データと学習ではなく「人と仕事」の議論を、FRONTEO「AI Business Innovation Forum 2019」レポート
イオン銀行、ソラストの実業務における「AI活用」のリアルを聞く
2019年12月18日 07時00分更新
AIテキスト解析の「KIBIT」やリーガルテックAIなどのAIソリューションを展開するFRONTEO(フロンテオ)は2019年11月22日、東京・六本木においてプライベートイベント「AI Business Innovation Forum 2019」を開催した。
「AIビジネスのリアルがここにある」という副題を掲げた同イベントでは、幅広い顧客企業も登壇し、実ビジネスにおけるAI活用の課題や実態も含め、講演を通じて聴講者に紹介していった。
以下本稿では、金融業におけるコンプライアンス業務にKIBITを適用して「作業時間を60%削減」したイオン銀行、人事部門での社員のリテンションにKIBITを活用して社員離職率低減につなげているソラストの事例講演と、「ビジネスAIにまつわる議論を『データと学習』から『人と仕事』に戻すべき」と訴えたFRONTEO CTOによるキーノート講演のダイジェストをお届けする。
イオン銀行:窓口での面談記録をAI+RPAでチェック、業務負担を大幅に軽減
KIBIT導入顧客として登壇したイオン銀行の小杉剛雄氏は、コンプライアンス部門における「面談記録モニタリング」業務を、AIとRPAの組み合わせ導入で大幅に効率化した事例を紹介した。この業務には毎月およそ250時間かかっていたが、AI+RPAの仕組みを導入したことで件数を60%削減し、かかる時間を月50時間程度と大幅に短縮したという。
イオン銀行は、全国のイオンショッピングモール内に支店窓口を持っており、その窓口で対面による各種金融商品の販売を行っている。特に2017年度以降は、iDeCo(個人型確定拠出年金)や外貨預金、投資信託といった運用商品の取扱いを強化しており、取引件数も大きく伸びてきている。
ただし、リスク性のある運用商品の販売においては、さまざまな法的規制、義務も課せられている。たとえば営業担当者が無理な顧客勧誘をしていないか、投資のリスクも含めてきちんと説明しているか、顧客の資産額に対して過大な投資ではないか、といったことを厳密にチェックしなければならない。そこで、営業担当者が個々の顧客対応において作成する「面談記録」を、本部の法務・コンプライアンス部門がモニタリングする仕組みが設けられている。
イオン銀行の場合、これまではモニタリング担当者が3つのシステム(面談記録、投信取引明細、外貨・保険残高明細)を並行して参照しながらチェックを行い、「1案件あたり平均で6分」の時間がかかっていた。
しかし、たとえば取引件数が増加している投資信託のうち、8割は同社にとって利益の少ない積立型購入が占める。もちろんそうした場合でも面談説明は必須なのだが、さらにその面談記録まで人間がすべてチェックするのでは業務効率が悪い。また、人間のチェックではどうしても評価のばらつきが出てしまい、件数が増える中で問題のあるものを見落としてしまう可能性もある。
そこで法務・コンプライアンス部門では、このモニタリング業務の自動化/効率化に取り組むことになった。小杉氏によると、面談記録モニタリングのチェック作業は大きく2つに分類できる。入力必須項目の入力漏れや異常値を機械的にチェックする「形式チェック」と、報告文の内容から説明や勧誘が適切に行われたかどうかをチェックする「文章内容チェック」である。
イオン銀行では、この2つのチェックに、AI(FRONTEOの「KIBIT」)とRPA(RPAテクノロジーズ「BizRobo」)を「それぞれ適材適所で」割り当てているという。
「RPAがチェックするのは『形式』です。たとえば必須項目の入力漏れや入力間違いのほか、面談時間が極端に短い(=説明が不十分かもしれない)もの、お客様の保有資産に対して投資額が過大なものといった異常値も見つけます。一方で、AIがチェックするのは『文章内容』。だいたい2000文字くらいの面談内容文章を読んで、たとえば『銘柄選定理由が細かく記載されているか』『当行所定の投資初心者向け説明を行ったか』といったことをチェックします」(小杉氏)
文章内容チェックでは、KIBITのAIエンジンが「初心者スコア」「選定理由スコア」などを算出する仕組みとなっており、スコアが基準値を下回ると「疑いのある案件」と判断される。こうして抽出された「疑いのある案件」だけをモニタリング担当者が精査する仕組みによって、担当者がチェックする案件数を60%削減した。あらかじめ疑いの濃い案件だけがピックアップされるため、人間が全件チェックしなくても、疑いのある案件の9割を捕捉できているという。
聴講者に対し、小杉氏は経験をふまえていくつかのアドバイスを行った。まず、今回のような文章チェックを自動化するケースでは「必ずAIとRPAをセットで導入すべき」だと語る。たとえば文章内容チェックをAIに任せたとしても、残る形式チェックの作業を人間が担うならば、結局はあまり業務効率化にはならない。その逆もまたしかりだ。
そして、今回のようなAIモニタリングを検討するうえでは、たとえ導入がまだ先の話と考えていても、AIの教師データは「今のうちに集めておいてほしい」と訴える。特に「問題のあるデータ」(今回のケースでは「悪い面談記録」)は、通常、発見された時点で是正がなされ、過去の履歴が残っていない場合が多い。そうした教師データを集めるのに「非常に苦労した」と振り返る。
また、スコアリングするポイントを細かく、複数に分けて「問題がある点(疑わしい点)」をはっきりさせること、意図しない結果が出たらAIの再学習を行うなど「AIを絶えず進化させる」ことも、AI活用におけるコツだと語った。
なお小杉氏は、今後に向けた課題、KIBITの進化に期待することとして、「過去の面談記録との照合と整合性チェック」や「面談内容の論理的整合性チェック」などを挙げた。こうした処理が実現すれば、AIによるモニタリングの精度はさらに向上するはずだ。