IoT Startup Pitch on SORACOM Conference "Discovery" 2018
ソラコム初のピッチイベント、Moffなど注目IoTスタートアップ登壇
2018年7月4日、ソラコムは3回目となる年次カンファレンス「SORACOM Conference "Discovery" 2018」にて、初のIoTスタートアップピッチを実施。ソラコムの通信を活用して新しい製品を送り出しているプランティオ株式会社、株式会社プリンシプル、デザミス株式会社、OQTA株式会社、株式会社Moff、株式会社XSHELL、株式会社フリックフィット、ソナス株式会社――の8社が登壇し、アイデアの着想、顧客へ届けたい価値、製品・サービスについて語った。
センサリングとAIのガイドで楽しく野菜が育てられる
「SMART Planter」
最初の登壇者は、プランティオ CEOの芹澤孝悦氏。同社の開発したIoTプランター「Smart Planter」の開発経緯と、製品の機能、サービス内容を紹介した。
本来のアグリカルチャーとは自分たちの手で野菜を育て、あまった食料をお互いに分かち合うものだったが、現代はアグリカルチャーが多くの人からは遠ざかり、食のリテラシーの低下、大量生産・大量消費による大量廃棄といった問題が噴出している。プランティオは、こうした問題を解決すべく、大規模農業型“マクロファーミング”から、自分たちで野菜を育てる分散型“マイクロファーミング”を提案するスタートアップだ。
芹澤氏の祖父は、“プランター”という和製英語を発明した人物。持ち運べる圃場として1964年の東京オリンピックで爆発的に世界に広まったという。約60年の時を経て、新しい栽培システムとして再発明したのがAIとIoTを活用したSmart Planterだ。
プロトタイプでは192度の広角カメラ、日照計、土壌水分計、温度計(土壌/外気)、水と空気の循環装置、スマホがなくてもコンディションがわかるLEDセンサーなどを搭載。電源プラグは不要で、ソーラーパネルで6時間充電すると30日間稼働する。ユニットによる機能追加ができ、補光ユニットなどのオプションを検討しているそうだ。
AIのナビゲーションによって、間引きや施肥のタイミング、病気の予防、天気予報と連動した水分調整、台風の警告などの情報が提供されるほか、画像センサー得られる生育状況から収穫時期の予測も可能になるという。
コミュニティーとも連携し、育てた野菜を提携先の飲食店へ持ち込むことも可能だ。現在、都内の12店舗と提携しているとのこと。
「究極的には世の中から野菜を買う行為をなくしていきたい。行き過ぎた資本主義を優しい世界で溶かしていければ」と語った。
ワンコインの賃貸向けルームセキュリティー
「SMART ROOM SECURITY」
株式会社プリンシプルの原田宏人氏は、すべての家庭に防犯対策を普及させるべくスマートセキュリティーを開発。手軽な防犯対策としては、防犯カメラや防犯ブザーなどの方法があるが、現時点では、即座に人がかけつけてくれるホームセキュリティーサービスが最も安心感が高い。
しかし、セコムやALSOKなどの大手ホームセキュリティーは、初期費用が5万円以上、月額5000円と高額でビルや高級住宅が対象だ。そこで同社では、ワンコインから始められるセキュリティーサービスを賃貸住宅に向けに提供している。
月額500円(税別)のサービスでは、契約者の玄関やベランダに感知センサー、室内にSOSボタン、ホームターミナル、防犯ステッカーを設置。不審者が入室した場合、センサーからホームターミナルに通知され、屋内に警報が鳴ると同時に、本人を含む最大5名のスマホや携帯電話に通報が発信される。さらにオプションとして、警備会社の現場駆け付けサービス(月額800円、税別)なども用意されている。
今後の展望として、ホームターミナルのタブレットに、タクシーの配車、集配型トランクルーム、クリーニングなどほかのサービスを搭載し、そこから収益を得ることで、より安い価格での提供を目指していくとのこと。
すべての牛をインターネットにつなげる、モニタリングシステム
「U-motion」
国内の牛のロスコストは、年間数千億円にのぼるという。日本で飼育されている牛の頭数は380万頭で世界の0.3%未満なので、世界規模では相当量のロスが発生していることに。こうしたロスの原因である、病気や事故、繁殖遅延を防ぐには、牛の管理技能に長けた人材が必要だが、現場では人的リソースが不足しており、少子高齢化による後継者不足、新規就農者の減少により短期的な解決は難しい。
この問題を解決するためにデザミス株式会社が開発した次世代型の農場管理システム「U-motion」だ。
牛に活動量センサー、牛舎に温度・湿度センサー、牛の位置を把握するための位置情報センサーなどを設置し、取得したデータをクラウドに蓄積。また牧場の管理業務のデータもU-motion上に入力し、センサーデータと管理データとを合わせて分析を行なう。
分析結果から、採食、飲水、反芻、動態、起立、横臥、静止といった牛の主要行動がわかり、問題が起きたときにはさかのぼって原因を探ることができる。
さらに、こうした観察・管理データを独自アルゴリズムで分析し、発情や分娩、疾病傾向や繁殖の牛を早期に発見して、アラートを通知する機能を備えているという。
U-motionを導入することで、複数牛舎を少人数で効率的に管理可能となる。また、異なる環境の飼育によるABテストにも活用できる。
料金は、月額1頭当たり500円~1000円。すでに国内の牛農家で3万頭以上に導入されており、今後は海外進出の準備も進めているそうだ。
離れて暮らす家族へ、愛情を音で伝える鳩時計
「OCTAHeart Clock」
OQTAは、時刻ではなく、愛情を伝えるときに鳴くIoT鳩時計だ。仕組みはいたってシンプル。鳩時計の本体を遠く離れた家族や恋人に渡しておき、相手を思い出したときにスマホアプリのボタンを押すと、離れた相手のところにある鳩時計が鳴くのだ。
特徴は、言語ではなく、音を使っていること。メールやSNSで情報を伝える方法はあったが、相手を思い出したこと“だけ”を伝える手段はなかった。
ポイントは、あえて相手からの返信はできない仕様であること。また、1台に付き最大8名まで登録できるが、そのうちの誰が鳩を鳴かせたのかはわからない、という絶妙な匿名性によって、SNSの「いいね!」やコメント返しのようなプレッシャーとは無縁だ。一方通行だからこそ、ストレートに気持ちを伝えられる。
非常にシンプルなプロダクトながら、OQTAで頻繁に思いが伝えられることによって、高齢者には健康促進効果もあるようだ。
経済産業省が2018年1月に開催した「ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト」では優秀賞を受賞。現在、免疫力の向上、ホルモンバランスの変化などの影響について大手製薬メーカーなどと臨床研究を始めているとのこと。
リハビリテーションの運動を可視化し、健康回復を促進
株式会社Moffは、2014年スマートトイとして発売したウェアラブルデバイス「Moff Band」を応用し、ヘルスケアや介護・医療分野のソリューションを展開している。介護現場では、専門家の不足などにより、施設によっては高齢者向けのリハビリトレーニングの環境が不十分だ。また医療現場では、医学療法士の目測で患者の回復状態を判断するのは難しく、とはいえ高額な機器を導入する予算がない、といった問題を抱えている。
そこで、腕の動きを検知するウェアラブルデバイス「Moff Band」を活用して、介護施設向けの「モフトレ」と、医療機関向けのアプリ「モフ測」を開発。
「モフトレ」は、日常生活に必要な動作をトレーニングするためのアプリ。Moff Bandのセンサーから得られる腕の動きと連動したアプリで、高齢者自身が楽しみながらトレーニングできる。また記録やレポート作成が自動化され、施設のスタッフの負担も軽減される。
「モフ測」は、歩行時の体の動きやバランスを3Dで可視化し、患者のセルフチェック、回復の経過分析などに役立てられる。
Moff BandはBluetooth接続のため、1台のiPadに同時接続できるのは最大5台までという制限があった。今後は、BLEルーターを使用することで、大人数で使うソリューションを計画しているとのこと。
IoTデバイスの遠隔アップデートとデータ収集を高速化
6番目の登壇者は、XSHELLの代表 瀬戸山七海氏。同社の開発するIoTプラットフォームisaaxを紹介した。isaaxは、開発環境で作成したコードをGithubなどの管理ツールにプログラムをプッシュするだけで、複数のIoTデバイスに同時配信するサービスだ。
たとえば、山間部の秘境などにカメラを設置して訪れる観光客の人数を計測する場合、メンテンナンスのたびに現地へ赴くのは、時間も費用もかかる。isaaxを使えば、Gitへのプッシュだけでソフトウェアのアップデートを済ませられる。
SORACOMプラグインを使うことで、既設のインターネット環境のない場所でも、あらゆるセンサーデータを自動的に収集し、ハーベスト上で確認が可能になる。
この7月には、オフライン中に集めたデータをデバイスにバッファリングする機能の提供を開始。オフライン時は、一時的にデバイス内にセンサーデータを蓄積し、通信が復旧したタイミングで転送される。こうしたデータ収集から障害時のエラーハンドリングまでをノンプログラミングで実現できるという。
isaaxは、Linuxに対応したあらゆるデバイスに対応。詳しい使い方やサンプルコードは、isaaxキャンプに公開されているので、興味のあるIoT開発者はぜひ参照してほしい。
3D技術でフィッティングなしでも足にぴったりの靴が選べる
フリックフィットは、足の3Dデータと靴の3Dデータをクラウド上でマッチングするアルゴリズムを開発し、顧客のサイズに合った靴選びを支援するシステムを百貨店など実店舗の靴売り場にレンタルしている。アパレルのEC化が進むなか、靴に関してはEC化率が数%にも満たず、返品も多い。ネックとなっているのがサイズの問題だ。
同社の提供するシステムは、店頭で顧客の足を測るデバイス、靴の3Dデータを測るスキャナー、サイズに合った商品を提案するiPadアプリの3つで構成される。
靴売り場にFoot Digitizerを設置し、顧客がデバイス上に載ると、約10秒で3Dスキャニングが行なわれる。このデータを事前にスキャンした靴の3Dデータとクラウドでマッチングさせ、アプリで足の形に合う靴を提案する仕組みだ。
「足を図る3Dスキャナーは世界に20社ほどあるが、靴を測る3Dデバイスは世の中に存在しなかった」(フリックフィット CEO 廣橋氏)
そこで、靴の内寸を測る「Shoe Digitizer」を独自に開発。約30秒で靴の内部を3Dスキャニングできるという。現在は、新宿伊勢丹などの百貨店に、足を測るデバイスとiPadをレンタルし、販売する靴はフリックフィット社にてデータ化しているとのこと。
現在は実店舗向けの接客支援として提供しているが、次のステップとしてECとの連動、将来的には靴のオーダーメイド化を目指しているそうだ。
ルーティングしないマルチホップ省電力無線「Choco」
ソナスは、東京大学森川研究室出身のメンバーによって設立された、省電力無線通信技術のスタートアップだ。これまでの無線通信技術では、通信範囲と通信速度はトレードオフの関係だった。これを打ち崩すのが、同社の開発したマルチホップ化技術「Choco」だ。
一般的な通信では、データを決まったルートで送信する“ルーティング”が使われているが、Chocoでは、ルーティングを行なわずに、同時送信フラッティング技術と細粒度スケジューリングによって頑強なネットワークを構築できる。
「学術業界を中心にこの方式が広まりつつあるが、現時点で安定して実現できているのは、世界中で弊社だけ」と大原氏。
いずれは無線規格としての標準化を目指しているが、加速度計測デバイス、分析アプリなどとともに、構造モニタリングシステムなどのソリューションとして提供しているとのこと。
今回紹介された各企業のプロダクトや技術は、いずれも以前から研究・開発を進められてきたものばかりだが、ソラコムのSIMと組み合わせることによって、より安価で実用的なものへと進化している。ピッチ会場の入口には開場前から長い列ができ、来場者からの関心の高さが伺えた。
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