「FRONTEO AI Innovation Forum」オンデマンド配信中、東大 大澤幸生教授や医薬/金融など企業講演多数
ビジネス層こそ必聴!「AIの成果」めぐるAI導入企業と研究者の最新議論
2020年12月04日 08時00分更新
自然言語処理に特化したビジネスAIソリューションを展開するFRONTEO(フロンテオ)が2020年10月27日、年次プライベートカンファレンス「FRONTEO AI Innovation Forum 2020」をオンライン開催した。各20~30分の講演アーカイブ動画は現在、同カンファレンスの公式サイトでオンデマンド配信されており、いつでも聴講が可能だ(無料、要登録)。
今回のカンファレンステーマは「AIを使うことが挑戦だった時代から、成果の大きさに挑戦する時代へ」。デジタルトランスフォーメーション(DX)実現に向けて、あらゆる業種/ビジネスにおいてAI活用が本格化しているなかで、その「成果」をいかに最大化することができるか。その戦略と豊富なノウハウが、国内AI研究のトップランナーやAI活用の先進企業/組織から次々に紹介される、密度の濃いイベントとなった。
“AIカンファレンス”というとデータエンジニアやCIO、IT部門担当者向けのものと思われるかもしれないが、このカンファレンスはむしろ、DX推進やAI活用に行き詰まりや課題を感じているビジネス層、経営層にこそ、その解決のヒントを与える内容だと言える。以下、本稿ではその概要をご紹介するので、ぜひとも講演動画をご聴講いただきたい。
■各講演・目次
●“言語系AI”技術で専門家の高度な判断をサポートするFRONTEO
●東京大学 大澤幸生教授:成果の「ものさし」を与えるのは人である
●ライフサイエンス:中外製薬、Axcelead、日本マイクロソフトが登壇
●リーガルテック:内部不正の「予兆」をAIが検知する最新ソリューション
●その他の講演(横浜銀行、東京大学 鳥海不二夫准教授、ほか)
“言語系AI”技術で専門家の高度な判断をサポートするFRONTEO
FRONTEOは、法律、医療、製造、金融をはじめとするあらゆる業種/職種に向けて、自然言語処理に特化した“言語系AI”の技術とビジネスソリューションを開発するAI企業だ。カンファレンス冒頭で登壇したFRONTEO 代表取締役社長の守本正宏氏は、同社の持つAI技術の特徴や将来ビジョンなどを紹介した。
FRONTEOでは、独自開発の言語系AIエンジン「KIBIT」や「Concept Encoder」を組み込んだ業種ソリューション群を提供している。これらはいずれも豊富な経験と知識を持つエキスパート(専門家)の判断を支援することを目的としているため、AIエンジンにも高度な理解/判断能力が求められる。しかし、旧来の一般的なアプローチでそれを実現しようとすれば、膨大なコンピュートパワーとシソーラス(語彙登録)、さらに膨大な文書/単語間の関係性を学習させるなどの作業が必要になる。ここがAI本格活用のボトルネックにもなっていた。
そこでFRONTEOでは「microAI」という独自のアプローチをとった。これは自然言語に基づいて高精度の判断ができるAIを、“PC1台レベル”という少量のコンピュートパワーと少量の教師データだけでも効率良く開発できる手法だ。これにより、AI活用を本格的に進めるうえでのハードルを大きく引き下げるとともに、より専門的で高度な判断へのAI適用を可能にしている。
FRONTEOがビジネスソリューション、ライフサイエンス、リーガルテックと、幅広い領域ですでに多くの「成果」を出している背景には、このアプローチによるAI開発の成功があるわけだ。
こうした独自AI技術を基に、FRONTEOではさまざまなプロジェクトを進めている。守本氏が最新の取り組みとして紹介したのが、「言語系AI医療機器」(認知症診断支援AIシステム)の開発である。これは、医師と患者の会話をAIが分析して認知症の診断を支援するシステムで、開発はすでに最終段階に入っているという。来年2021年には臨床試験(治験)を開始し、「2023年には世界初の言語系AI医療機器として薬事承認される見込み」(守本氏)だと説明する。
講演の中で守本氏も指摘しているが、人間は想像以上に多くのシーンで、文章や会話といった自然言語に基づいて高度な判断を行っている。そして、業務ドキュメントからメールやチャットの文章まで、ビジネスの現場には豊富な情報を含んだ自然言語のデータが眠っている。そこに気づくことで「AIの本格活用」は一気に身近なものになる――そう実感させる講演だった。詳細は 講演のアーカイブ動画をご覧いただきたい。
東京大学 大澤幸生教授:成果の「ものさし」を与えるのは人である
東京大学 教授でFRONTEOの技術アドバイザーも務める大澤幸生氏は、「チャンス発見学とデータ市場 ~成果の『ものさし』はAIで作れるか~」というテーマでゲスト基調講演を行った。さまざまな研究成果と実施例も紹介しながら進んだ同講演は、AI活用の成果を最大化するという今回のカンファレンステーマにも通底する内容となっている。
よく知られるとおり、AI活用のためには「データ」が必要だ。ただし、やみくもに大量のデータを集めてきてAIに学習させても、その手間に見合うだけの「成果」は生まれないという。それはなぜか。
大澤氏は、人間とAIがそれぞれの得意を生かした役割分担と協働を行うことが肝要であり、何らかの成果を得るためには人間からAIに与えるべきもの、具体的には“Why(目的)とHow(制約)”が必要だと強調する。これは、大澤氏が2000年から提唱してきた「チャンス発見学」にも通底する考えだ。
さらにこの“WhyとHow”は、多様なデータが流通する「データ市場」を成立させ、市場参加者が価値のあるデータを提供する/入手するうえでも重要なキーワードになるという。
大澤氏の研究室では、市場参加者が利用目的を示してデータを要求する、あるいは逆に流通させるデータに利用目的を記すためのメタデータ「データジャケット」の研究と国際提案を進めている。このデータジャケットを参照することで、参加者どうしのコミュニケーションやデータのやり取り、さらにデータの新たな組み合わせや利用法の提案(=新たな価値)が生まれ、市場が成立する仕組みだ。
そのほか大澤氏は、アパレル、自治体、流通/スーパー、金融、スポーツなど、これまで手がけてきた幅広い業種との協働で得られた成果を示しながら、上述したようなAI/データ活用のためのポイントを、30分でわかりやすく解説した。詳細は講演のアーカイブ動画をご覧いただきたい。
ライフサイエンス:中外製薬、Axcelead、日本マイクロソフトが登壇
創薬、診断、疾患予測、予防医療まで、AI本格活用の最前線のひとつとなっているのがライフサイエンス領域だ。
中外製薬 角田浩行氏の講演では、デジタルを活用した革新的な新薬創出(DxD3:Digital Transformation for Drug Discovery and Development)に取り組む同社の、創薬プロセスにおける幅広いAI活用の全体像が紹介された。
中外製薬は、抗体創薬におけるリード抗体分子の選抜や最適化への機械学習適用、病理学でのAI画像解析(デジタルパソロジー)などと並んで、FRONTEOとの協働による「創薬アイデア創出へのAI活用」を進めている。
たとえばConcept Encoderエンジンを搭載した論文探索AIシステム「Amanogawa」により、膨大な論文データから研究者の仮説に関連性の高い論文を探索できるテキストマイニングシステム、また創薬支援AI「Cascade Eye」による、論文データに基づいた疾患と遺伝子の関係のスコア化、疾患関連遺伝子のパスウェイマップ表示といった取り組みだ。
角田氏の講演は、FRONTEOの技術も含めた先進的なAI活用の現状を示し、次世代の創薬研究においてはAIやITの高度な活用がもはや不可欠となっていることを強く印象付ける内容だった。
同じく「創薬プロセスにおけるAI活用」をテーマにクロストークを行ったのは、Axcelead Drug Discovery Partners 伊井雅幸氏と、FRONTEO 豊柴博義氏だ。武田薬品工業の創薬プラットフォーム事業からスピンアウトし、さまざまな企業や大学、研究機関に創薬支援サービスを提供するAxceleadも、FRONTEOをパートナーとして「創薬ターゲット分子の探索」等にAIを適用する取り組みを進めている。
創薬は、10年以上に及ぶ研究開発・検証期間と1000億円以上の費用が必要とされ、成功確率の向上が大きな課題となっている。創薬のスタート地点であるターゲット分子の選択は、成否の鍵を握る重要なプロセスだ。
伊井氏は、AI活用のメリットについて、膨大な論文データから効率的にターゲット分子を発見できることに加え、人間の研究者には難しい「バイアスをかけずにターゲットを選定できること」だと説明する。
さらに伊井氏は、創薬の現場に長年携わってきた自身の経験を踏まえ、創薬領域でも今後、AIやITの活用が進むため、研究者側のマインドセットや従来型のウェットラボ(実験施設)も、それに合わせて変容していく必要があると指摘している。
日本マイクロソフト 大山訓弘氏とFRONTEO 守本氏は、「超高齢化社会におけるデジタルヘルスケアの可能性」をテーマに、“医療のDX”を目指す両社の取り組みを語るクロストークを行った。
日本マイクロソフトとFRONTEOの両社は今年10月、高齢化社会における医療のDXに向けたソリューション提供で協業を発表している。前述したFRONTEOの認知症診断支援AIシステムは、この協業の第一弾として「Microsoft Azure」クラウド上で構築されている。
大山氏は、日本マイクロソフトではこれまでヘルスケアの現場における「働き方改革」や生産性向上、先端技術の積極活用支援などに取り組んでおり、その方向性がFRONTEOと合致したと説明。さらに、医療関連のデジタルソリューションを安心してAzure上で展開できるように、医療情報に関する各種ガイドライン準拠や独自の倫理規定、利用する医療機関などへの法的な説明などを行っているという。
また守本氏は、AIを活用した診断や疾患予測、創薬支援のシステムをクラウドに載せることによって「高度な医療情報がAzure上に蓄積されていく」と述べ、それがさらに可能性を広げることを指摘。FRONTEOの将来的なビジョンとして、AIアプリケーションの提供だけでなく、蓄積された高度医療情報の提供、あるいは創薬の受託事業といったビジネス展開も考えていると語る。
先駆的なAI活用を進めるライフサイエンス各社の講演は、同業界の企業だけでなく、その他の業種(とくに研究開発分野)におけるAI活用を考えるうえでも示唆に富む内容となっている。詳細は講演のアーカイブ動画をご覧いただきたい。
リーガルテック:内部不正の「予兆」をAIが検知する最新ソリューション
FRONTEOはもともと、eディスカバリやデジタルフォレンジックといった法律分野のリーガルテック事業からスタートした会社だ。
今回、リーガルテック領域では「情報漏洩事案とAIを使ったダークウェブ調査」と題したクロストークが行われた。FRONTEOではデジタルフォレンジックサービスなどを通じて数多くの情報漏洩事故調査を実施しており、そこで協業パートナーとなっているのが、ダークウェブを含めた情報収集/分析で脅威インテリジェンスサービスを展開するサイファーマだ。
サイファーマの齊藤浩一氏は、現在の日本を取り巻くサイバー脅威の情勢について説明したうえで、ある情報漏洩事案に関して発生後に実施したダークウェブ調査から、漏洩した情報の拡散範囲、また犯人につながるIPアドレスなどの情報を収集した事例を紹介した。フォレンジック調査だけではわからない被害規模や手がかりを、ダークウェブ調査により補完できるわけだ。
こうした“有事”のソリューションに対して、FRONTEOの野﨑周作氏は“平時”の予防ソリューションを紹介した。AIを活用して「内部不正の予兆」を常時モニタリングし、早期に検出、予防するというものだ。
今年リリースされた「KIBIT Communication Meter」では、従来のメールに加えてビジネスチャットの内容も複数のAIがスコアリングし、不正行為の元凶となる会社に対する不平不満から、不正な経費使用、不正な取引、ハラスメントなど不正行為の疑われるものまでを検出できる。野﨑氏がその具体的な仕組みや、AIならではの“多目的監査”といったメリットを紹介している。
現在のサイバー攻撃の激化と高度化に対抗するには、インテリジェンスとAIの力を活用することが不可欠となっている。また、かつては「事後対応」のソリューションであったメールやチャットの監査も、AIによってリアルタイムに実行することが可能だ。ぜひ聴講して、進化し続けるリーガルテックの最前線を知ってほしい。
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以上で紹介した講演は、すべてカンファレンス公式サイトでアーカイブ動画が公開されている。また同社では無料Webセミナーを随時開催しており、アーカイブ動画も閲覧可能だ。無料Webセミナーの詳細はこちらから。
本稿で紹介した以外にも、東京大学 大学院工学系研究科 システム創成学専攻 准教授の鳥海不二夫氏によるゲスト講演や、FRONTEOが新たに発表したOSINTサービスを紹介するAIクロストーク(FRONTEO 技術アドバイザーの水野貴之氏、FRONTEO 取締役CTO/行動情報科学研究所 所長の武田秀樹氏)、都市銀行におけるコンプライアンスチェック業務のAI化に取り組む横浜銀行 デジタル戦略部 業務改革企画グループの大田博也氏による講演も公開中だ。ぜひチェックしていただきたい。
カンファレンス全体を聴講して筆者が感じたのは、ビジネスAI活用の技術的ハードルが大きく下がったことで、あらためてビジネスの視点から「正しい戦略とアプローチ」を熟考すべきときに来ているということだ。そのために、今回の各講演が大きなヒントを与えてくれるだろう。
※ 本稿で掲載した画面中の講演資料はそれぞれ各講演者/企業の著作物です。無断転載を禁じます。
(提供:FRONTEO)