アマゾンの自動配達ロボット「Amazon Scout」CC by Kldalley6
ちょうど1年前の2020年3月11日、WHO(世界保健機関)が新型コロナウイルス感染症の世界的大流行(パンデミック)を宣言した。
この1年、生活のあり方は大きく変わった。
自分自身の生活を振り返ってみると、大きく変わったことのひとつは買い物だろう。スーパーやショッピングモールに出かけていく代わりにオンラインで済ますことが大幅に増えた。
日本全体でも2020年のEC(電子商取引)市場は急拡大し、宅配便の取り扱いも増えた。ただ、宅配業界の人手不足は深刻だ。
とくに人手がいるのが、営業所から最終的な配送先の各家庭まで届ける「ラストワンマイル配送」だ。
こうした課題に対して、経済産業省と民間企業が配送ロボットの実用に向けた議論を重ねている。
実現にはインフラや制度上のハードルも残るが、今年中に事業化を目指す企業もある。
いま注目すべき配送ロボットの特徴は、「低速・小型」のようだ。
●”ゆっくり歩く”ロボット
2021年3月4日には、民間企業と経産省、地方自治体が参加する「自動走行ロボットを活用した配送の実現に向けた官民協議会」の会合が開かれた。
経産省の公表資料によれば、運送会社などが2023年までに配送ロボットの事業化を目指しており、中には2021年中の実現を目指す企業もあるという。
実際、各地で国、自治体と民間企業が連携し、さまざまな実証実験が実施されている。
岡山県玉野市は2020年12月に、自動運転技術を開発するティアフォーなどと組み、小型ロボットで日用品を配送する実験をした。
市役所を起点に、ドラッグストア、郵便局、公園、カフェ、クリーニング店を回る。効率的なルートで複数の目的地を回り、荷物を受け取り、届ける。
高さ105センチ、長さ110センチの小型ロボットは、時速3キロほどで移動する。時速3キロというと、人間がゆっくり歩くくらいの速度だ。
目的地につくと、「どうぞお荷物をお取りください」という音声が流れ、人間がロボットの荷台から荷物を取り出す。
盗難が気になるが、戸建ての住宅と商店が狭いエリアに集まっている都市部の住宅街であれば活躍しそうなロボットに見える。
●集合住宅での実装は難しそう
一方、集合住宅での運用を考えると、一気にハードルが上がる。
ネットで買い物をすると、運送会社の配送員が荷物を持ってきてくれる。
集合住宅に着いたら、届け先の部屋のチャイムを鳴らし、1階のオートロックの玄関を開けてもらう。
エレベーターで目的の部屋まで行き、再びチャイムを押すか、玄関先に荷物を置く。
住民が出かけている場合は、荷物を宅配ボックスに入れてくれる。
こうした一連の動作をロボットが代替した場合、どうなるだろうか。
チャイムを鳴らす動作は、たとえば自動送信のメールや、自動通話の電話に置き換えることができそうだ。
ロボットが1階に着いたら、自動音声の電話が鳴る仕組みであれば、チャイムを鳴らす必要はない。
難しいのは、ロボットが到着したときに、オートロックを開ける仕組みだろう。
すべての荷物を宅配ボックスに置くことができれば代替は可能かもしれないが、集合住宅そのものの設計を配送ロボットに最適化する必要がある。

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