スマートフォンからVRに傾倒して数年になるHTC、MWCではHTC会長のCher Wang氏が基調講演に登場し、「VIVE Reality」として進めるVR構想について語った。必ずしも普及に向かいつつあるとはいえないVRだが、「時間はかかるが全員が受け入れるようになる」と語り、5Gはそれを加速する重要な技術になるとしてスマートハブ「HTC 5G Hub」を発表した。
離陸まで時間がかかっているが
VRはスマートフォンのように必ず受け入れられる
創業からしばらくODMとして他社ブランドでデバイスを製造してきたHTCが、2000年代後半にスマートフォンブームにいち早く乗ってコンシューマーブランドとして確立したのは読者の皆さんもご存じのとおり。だがスマートフォン事業の不振もあって、ここ3年ほど前からVRにフォーカスしている。そのVRの市場自体はまだ離陸しているとは言い難いが、Wang氏はHTCの戦略に自信だ。
「メインフレーム、デスクトップ、ノートPC、スマートフォンに次ぐパラダイムがVRとAR。VRとARはスマートフォンよりも素晴らしいものになる。しかし、スマートフォンと同様に離陸に数年がかかる。最終的に全員がAR/VRを受け入れることになる」。
HTCが描くのは「VIVE Reality」だ。この構想についてWang氏は、人々がAR/VRを受け入れ、「大きな”バーチャル経済”ができる。体験が改善し、意味のある社会的なやりとりが起こり、人の生活が改善する。没入型の環境が整いデバイスは背景に、人間の体験が前面に出る」と説明する。
その際に5Gは重要になる。低遅延、大容量、同時接続などの特徴を持ち、速度は最大10Gbpsとされる。「VRのようにデータをたくさん使うアプリケーションでもストレスなく利用できる。さらには、エッジコンピューティングにより遅延は1ミリ秒以下も不可能ではない」。このように、5GはVIVE Reality構想を現実のものにする技術と語る。そして、「5Gは空気のような存在になり、VRとARは目、耳、触感などのセンサーとなる」と続けた。
Wang氏がここで発表したのが「HTC 5G Hub」だ。Snapdragon 855を採用した5G接続のモバイルルーターで、最大20台の端末と接続できる。Android 9をベースとし、4Kの動画ストリーミングも可能。各国の通信キャリアと話を進めており、3月に提供を開始するという。
VRでは1月に米ラスベガスで開催された「CES 2019」で発表した「HTC VIVE Pro EYE」を紹介した。ユーザーの視線の動きを追跡するアイトラッキング機能を搭載し、「プレミアムのスタンダロンヘッドセット」と説明。コントローラーに頼らない制御が可能となるなど体験を改善できると強調した。
VRはさまざまなところで使われ始めている。たとえばヘリコプター製造のBell Helicopterは、ヘリコプターの設計、モックアップ作成などにHTCのVIVE VRを利用し、通常なら5~7年かかる作業をわずか6ヵ月まで短縮したという。このような生産性におけるメリットに加えて、Wang氏はVRが教育、医療など生活を豊かにする事例も強調した。例えば病気で移動できない人がVRヘッドセットで故郷の映像を体験したり、うつやアルツハイマーの治療に使われることもあるという。
VIVE Realityでは5Gに加えて重要な要素がある。ブロックチェーンとAIだ。
AIは「脳、そして神経系」として、ユーザーのニーズに合わせたデータの提供やジェスチャー/音声による制御、自然言語処理、バイロメトリクスなどの新しいUIを提供する技術となる。
ブロックチェーンは「デジタル環境のDNA」で、デジタルの世界で起こったことを記録し、非公開ないし公開できる。「バーチャルな世界において信頼を強化する。バーチャル経済、AR/VRの土台となる」と話し、その認識のもとにHTCが作成したのがブロックチェーンスマートフォン「HTC EXODUS」だ。EXODUSは2018年に発表したスマートフォンで、Bitcoinなどの仮想通貨の支払いが可能。自分のデータは自分が管理する”ウェブ3.0”時代のセキュリティーを備えたと売り込んだ。
このように、AR/VR、5G、AI、ブロックチェーンによりVIVE Realityが実現された世界では、人間性がさらに重要になると考える。Wang氏は最後に、「VIVE Realityが現実のものになる。最先端の技術と人間性を組み合わせることで、想像力の限界がなくなる」と予想した。
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