2018年10月12日、サイボウズがメディア運営者に向けたkintone活用法の勉強会を開催した。講師を務めたのは、サイボウズが運営するオウンドメディア「サイボウズ式」の編集長である藤村 能光さん。サイボウズがkintoneの勉強会を開催するのはおかしくないが、それにしてもターゲットをメディア運営者に絞るというのは面白い趣向だ。そこではもちろん、藤村さんがメディア運営にどのようにkintoneを活用しているのかが伝えられたのだが、その思想や手法はメディア編集部以外のチームビルディングに通用するものだった。
本番前から自主練に励む熱心な参加者多数
サイボウズ式は、サイボウズが2012年5月にスタートしたWebメディアだ。働き方やチームワーク関連の情報を提供しており、現在までに800本以上の記事を掲載。月間15万UUの人気メディアに育っている。藤村さんはサイボウズ式のスタート段階から運営に関わっており、ここ数年は編集長を務めている。
「サイボウズ式のコアコンピタンスは、メディアの中のひとりひとりの楽しさや、読者に伝えたいという強い思いです。編集長の最大の役割は、メンバーからそういうものを引き出すことです。そのことを「自由だから成果が出るーサイボウズ式編集長に聞く、『楽しさ重視』のメディア運営術」という記事にまとめたところ、メディアじゃなくても自分の仕事やチーム運営に取り入れたいと大きな反響をいただきまして、このような場を設けた次第です」(藤村さん)
勉強会の目的をそのように語った藤村さんは、編集長の役割をまず整理した。編集長というからには、まずメディア全体を統括する責任がある。編集部員が最大限の力を発揮できるようなチームビルディングにも心を砕かなければならないし、外注費含めた予算の管理も仕事の一環だ。事業会社のオウンドメディアとしては、社内の他部署との連携も考えなければならない。さらにサイト運営全般、編集会議の運営と、やることは山積み。一人で抱え込むとメディアが回らなくなると、藤村さんは言う。
「私が多くのことを抱え込まないようにすること。言い換えれば、私が居なくてもメディアが回るようにすることが大切です。サイボウズ式では、kintoneを使うことで編集部が自走できる仕組みを作っています。その証拠に、この講演が決まったとき、私は静岡でサウナを楽しんでいました。気がついたらイベントが決まっていたんです」(藤村さん)
今回のイベントを企画したのは、プロモーションを担当する熱田 優香さん。記事の反響を見て、編集長が登壇するイベントを自発的に企画したのだ。編集部がしっかり自走できている証拠だ。
藤村さんは実際のメディア運営方法を紹介する前に、メディア運営に関わる業務を4段階に分類した。編集部の体制作り、アイデア出し、アイデアの企画化、最後が記事ローンチ後のフローだ。多くの編集部ではこれら4段階の業務で、いろいろなツールを使い分けているのが現状だろうと藤村さんは言う。
「原稿はメールで届いて、それについての連絡はチャットやメッセンジャー、写真は共有フォルダか宅ファイル便。そんな風にツールがばらけると情報をストックできません。しかたがないので力業で情報共有して、力業で記事を出して、記事の反響を力業で解析してと、常に忙しい状況が続きます。それをまとめていくために、kintoneが役立ちます。ストックのコミュニケーションとフローのコミュニケーションの両輪を、kintoneで回しています」(藤村さん)
藤村さんは、データとコミュニケーションがセットになっているのがkintoneのいい点だと語る。かつてはExcelでデータを作り、メールでコミュニケーションを取っていた。しかしkintoneはデータに関するやりとりがみんなに見える。サイボウズ式ではkintoneのコミュニケーション機能をかなり活用しているとのこと。ここから、藤村さんはサイボウズ式の運営体制をつまびらかにしていく。
サイボウズ式のスペースを公開、体制作りに必要なポイントを具体的に解説
kintoneには、スペースという機能がある。アプリやコミュニケーションをプロジェクトやチームごとに分けるための機能だ。チームメンバーにのみ公開するようなアクセス権限設定もできるが、サイボウズ式のスペースはあえて編集部以外にも公開しているという。そしてそのトップページには、サイボウズ式の運営方針や戦略が簡潔に記載されている。
「戦略を練るのは大事です。しかし、それを数十枚のパワーポイント資料にまとめて共有しても、1ヵ月後には忘れられます。簡略に、つねに目に留まる場所に掲載しておくことでメディアの方針がぶれないようになります」(藤村さん)
また、こうした情報が編集部以外の社員にも見えることでいい効果が生まれると熱田さんが言葉を挟んだ。
「現在のサイボウズ式の方針がわかるので、他部署の人にも親切です。こういう方針でこういう方向性のプロジェクトに取り組んでいるなら、こんな提案をしてみよう。そういう風に編集メンバー以外の社員からアイデアが出てくるきっかけにもなるんです」(熱田さん)
戦略とともにトップページに掲載されているのが、編集メンバーの現在の状況だ。サイボウズ式編集部は社員5名、学生アルバイト5名の10名体制。社員はそのほとんどが兼務なので、他の業務とのバランスを考えながらメディア運営を進めていかなければならない。そこで、それぞれのメンバーが現在どのような業務に携わっていて、どの程度の空きリソースを持っているのかをスペースで共有しているとのこと。メディアの戦略や現在の状況が、このトップページでひとめで分かる状況になっていることが、編集部だけではなくこのスペースを閲覧する他の社員にとっても重要だという。
「サイボウズ式に興味があるメンバーは、編集部のスペースをフォローすることができます。現在編集部は10名体制ですが、それ以外に50名以上の社員がスペースに参加しており、このトップページでサイボウズ式の現在の状況を把握できます。彼ら全員にスペースの通知が届き、コミュニケーションに参加してくれる社員も少なくありません。アイデア出しに有効なだけではなく、こんなにたくさんの人が興味をもってくれるということが編集長として励みになります」(藤村さん)
体制作りの中では、予算管理についても語られた。もちろんkintoneの予算管理アプリを活用しており、月別や、月・担当者別のクロス集計など、予算消化の傾向を把握できるようにしてある。編集長としてこの傾向をつかみながら、メディアを運営していると藤村さんは説明した。
この体制作りのポイントは、情報を集約し、チーム以外の人が見てもわかるようにまとめておくこと。これって、編集部以外のチーム作りでも有効なことだと筆者は考える。IT部門などはよく「何をやっているかわからない」と、社内の他部署から言われがちだ。まずはチーム内で、その次はチーム以外の社員に向けて現在の取り組みを共有する。そうすることによってファンが生まれるのではないだろうか。