Amazon傘下でオーディオブックサービスを提供する「Audible(オーディブル)」は11月19日、日本での戦略発表会を開催。オリジナルコンテンツを強化していく方針を明らかにするとともに、そのひとつとして、「TRICK」シリーズの堤幸彦監督による“聴く映画”「アレク氏 2120」の配信を発表した。同コンテンツは有料のポッドキャストコンテンツとして19日から配信をスタート。Audibleの有料会員であれば、無料で楽しむことができる。
Audibleではグローバルで約40万冊、日本語のコンテンツだけでも約1.8万冊におよぶオーディオブックや、ポッドキャストコンテンツを配信。これらを個別に購入できるほか、月額1500円(初月無料)の会員になると毎月1コインが付与され、このコインを使って好きなオーディオブックを入手できるサブスクリプション型のサービスを展開する。月額会員は特典として月替わりのボーナスタイトルを毎月一冊無料で楽しめるほか、今回「アレク氏 2120」が追加されたポッドキャストコンテンツも聴き放題となっている。
Audible APACシニアバイスプレジデントのマシュー・ゲイン氏によれば、2020年は多くのユーザーがコロナ禍の新たなライフスタイルにAudibleを取り入れ、結果として日本をはじめグローバルで、同社のビジネスに「ポジティブな影響があった」という。発表会後に実施されたラウンドテーブルでは、有料会員数が約2倍となるなど、特に日本の急成長ぶりが著しいことも明らかにされた。Audibleは現在、世界10カ国でサービスを展開している。日本での事業開始は2015年と後発だが、コロナ禍での伸び率はグローバルでもナンバー1だという。
急成長の背景にはもちろん、ステイホームなどでユーザーの生活が大きく変化したこともあるが、「日本の出版社とのパートナーシップによって素晴らしいコンテンツを提供できるようになったことと、そうしたコンテンツに対するユーザーのニーズの高まりが好循環を生んでいることが、追い風となっている」とマシュー氏。グローバルに比べて、日本ではオーディオコンテンツの消費が伸び悩んできたが、今それが急速にキャッチアップされている状況で、「まさに転換点の真っ只中にいる」という。同社ではこの勢いに乗り、来年をさらなる飛躍の年と位置づけており、「メンバーの数をさらに倍にしたい」との具体的な目標も語られた。
そのための施策として最も重視されているのが、オリジナルコンテンツだ。「ここしか聴けないコンテンツは、Audibleの核となる取り組み」とマシュー氏。出版各社とのパートナーシップのもと、2021年に向けてオーディオブック作品を強化していくとともに、オリジナルのポッドキャストコンテンツにも注力していく考えだ。
今回発表された「アレク氏 2120」も、そうした考えのもとに制作されたコンテンツのひとつ。山寺宏一さん、梶裕貴さん、窪塚洋介さん、三石琴乃さんらが人気の声優、俳優陣が出演する完全オリジナルのストーリーで、2120年の未来からやってきたAI犯罪者とAI刑事、さらに刑事の相棒となる現代の学生や女性刑事の活躍を描く。
オリジナルのポッドキャストコンテンツとしてはこのほか、日本の裏社会に切り込む音声のみのドキュメンタリー「DARK SIDE OF JAPAN -ヤクザサーガ-」と、New York Times誌のベストセラー作家エリック・リース氏による「THE LEADER’S GUIDE リーンスタートアップ式 新時代の組織を作る方法 超実践編」の2作品が新たに追加されることも発表された。後者は通常のオーディオブックのように書籍をオーディオ化したものではなく、聴いて楽しむことを前提に作家によって書き下ろされた、「オーディオファーストパブリッシング」の作品となっている。
来年初春頃には新潮社と協業による第一弾作品が登場予定
Audibleでは今後日本でも、出版社とともにオーディオファーストパブリッシング作品を手がけていく計画。詳細はまだ伏せられているものの、来年初春頃には新潮社との協業による、その第一弾作品が登場予定だという。日本ではもちろん、世界でも注目されている作家が手がけるオリジナル作品とのことで、公開を楽しみに待ちたい。
なおマシュー氏によれば、グローバルではすでに出版社でもっとも伸びているのが、オーディオコンテンツの部門になっているとのこと。また日本でも「アレク氏 2120」を手がけた堤幸彦監督をはじめ、出版社の担当者など関係者がいずれも、「おもしろい、ぜひやってみたい」など、この新しい試みに強い関心や意欲を示してくれているという。
発表会ではさらに将来に向けて、「グローバル展開している強みを活かし、日本のクリエイターが世界に飛び立つ、あるいは世界のクリエイターの作品をいち早く日本に紹介するハブとなることを目指したい」との思いも語られた。一方で、簡単に字幕がつけられる映像コンテンツとは異なり、オーディオコンテンツのローカライズは、コンテンツを一から作り直すのにも等しい。「映像コンテンツのようなグローバル展開は難しいのではないか」との質問をぶつけると、マシュー氏は海外で成功を収めている日本のコミックやアニメーションを例にあげ、「オーディオも同じ」との考えを示した。
「日本のコンテンツには、ほかにはない豊かなアイデアやストーリー性がある。それをいろんな言語で録音することは可能であり、やるべきだと思っている。おもしろいストーリーには価値があり、それをグローバルに展開することには大きな可能性がある」とマシュー氏。また今後のコンテンツ調達について、「最良のお客様をどう確保するか。興味を持ってもらうためには、コンテンツを優れたものにしていく必要がある。オリジナルコンテンツはもちろん、出版社とのパートナーシップによるもの、日本から海外へ持っていくものもあれば、逆に海外のコンテンツを日本に展開することもある。いずれのケースでもベストなものを届けるために、引き続きコンテンツへ投資していきたい」と語った。