ユーザーをトラッキングしなくても広告の効果測定は可能
SNSサービスなどを閲覧中、自分の趣味趣向に合致する情報やサービスを記載した広告を目にすることが便利に感じられることもあるはずだ。これまでApp Storeとアプリをプラットフォームとしてビジネスを展開してきた広告主にとって、ユーザーに有益な広告を届けるため、あるいは広告の効果測定を行うためのトラッキングが使いづらくなることは大きな痛手になり得るのではないだろうか。
アップルでは、広告主がユーザーを追跡せずにプライバシーを守りながら広告の効果測定を可能にするツールを開発、無償でデベロッパーに提供するとしている。そのひとつは広告の表示後にそのアプリがインストールされた回数を広告主に知らせる「SKAdNetwork」と呼ばれる機能。もうひとつがiOS 14.5とiPadOS 14.5のアプリを搭載するデバイス上で最小限のデータ収集と処理を行いながら、ユーザーをウェブサイトへ誘導する広告の効果を広告主が測定できるようにする「Private Click Measurement」だ。
アップルでは2020年6月に開催した世界開発者会議「WWDC20」でApp Tracking Transparencyのフレームワークを発表し、以後同年の9月以降からデベロッパーがこれを開発環境で試せるツールを提供してきた。次期OSのローンチまでに十分な対応期間を設けたことで、新たな環境への移行はスムーズに行えるだろうという見解をアップルは示している。
アップルはまた、次期OSのローンチ後もデベロッパーに向けて継続的にApp Tracking Transparencyのフレームワークの有用性を伝えていく考えだという。新しい広告効果測定のためのツールは無償でデベロッパーに提供されるものだが、とはいえアプリの開発を外部デベロッパーに委託する形でコストをかけてユーザーにサービスを提供する企業も多くあるだろう。このような場合、企業とデベロッパーがそれぞれの負担を上手に分け合いながら新しい環境へスムーズに移行するための知恵も求められる。
iPhoneなどアップルの端末を利用するユーザーの中には、これまで何となく個人情報の利用やトラッキングをアプリに許可してきたという方も多くいるのではないだろうか。自身の個人情報が不透明な形で利用されると、万一の際ユーザーにどのような不利益がもたらされるのかなど自身が生むデータの大切さにもう真剣に目を向ける必要がありそうだ。アップルのサイトに公開されているレポート「あなたのデータの一日」も資料として参考になるだろう。
筆者紹介――山本 敦
オーディオ・ビジュアル専門誌のWeb編集・記者職を経てフリーに。取材対象はITからオーディオ・ビジュアルまで、スマート・エレクトロニクスに精通する。ヘッドホン、イヤホンは毎年300機を超える新製品を体験する。国内外のスタートアップによる製品、サービスの取材、インタビューなども数多く手がける。