ゲームやエンターテインメントを中心に話題となり、今では様々な業務でも使われているVR。昨今では医療現場での利用も話題となっており、実際に使用しているケースも多数存在する。今回紹介するニューヨーク州のHoward Gurr医師は、VRを使って拒食症や過食症の患者の不安、自身の体に対するイメージの問題に取り組んでいる。
Gurr氏の治療方法は、認知行動療法とVRを組み合わせたもの。VRを用い、まずビーチなどの落ち着いた環境を体験することで患者をリラックスさせ、同様にVRの中で飲食店、試着室といった、患者の不安の種になるような場所へ連れて行く。そして「PsiousToolsuite」と呼ばれるプログラムを使い、患者自身の体に対するイメージの問題や、摂食障害の克服をサポートしていく流れだ。
「PsiousToolsuite」は様々なVR環境を揃えており、医師やセラピストは患者のストレスレベルをチェックしながら場面をコントロール、現実をどのように認識するかを適切に判断し導くことができるという。患者が自信を正しく認識できるようになると、セラピストは患者の実際の体に基づくVRのボディーイメージを提示。患者は自身の体と他者を比べ、体に対するより正しいイメージを身につけていく。
この治療方法は、患者をいくらか不安にさらすものとなりうる。しかし、とある別の医師は「VRが現実と全く同じものだったら、ほとんど価値はありません(=現実にないイメージを提示できることにVRの価値があります)」と話す。「インフルエンザの予防接種のようなもので、あらかじめ少量のウィルスを体内に入れておけば、本当に感染した時には免疫ができており対応することができるわけです」と語った。
Gurr氏は30年以上の治療経験を踏まえ、VRは他の治療方法よりも効果的だと語っている。およそ90%以上もの割合で摂食障害の克服に貢献したとのこと。また2017年にブラジルのリオデジャネイロ連邦大学が行った調査では、VRの治療への適用について「挑戦することへのモチベーションや自己評価を向上させ、過食と嘔吐の症状を減ずる可能性がある」と結論を出している。