「ネットカルチャー教室」ただいま開講中 第22回
校内にいるときよりも登下校中に迫る危険への対処
学校に通う子どもにスマホや携帯を持たせるべきか否か 優先するべきは「身の安全」
2018年06月26日 17時00分更新
先日発生した大阪での地震。この地震発生後に「生徒のスマホを没収する教師が続出した」というTwitterへの投稿がネットで話題になりました。
これはとある生徒が投稿した内容で、「学校外で見回り中の先生にスマートフォンを没収された」「地震があったから親が持っていくように言われたことを説明しても、先生に学校のルールだからと受け入れてもらえなかった」などと記載しています。さらには、別の生徒からは「学校にいるとき、心配する親からの電話が原因でスマホを没収された人もいた」という投稿もありました。
最大震度6弱を観測し、大きな影響を与えた地震が発生。余震などの二次被害が心配されている状況にもかかわらず、学校のルールが優先されたこと、非常時なのだからもう少し柔軟な対応ができなかったのか、という声が挙がりました。この議論が広がって大きな話題へとつながっています。
話題になったTwitterの投稿だけを見ただけでは、その時の具体的な状況のすべてはわからないので、ひと言で「先生が悪い」「生徒が悪い」と結論づけることはなかなか難しいのかもしれません。ただ、この議論は、先生や生徒(子ども)の立場だけでなく、保護者(大人)の立場も踏まえたうえで論じるべきなのではないでしょうか。
子どもが身の危険を感じたときに家族へ連絡できる手段
特定の人(家族)との通話に限定し、GPSや防犯ブザーなどの機能を備えた「キッズケータイ」「ジュニアケータイ」「みまもりケータイ」などと呼ばれるキッズ向けの携帯電話を、安全のために小学生の間から子どもに持ってもらう家庭は増えています。
小学生の間はキッズ向け携帯電話でも十二分だと思いますが、子どもが中学生になれば次第にスマートフォンへ乗り換えする家庭も増えてくるのではないでしょうか。さらに、高校生になれば子どもが持つ携帯電話のほとんどは、キッズ向け携帯電話やガラケー(従来型の携帯電話)ではなくスマートフォンへと変わっていきます。
キッズ向け携帯電話は機能が限定的なこともあり、キッズケータイなどであれば先生に見つかっても没収されるということは少ないのかもしれません。しかし、中学校や高校では先述したように「スマホを持つ生徒が増える」傾向を感じます。スマホにはさまざまなアプリをインストールできます。カメラアプリやゲーム、さらにはYouTubeなどの動画やライブ配信視聴アプリなどです。基本的には「連絡ツール」としてのスマホですが、エンタメ・ホビー要素もスマホには含まれるため、スマホを持っていることを先生に見つかると没収される、というようなケースが生まれることが多いように感じます。
そもそも、保護者(大人)がキッズ向け携帯電話やスマートフォンを子どもに持たせる一番の目的は、「子どもが身の危険を感じたときに家族へ連絡できる手段を、非常時だけでなく、平時から子どものために確保しておきたい」ことが大前提なのを忘れてはいけません。
心配なのは「校内にいるとき」より「登下校中」に迫る危険
Twitterへ寄せられた賛否のなかには「生徒心得(校則)で決められている以上、スマートフォンや携帯電話を持ち込むべきではない」「なにかあれば学校から保護者へ連絡いく仕組みがあるのだから、子どもが学校へスマートフォンや携帯電話を持ち込む必要はないのでは」という意見もあります。
たしかに、子どもたちが校内にいる間は、基本的に学校(先生)が子どもたちの安全を確保し、なにかあれば学校から保護者へ一斉に連絡がいく仕組みがあります。昔で言えば、電話による「連絡網」ですが、近年では個人情報保護の観点からその仕組みは成り立ちにくくなりました。これに代わり、いま活用されているのはメールによる「緊急連絡」でしょう。
学校の「連絡網」や「緊急連絡メール」だけでは事足らないこともありますが、子どもが学校にいることが確実である時間帯であれば、基本的にはそれらの仕組みに沿えば良いのかもしれません。
ただ、問題は自宅にもいない、学校にもいない、自宅と学校の間の登下校中の時間帯です。子どもが属している学年や地域にもよりますが、一人で登下校する子どもも少なくありません。学校が子どもたちの登下校まで守ることができるのならいいですが、現実的にはそれを毎日ずっと継続していくのは難しいところもあります。
校則で「スマートフォンや携帯電話を学校には持ってこない」と定められていたとしても、学校内へ入るまで、学校内から出たあとの登下校途中で起こりえるトラブルを想定した防犯上の考えから「子どもが必要(=身の危険)を感じたときに家族へ連絡できる手段を、非常時だけでなく、平時から子どものために確保しておきたい」と考える保護者も少なくないはずです。
「持ってこない」から「持ち込みんでもいい」に変わる学校も
最近では、昨今の凶悪犯罪や自然災害時の緊急対応など、生徒の安全確保のために校則を改定する学校もあり、「スマートフォンや携帯電話を学校には持ってこない」としていたものを「学校に持ち込んでもいいが、校内では電源を切り鞄の中に入れておくこと」などとするところもあります。
また、災害緊急時や、防犯対策として警察、学校、家庭などと連絡をとる時を除き、登下校時の使用についても(歩行中や駅ホームでの使用は安全のため厳禁とした前提で)許されていたり、校内での所持についても「登校後、電源を切り鞄の中に入れておくこと」、「学校行事(修学旅行・校外学習・学校の文化祭など)の所持に関しては、その都度制限を設けて使用を認めることもある」としていたりするところもあるようです。
このように、スマートフォンや携帯電話を学校へ持ってくることを完全に禁止している学校は少しずつ減ってきているのかもしれません。
もちろん、その場合であっても、普段から大人たちは「スマートフォンや携帯電話を使ううえでのモラルやマナー」を求められているのと同じように、子どもたちもモラルやマナーを守らなければならないことは大前提であることは言うまでもないでしょう。
先生の指示が無ければ「授業中はスマートフォンを手にしない」こと、学校の校門をくぐったら「電源を切り鞄やロッカーに入れておく」「着信音や通知音が鳴らないようにマナーモードにする」などのモラルやマナーを守ることは必要です。
とくに、電源を切り忘れたり、マナーモードへ設定することを忘れてしまったりして、着信音や通知音が鳴り響いたことでちょっと気まずい雰囲気になってしまうようなことがあるのは、大人たちにおける仕事の会議中などでも同じです。
学校で災害が起きたときの柔軟な対応も考える必要性
ただ、マナーモードに設定していても、設定に影響しない緊急速報メール(緊急地震速報や国や自治体が発信する「災害・避難情報」や「津波警報」などを携帯電話へ発信するサービス)の通知音が鳴ってしまったとしても、そのことによってスマホを先生が没収してしまうことへ至ってしまうのは、個人的には少し疑問を感じます。
そもそも、緊急速報メールは「命を守るためのインフラ」としての意義があるはずのものですが、没収されることを恐れ、それさえも鳴らないように設定してしまう子どもたちも多いようです。
また、今回の大阪地震のような大きな災害があったとき、家族が子どもの安全を心配して学校へ確認をする手段があったとしても、学校にいる子どもが家族の安全を心配したとき、学校を出るまでの間、家族へ連絡をする手段はありません。
こうした例外的なことが起きたとき、授業と授業の間の休憩時間中に子どもが持っているスマートフォンや携帯電話を通じて、家族の安全を確認するための猶予を学校や先生が子どもたちに与えるような柔軟な対応も必要であると思います。
もちろん、スマートフォンや携帯電話を学校へ持ち込むことを禁止するのは「教育目的の観点から、持ち込みを禁じることは必要かつ合理的な範囲内」なのかもしれません。これは「勉強に必要ないものだから」「授業の進行の妨げになるから」「イジメが起きるから」といったことが主な要素です。
たとえこれらの持ち込み禁止に関する要素が教育上必要だとしても「子どもが必要だと感じたときに家族へ連絡できる手段を、非常時だけでなく、平時から子どものために確保するべき」という考え方をおろそかにしてはいけないと思います。これは保護者にとっても、その子どもたちにとっても重要なことです。
学校教育をするということにおける「不要なもの(とされやすい)」であるスマートフォンや携帯電話ですが、安全の確保や緊急時に備えた道具や手段としてはスマートフォンや携帯電話は「必要なものであり、非常に役に立つもの」だと思うのです。
実際問題、持ち込みを許可したとして、教育に何らかの障害が起きるようでは元も子もありません。学校に持ち込むという意味を保護者や教師が子どもたちに理解させたうえで、緊急時に備えた何らかの手段として携帯電話やスマートフォンを活用していってほしいです。意味を理解させることはとても難しいことですが、理解させれば例外的なケースに遭遇してしまったとしても安全の確保につながると思います。誰もが安心して過ごせる世の中になるためにも必要なことではないでしょうか。
ライブメディアクリエイター
ノダタケオ(Twitter:@noda)
ソーシャルメディアとライブ配信・動画メディアが専門のクリエイター。2010年よりスマホから業務機器(Tricasterなど)まで、さまざまな機材を活用したライブ配信とマルチカメラ収録現場をこなす。これらの経験に基づいた、ソーシャルメディアやライブ配信・動画メディアに関する執筆やコンサルティングなど、その活動は多岐にわたる。
nodatakeo.com
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