昭和8年創業で今年87年目を迎える高円寺の銭湯「小杉湯」。温浴と冷浴の「交互浴の聖地」とも呼ばれるこの老舗銭湯において、3代目の社長や仲間とともにビジネス変革を進めているのが「ガースー」こと菅原理之氏だ。個性あふれる小杉湯のビジネスとその改革について、ITの観点から語ってもらった。
歴史あるハードをフレッシュな感性で運営する「交互湯の聖地」
JR中央線の高円寺駅から徒歩5分。商店街を抜け、住宅地の中に現れる唐破風屋根の重厚な建物が小杉湯だ。中に入るとレトロな木目調のフロントで、奥にはギャラリー兼待ち合わせ室がある。取材ということで、お湯を張っている途中の浴室にも入らせてもらったが、銭湯ならではのダイナミックな壁画と開放感のある高い天井が印象的だ。
近所の人はもちろん、マニアが全国から駆けつける人気銭湯だ。名物はほんのり甘い香りがするミルク風呂、そして熱い風呂と水風呂を交互に入る交互湯。自律神経を整え、血行を改善する効果があるとのこと。小杉湯のブランディングや事業計画を担当する菅原理之氏は、「僕らは『ケの日のハレ』と言っています。銭湯ってどこまでも日常的な存在ですが、日常にあるちょっとした非日常を存分に楽しんでもらいたいんです」と語る。
店頭では小杉湯自体が使ったり、顧客にレンタル・提供しているバスタオルやシャンプー、消臭剤、洗たく洗剤などが銭湯グッズとして販売されている。これらは業種を超えたコラボレーションのたまものだ。今治のタオルメーカーであるIKEUCHI ORGANIC、大阪の木村石鹸、静岡の消臭剤メーカーであるハル・インダストリーなど。「僕らは『銭湯のある暮らし』と言っているのですが、僕らがいいと思っている暮らしやグッズを知ってもらいたいんです。最近は『小杉湯』というブランドを信用してくれるお客さまが増えているので、新しいモノを期待してくれるんですよ」(菅原氏)。
また、食品の生産者とも直につながっており、店頭で販売を手がけている。取材時は、「もったいない風呂」と称して余ってしまったシークヮーサーをお風呂に入れつつ、加工物であるジュースを販売するといった企画を実施していた。
その他、浴場でダンスや音楽などのイベントも実施していたり、隣の風呂なしアパートを壊して会員制セカンドハウス「小杉湯となり」を作ったり、とにかくユニークな企画が目白押し。こうした企画は毎週のようにアップデートされ、リピート客を誘引している。そしてサービスの背景や思想をきちんとnoteにしたためられ、さまざまなメディアで取り上げられる。昭和の歴史ある建物(ハード)を基盤にし、令和のフレッシュな感性で運営しているのが小杉湯の本質と言える。