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国内ヘルステックスタートアップのアンターとコネクテッド・インダストリーズが語る

「起業」は医師の新たなキャリアになりうるか? AWSの支援を受けた2社の場合

2021年07月02日 11時00分更新

文● 五味明子 編集●大谷イビサ

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 2021年6月16日、アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWSジャパン)は「社会的課題への糸口:医師起業とヘルステック~テクノロジーが加速させる医師の起業~」をテーマにしたメディアラウンドテーブルを開催した。現役の医者が起業したアンターとコネクテッド・インダストリーズの2社が登壇し、サービスを立ち上げた課題や思い、そしてテクノロジーと医師の起業について語った。

アンター 代表取締役 医師 中山俊氏とコネクテッド・インダストリーズ CEO 園田正樹氏

時代の寵児となったモデルナ その開発を支えるクラウド

 会社設立からわずか10年のバイオテックベンチャーにもかかわらず、新型コロナウイルスワクチンの開発で一躍、脚光を浴びる存在となった米モデルナ(Moderna)は、マルチクラウドやAIといった最先端のIT技術を駆使し、従来のワクチン開発に比べて約10倍のスピード、わずか63日でmRNAワクチンの実用化にこぎつけた。

 そして同社を支えるIT技術の中でも特筆すべき存在がAWSクラウドである。ワクチンの設計、生産、さらに世界的な需要に応えるための増産といった重要なプロセスにおいて、モデルナはHPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング)、AI/ML、ロボティクス、製造実行システム(MES)、ERP(SAP S/4HANA)などをAWSクラウド上で導入し、そのケイパビリティを最大限に活かしてワクチンの開発・生産にあたっている。クラウドのパワーがこれまで不可能だったことを可能にし、社会に大きく貢献した事例の最たるものだといえるだろう。

モデルナの爆速ワクチン開発を支えたAWSの技術の一部

 AWSクラウドに代表されるパブリッククラウドを採用する流れはモデルナのような先進的な米国の製薬会社だけにとどまらず、世界中のヘルスケア・ライフサイエンス業界で急速に加速している。日本国内も同様で、大手製薬企業、大学・国立研究所、さらにスタートアップに至るまで多くの企業・組織がパブリッククラウド上にプラットフォームを構築し、これまでに存在しなかったヘルステックビジネスを、これまでにないスピードで事業化し、これまでとは異なる顧客層にアプローチを始めている。パブリッククラウドがようやく一般的になり始めた10年前とは明らかに異なるトレンドが、日本のヘルスケア業界にも拡がりつつあることは疑いない。

 今回はそうしたヘルステック業界で起こっている新しいトレンドの1つとして、現役の医師によるAWSクラウドをベースにした起業の事例を紹介する。起業という臨床や研究とは別のアプローチで医療と社会の課題に挑む医師たちをAWSクラウドはどう支援していくのか、そして起業は医師にとって新たなキャリアパスになりうるのか。本稿では6月16日に行なわれたAWSジャパンの報道関係者向けラウンドテーブルに登壇した、アンター 代表取締役 医師 中山俊氏とコネクテッド・インダストリーズ CEO 園田正樹氏のプレゼン内容をもとに、医師の起業がもたらす社会的なインパクトについて考察してみたい。

「他の医師の力になりたい」から生まれたアンターのサービス

 「医療をつなぎ、いのちをつなぐ」をミッションに掲げるアンターは、みずからも整形外科医としてキャリアを積んできた中山氏が2016年に創業したスタートアップだ。現在は医師どうしの実名制Q&Aサービス「AntaaQA」、医師の学会発表資料や研究レポートなどをシェアして教えあうスライドシェアサービス「AntaaSlide」、医師が学び続けるためのコンテンツを用意したオンライン動画サービス「AntaaChannel」などを展開する。

アンターが運営する3つの主力サービス。医師の診療や学びをオンラインでつながることで支援する

 コロナ禍では実生活における対面での接触が大きく制限されるようになったことからオンライン診療への注目度も高まっており、同様にAntaaが提供するオンラインベースの医師サポート - 現場には行けなくてもオンライン越しでリアルタイムに他の医師を支援するというフレームワークもまた、医師や診療の現場から受け入れられやすい傾向にあるという。

 中山氏が起業したきっかけは「ひとりの医師として、現場だけでなく他の医師の力になりたい」という思いからである。最初はLINEを使った整形外科の相談を24時間365日受けていたが、とくに休日や夜間の当直など、医師がひとりで患者の対応に当たらなければならない状況下での相談が多く、中山氏もその緊急性を理解して5分以内に返答することを心がけていたという。

 こうした経験を下敷きにして作られたAntaaQAでは、現場の医師が患者の症例に関する相談(質問)を投稿すると、平均で15分程度で専門知識をもった医師たちから数件の回答が寄せられる。相談者はその回答をもとに迅速に取るべき対応を決定し、場合によっては相談に乗った医師が新たな患者の受け入れ先となることもあるという。また、現場の診療相談だけでなく、診療方針の悩みや研究・留学・学会発表について、他の医師に相談することも可能となっている。

 AntaaQAをはじめとするサービス各種を支える「AntaaPlatform」は、基盤にコンテナベースの「AWS Fargate」、データベースサービスに「Amazon Aurora」を採用している。インフラにマネージドサービスを活用している理由として中山氏は「インフラ管理はできるだけAWSに任せ、我々はアプリケーション開発に専念したい」ことを挙げている。

目指す未来は医師と医師との間の断絶をなくすこと

 最近では医師からエンジニアに転職するケースも出てくるなど、技術的素養のある医師も徐々にあらわれてはいるが、最新のインフラ事情に現役の医師がキャッチアップしていくことはそう容易ではない。サーバやコンテナクラスタの管理を必要としないFargateやクラウドネイティブなAuroraといったAWSのマネージドサービスはエンジニアリングの知識が少ない医師にとっても迅速なプラットフォームの立ち上げを可能にし、サービスローンチまでの期間を従来に比べて大幅に短縮できる。

 またスタートアップに対するサポートが充実している点もAWSの大きな魅力だという。「起業からずっとAWSにはお世話になってきた。コロナ前には東京・目黒のLoft(AWS Startup Loft Tokyo: 現在は休館中)で技術のことも含めていろいろと相談させてもらった。スタートアップが聞きやすい、相談しやすい環境が整っているメリットは大きい。ガイドラインやコンプライアンスの面からも、医療分野のスタートアップにとってはAWSがいちばん安定感のある選択だと思う」(中山氏)

 診療の現場で孤独な状況に置かれやすい医師をオンラインで支援することを掲げてきた中山氏にとって、目指す未来は「医師と医師の間の断絶をなくすこと」だ。医師がひとりで診療にあたることが当然とされる状態は、医師と世の中の間に断絶を生むことにもつながりかねない。そしてその断絶は医師と医師の間にも拡大し、孤独な医師をますます追い込む状況を作ってしまう。

 「臨床医は目の前の患者を救う、それがもっとも重要なのは当然のこと。しかしオンラインで知見をすぐに共有できる場があれば、その知見がスケールしてほかの医師の問題を解決できる可能性は高くなる。オンラインで後方から現場で頑張っている先生たちを支え、知識を共有していく。そうした世界を作っていきたい」という中山氏。5月にはリアルタイムのライブ動画処理サービス「AWS Elemental MediaLive」を活用し、国内外で活躍する現役医師たちが参加するオンラインイベント「つながるちからFEST.」を開催した。つながる場を用意することで、ひとりの医師の力をほかの医師たちがスケールさせ、ひとりの限界を超えていく、そのためのプラットフォームとしてAWSクラウドは中山氏とアンターにとって最適な選択だったといえる。

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