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業務を変えるkintoneユーザー事例 第86回

kintoneを使って採用やワークスタイル変革にまで挑戦したラポール

コロナ禍の心を守る愛媛のケーキ屋、kintoneで店長のいない店を作る

2020年08月05日 09時00分更新

文● 重森大 編集●大谷イビサ

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 コーヒー店勤務を経て橘 憲一郎さんがパティスリー・ラポールを始めたのは、2005年。松山に4店舗、新居浜に1店舗、計5店舗を愛媛県内に展開し、2020年で創業15年を迎える。それぞれの人にいろいろな個性があって「ありのままでいていいんだ」という世界を創りたい、そんな想いを持って始めたケーキ店だ。同じ目標に向かって歩んでいるはずが社内で行き違いが生じ、ギクシャクした経験から、さまざまな施策を打ってきたことが、kintone hive 2020 Matsuyamaで語られた。

ラポールの「まとまると強い」

黒字化を達成するも、経営層と現場との意識の違いに悩んだ創業期

「豊かさは心に橋を架けるという理念を持っています。お菓子づくりは笑顔づくりです。2020年春から新型コロナウイルスが猛威を振るっていて、医療関係の方々は体を治すことにがんばってくれています。このような状況下で私たちケーキ店の役割は、心を守ることだと思い、がんばっています」(橘氏)

 そう語る橘氏を筆頭に、ラポールでは多様な人が働いている。ケーキ店ということで従業員53名中50名が女性という性別の偏りこそあるものの、正社員やアルバイト、主婦や学生、障害者に高齢者と、立場も属性も違う人たちがチームを組んで店舗を運営している。ライフステージがさまざまであることから、ライフイベントも多い。2020年には3人が結婚し、3人が出産、2021年にも2人の出産が予定されているという。また旦那さんの転勤に伴う退職も珍しくなく、こういったイベントのたびに人材募集、人材育成という課題に直面する。今でこそ、人材の多様性や流動性にも対応できる社内体制を作り上げているラポールだが、最初からうまくいっていたわけではない。

有限会社ラポール 代表取締役 橘 憲一郎氏

「この業界ではオーナーがパティシエであることが多いのですが、私自身はまったくの素人でケーキを作ることができません。創業時は経営勉強会などに参加して、経営者としての勉強をしました。ようやく黒字に転換して、6年黒字を維持して債務超過も改善しました。そんな矢先、役員全員が人生で一番落ち込んだ日がやってきました」(橘氏)

 役員の心に突き刺さったもの、それはある従業員が提出した現場のレポートだった。A4用紙4枚にわたって、経営層に訴える言葉が綴られていた。同じ目標に向かって役員も従業員も必死になっていることは同じだった。しかし経営層と現場が行き違い、経営層から現場が見えていない状況についての危機感がレポートには書き連ねられていた。「現場の言葉を聞いてほしい、今のままでは社長についていけません」という現場の思いを受け止め、急遽、役員3人と店長4人で丸一日話し合う機会を設けた。2018年3月のことだ。

従業員が提出したレポートを読み、現場との行き違いに気づいたのが改善のきっかけに

「3月は繁忙期ですが、なにより優先して朝10時からゆ17時まで、店長から現場の話をじっくり聞きました。思い出すといまだに胃がきゅんと痛みます。この会議のあとも、1ヵ月くらい落ち込みました」(橘氏)

 会議で浮き上がった課題は、採用ができていないことと、現場リーダーの負担が重いことだった。苦しかった時期でもあり、繁忙期よりも閑散期に合わせて人材を採用しており、繁忙期は現場が背伸びしてがんばることで乗り切っていた。こうした運営方針もあり、現場リーダーの負担が大きく、リーダーになりたい人が現れなかった。

業界の常識=鬼を倒すために、桃太郎とイヌ、サル、キジでチームを作る!?

 現場からの訴えをきっかけに、社内の課題が浮き彫りになった2018年春。目的に向かって改めて一致団結して、良い会社にしていこうと動き始めた。そのときに始めた取り組みのひとつが、「桃太郎採用」という独自の人材登用だ。採用の流れも見直した。書類選考からインターンシップ、一次面接、役員面接、社長面接と、正社員もアルバイトも同じ流れで採用することにした。

「いぬ、さる、きじのように個性の違う人たちが協力して、業界の常識という鬼を退治するというストーリーです。桃太郎であるチームリーダーのもと、おもてなし担当、パティシエ、新規事業担当といった4つのタイプで採用活動を行なってきました。共通の目的に向けて役割分担を進める中で気づいたのが、コミュニケーション不足でした」(橘氏)

店舗のリーダーを桃太郎に、現場スタッフたちをいぬ、さる、きじに見立てた採用をスタート

 役員がいるサポートセンターと、5つの店舗との間のコミュニケーションが圧倒的に足りていなかった。これを改善すべく導入されたのがkintoneだ。選んだ理由は、自分でカスタマイズして自分で使えるという点。システムを組んで、そのシステムを使ってやり取りするというのは、運用に乗るまでに時間がかかってしまう。その点kintoneなら、自分のペースで使いたい機能から順に、すぐに使い始められる。

 採用においても、各段階におけるコミュニケーションが課題になっていた。電話、FAX、紙の手渡し、口頭伝達などコミュニケーション手段はバラバラ。面接日時はいつなのか、一次面接から次の面接への引き継ぎはどうなっているのか、採用が決まった人の制服はいつ現場に届くのか、全体で把握できていなかった。履歴書が社内のどこにあるかわからず探しまわった挙げ句、橘氏のカバンに埋もれていたなんてこともあった。このようにバラバラだった人材採用の情報が、kintoneアプリで一元管理されるようになった。

応募者の情報を中心に、社内にコミュニケーションの輪ができあがった

「コミュニケーションを増やすために店長会の前に2時間のフリートークを設けたほか、kintoneのスペースを使って採用の理想と現実について話し合いました。店長がいて、販売リーダー、キッチンリーダーがいて、主婦や学生の方に土日や昼間の販売を補っていただくのが理想です。しかし現実にはリーダーが不在、夕方、土日の学生アルバイトも足りていませんでした。採用の話題以外にもそれぞれのモチベーション、体調、家族のことなどもスペースで共有するようにしました。採用、現場の情報をもとに人材育成計画も立てられるようになりました」(橘氏)

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