働き方改革が叫ばれる中、従業員の働き方に柔軟性が求められている。ひとつの表れは、モバイル/リモートワークや在宅勤務といった、自由な働き場所の選択だ。国の方針ということもあり、大企業を中心に一定の成果が出てきているが、その一方で、首都圏では通勤時間帯の電車は相変わらず混雑し、ひとたび交通機関が乱れれば、大騒ぎになってしまう。
2019年は秋に大型の台風が首都圏を直撃し、鉄道の計画運休が実施されたが、その際には電車に乗るため、駅に入りきらないほど長蛇の列ができた場所もあり、ニュースとなった。2020年には「東京2020 オリンピック・パラリンピック競技大会」も予定されており、その前後には海外から東京に集まった、多くの来訪者が交通機関を圧迫すると考えられている。従来の働き方を見直すタイミングが来ていると言えるだろう。
マカフィーはセキュリティの企業であると同時に、テレワーク・リモートワークを積極的に導入している企業でもある。自由な働き方の実現と、そのために求められるクラウドサービスの導入をテーマにマカフィーの櫻井秀光本部長にお話を伺った。
働き方改革は一足飛びには進まない、ビジネス自体のデジタル化が必要
── 自然災害時の働き方についてお伺いします。災害時の働き方、特に仕事を止めないためにどうするかの対策についておうかがいしたいと思います。
櫻井 「まず弊社の場合は主に海外となりますが、もともと在宅で働いている従業員の数が多く、出社せずに業務がこなせる環境が整っています。打ち合わせもビデオ会議で進められますし、社外からも社内のリソースにアクセスできたり、経費精算や人事系システムなどもSaaSに移行しているため、オンプレミスの環境に依存せずどこからでも必要なリソースにアクセスできる環境が整えられています。そのため、台風やそれに伴う計画運休の際にも、むしろ出社を控え、在宅で業務を進めるという指示が社長から迅速に出ました。無理に出社して、危険やトラブルに巻き込まれることを避けるための判断です。
これは弊社に限ったものではなく、外資系のIT企業全般に当てはまることかもしれませんが、特に欧米では出社せずに在宅で働くスタイルが浸透しています。つまり、オフィス外でもオフィスにいるのと同等の働き方ができるわけです」
── 一方、計画運休明けの鉄道路線、例えばJR津田沼では駅から人があふれて、電車に乗るために何時間も列を作って待つ状況が発生しました。言い換えれば、出社して働かなければならない企業がこれだけあるということになりますね。
櫻井 「(個別の事情は)正確には分かりません。ただし、国の方針もあり、大企業では“働き方改革”の推進がマストになっていますし、モバイルワークやテレワークに取り組まないわけにはいきません。中小規模の企業では、まだこれからという企業もあるかも知れませんが、意識改革や投資が必要になるのは避けられないでしょう」
── (お話いただいたとおり)大企業では働き方改革が進められています。今後は中堅・中小企業にも浸透させていく必要が生じますが、これは単にモバイルノートを渡せばテレワークができるというシンプルな話ではありません。
櫻井 「テレワークやモバイルワークを成立させるためには、ワークフローそのものがデジタル化しなければなりません。例えば、紙とハンコによる承認が残っていれば、そのためだけに出社する必要が生じます。ペーパーレス化を始めとした情報や意思決定プロセスのデジタル化は分かりやすい課題です。一方、物理的にモノが動く工場や物流では、すべてをデジタル化することは難しい面があるでしょうが、今後は企業規模を問わず、デジタル化を考えていかねばならないのは確かです。これは大企業に限らず、中小企業でも同じことで、そうでなければ差が大きく広がってしまいます。激しい競争の中で、いまのやり方を維持していくのは厳しいでしょう。IT導入はいずれ底上げされ、ビジネスの変更が余儀なくされます。製品やサービスに対して従来と同じ人的コストをかけ続けるのは困難です」
── マカフィーが扱うセキュリティ製品は、基本的にデジタル化された領域が対象になると思いますが、まだデジタル化できていない企業の実態はどのぐらい把握できますか?
櫻井 「正直に言うと、そういった企業の実態について話せることは、あまりありませんが、最近、東京以外の大都市圏にある超大手企業が、これからOffice 365を導入するという話を聞き、まだまだSaaSの浸透は進んでいないと感じました。一足飛びにいくものではないのでしょう。
とはいえ、2020年には東京でオリンピックが開催される点は、追い風になるでしょう。東京のイベントとなるため、地方との温度差はあるかもしれませんが」
現場に権限をゆだねるという考え方も必要に
── 働き方改革の阻害要因があるとすれば何でしょうか?
櫻井 「よく指摘されるのは『評価の難しさ』です。最初に述べたように、外資系企業では在宅の働き方が以前から組み込まれており、在宅勤務が業務の進捗に影響しないものとなっています。マカフィーでは、人事評価に必要な情報を説明するビデオがオンライン上に置かれており、人事評価のプロセスもすべてオンライン上で完結する仕組みになっています。個人が入力した自己評価に基づき、マネージャーがそれを評価します。
ただしこれもシステムの整備ができるか次第です。米国では、在宅勤務の人々が昔から多く、彼らをどう評価するかのノウハウの蓄積に取り組んできた結果と言えます」
── 働き方改革というと、モバイルワークができる環境の整備やコミュニケーションといったツールの部分に主眼が集まりがちですが、より重要なのは「現場に権限を委譲する」ことかもしれません。
櫻井 「日本では、組織の多重化という課題があるかもしれません。仕事が専門化されておらず、成果を判断する基準が明確でなかったり、何かの決定をする際に、様々な組織や階層の承認が必要だったりします」
── 意思決定に非常に多くの人がかかわるのは日本企業の特徴といえます。その意味では、マネージャーの権限を強くし、現場だけで判断できる情報を共有し、スピーディーでシンプルな意思決定をしていくことが求められているのかもしれません。