日本人が知らないリスニング下手のワケ
動機は問わない。英語のリスニングに少しでもご興味がおありなら、なにはともあれ上掲の動画を視聴してみていただきたい。いかがだっただろう? 動画の中で女性が発話した短い英文、はたして一言一句漏らさず、聞き取ることができただろうか?
以下に記した英文が、発話内容を文字に起こしたものだ。上手く聞き取れなかった方は、この英文を見ていささか戸惑うかもしれない。難しい語彙のない平易な文章だからだ。
Could you please put it on the table so that I can take a look at it?
読めば難なく理解できるのに、聞くとさっぱり分からない。ほとんどの音がつながって聞こえ、単語の切れ目すら分からない……。そんな人が大半ではないか。日本人はリスニングが不得手と言われる。その理由のひとつ——それも決定的なひとつに「音声変化」を学んでいないことが挙げられる。
ネイティブが通常のスピードで英語を話すとき、必ずといっていいほど単語の中の一部の音が抜け落ちたり、前後の音が繋がったりして発音される。こうした現象を「音声変化」と呼ぶ。
先述の英文などは音声変化の宝庫。たとえば文末のtake a look at it。まずtakeの最後の音である子音[k]とaの母音が繋がり、「テイカ」のように変化する。look atも同じ理屈で子音と母音が連結して、「ルカット」のように変化。続くatとitも連結するため3語が繋がって、「ルカティット」と変化する。だが、これで終わりではない。at itが連結した結果、atのtが母音に挟まれる格好となる。母音に挟まれた[t]は日本語の「ら行」のような音に変化してしまう。さらに最後にくる[t]は抜け落ちやすいのでitのtが脱落する。
その結果、この5語をネイティブが自然に発音すると「テイカルカリッ」と聞こえる。「テイク・ア・ルック・アット・イット」だと思い込んでいた人には、想像もつかない変化だろう。
音声変化はランダムなものではない。そこには一定のルールが存在する。しかし、ほとんどの日本人はルールがあることすら知らない。無理もない。学校で教えていないからだ。2006年よりセンター試験にリスニングが導入されたが、学校教育の現場で音声変化が体系的に教えられることはほとんどない。