はここでも発揮できる。異業種を積極的に招き入れ、ビジネスを拡大、並行してMaaSの利用者増・認知度増で、社会に受け入れてもらわなければならない。
こうしたMaaS普及への活動に対して、銀行視点では、キャッシュレス決済のニーズの他、MaaSを軸にした異業種の参入で、新たな資金需要も見込めるだろう。
ただし今回のOsaka Metro Groupの事例において、みずほ銀行はコンサルティング契約による支援者なので、MaaS事業者の一員としての主体的な活動は、現時点で難しそうだ。
しかしプレスリリースでは“金融を超える新たな価値を創造する『次世代金融への転換』を目指しています”と語り、“知見と人流データの分析、事業開発・システム開発のコンサルティングノウハウを最大限発揮”するとしている。
果たして、大阪市の地域課題解決が実現できるのだろうか。見ものである。
MaaSに関わる事業者が増えると見えてくる信頼性と責任の課題
MaaSに関わる事業者が増えると見えてくる信頼性と責任の課題
銀行が「スイッチング・ハブ」の役割となってMaaSが広く一般社会に普及している姿を想像すると、そのときデータの信頼性とデータ流通の責任は誰が負うのか? という課題が見えてくる。
「ブロックチェーンを使って、関係事業者間でネットワークを構築し、データの信頼性を担保しよう」、または「プライバシーポリシーを遵守してデータを流通しているか監査しよう」などの解決案が思い浮かぶ。これらの課題解決にも、人々のお金を預かる「重責」を担ってきた銀行の知見・ノウハウがきっと役に立つはずだ。
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