モトローラ・モビリティ・ジャパンは6月7日、SIMフリースマートフォン「moto g6 plus」「moto g6」「moto e5」の3機種を発表した。ミドルクラスのmoto gシリーズの後継モデルだけでなく、新たに2万円を切る低価格のエントリーモデルのmoto eシリーズの端末を新たに投入した狙いはどこにあるのだろうか。代表取締役社長のダニー・アダモポウロス氏と、プロダクトマネージャーの島田日登美氏に話を聞いた。
低価格なeシリーズで若者の獲得を狙う
――これまでのSIMフリー市場での販売を通じて、どのような変化があったと感じていますか?
アダモポウロス氏:モトローラ・モビリティ・ジャパン(以下モトローラ)の端末が日本でどういった顧客に購入されているのかを調査したところ、20、30代の若い人たちにもリーチできていることが見えてきたのです。若い人たちは予算を重視しており、大手通信会社の料金プランを高いと感じている。そうしたことから「moto e5」を投入することで、若い人たちへのリーチを広げてアピールしようと考えたのです。
島田氏:モトローラはgシリーズで日本での経験を積んでおり、DSDS(デュアルSIM・デュアルスタンバイ)に対応した「Moto G4 Plus」で、SIMフリー市場では何が喜ばれるのかを勉強できました。キャリアからMVNOに乗り換えたユーザーは、高機能なスマートフォンに慣れている。そうしたユーザーのハートに触れる製品を提供できたのが、評価につながったと思っています。
そこで今回より安価な価格帯の製品を出すにあたって、不要なものは不要で、本当に必要なものだけを搭載したものを選んでいます。スマートフォンはどんどん高価になっており、多くのユーザーが予算を気にしている。eシリーズは「使いたいものにお金を使う」というユーザーに向けた、バランスの取れた製品だと考えています。
――eシリーズの最新モデルにはmoto e5のほか、「moto e5 plus」「moto e5 play」の2機種も存在します。その中から日本市場に向け、moto e5を選んだ理由を教えて下さい。
アダモポウロス氏:市場調査で競合他社の製品を選ぶ理由を細かく見ていったのですが、確かに他社からSIMフリーで2万円を切る製品は出ているものの、OSのバージョンが古かったり、メモリー容量やカメラが十分でなかったりする製品が多い。そこでモトローラの製品ポートフォリオから、そのレンジに当てはまる製品を提供することにしたのです。
モトローラはグローバルで複数のシリーズの製品を展開しており、その中から日本市場に適切なものを投入しています。「Moto G4 Plus」の時はgシリーズの中の1製品でビジネスを組み立てましたが、「Moto G5」の時は2つの製品を持ってきました。そして、今年はどうするかと考えた時、2つの価格帯を分離しながらもビジネスが成立する形を考え「moto e5」を選んでいます。それぞれのプロダクトはチップセットやメモリー容量、カメラ、ディスプレー解像度などさまざまな面で違いがあります。価格だけでなく構成でも差異化できると考えています。
島田氏:これまで、市場ニーズを確かめながら製品投入を進めてきたのは事実ですね。最初にミドルクラスのgシリーズを投入し、そこからより上の価格帯の製品を出した後、今回はより下のeシリーズを投入しています。gシリーズの製品を購入してもらった後だからこそ、eシリーズにも納得してもらえるのではないかと考えています。
――moto e5は低価格ながらも指紋認証センサーを搭載しています。やはり低価格帯でも生体認証へのニーズは高いのでしょうか?
アダモポウロス氏:はい。消費者は技術に詳しく、自分のデバイスのプライバシーを守りたいという意識をもっています。年々セキュリティーは大事になってきていて、エントリーの価格帯でも簡単に認証できることが大事になってきていることから、搭載しています。
eシリーズはgシリーズの販売を上回るか
――eシリーズのほか、gシリーズに関しては昨年同様、2機種を投入しています。
アダモポウロス氏:Moto G5ファミリーは好評を得て、モトローラの中で最大の市場シェアを達成しました。そのストーリーを継承したいと考えています。また2年前に「Moto G4 Plus」を購入したユーザーが、新モデルへの買い替えを検討する時期であることから、moto g6ファミリーを投入するタイミングとしても、今がちょうどいい時期ではないかと思います。
――販売の中心は、やはりgシリーズになると考えていますか?
アダモポウロス氏:ボリュームが大きいのはgシリーズですね。他の市場を見ても、たとえばオーストラリアではgシリーズが6に対し、eシリーズが4の比率です。日本でも同じくらいの比率になるとの予測を立てています。
島田氏:私はeシリーズで、gシリーズとは違う顧客がモトローラにやってくると思っています。そしてeシリーズを使った2年後には、より充実したスマートフォンが欲しいと思い、gシリーズを購入使いたくなる。徐々にシフトが進んでgシリーズのほうが少し多くなるのではないかと考えています。
――moto g6とg6 plusは、デュアルカメラの性能をさらに強化しています。スマートフォンのカメラに関する競争が激化する中、どのような点に重点が置かれていますか?
アダモポウロス氏:この価格帯の他の製品を見ると、高画質をうたってはいるものの、それが静止画だけに限定されてしまっている製品が多いです。しかしながら、「moto g6」は動画も音声もキレイに撮ることができる。コントラストが良く、逆光下でもキレイに撮影できるのです。
また、gシリーズではカメラ体験を非常に重視しており、通常であれば5、6秒はかかるカメラの起動も、スリープ状態からジェスチャー操作ですぐ起動できる。静止画だけでなく、動画もインターフェースもすべてカメラ体験です。画質だけではない、シンプルで使いやすいことを追及しています。
――一般的に、ジェスチャーによる操作はあまり使われなくなる傾向が高いのですが、gシリーズではどうでしょうか?
アダモポウロス氏:(手首を2回ひねるだけで可能な)カメラの起動に関しては、95%のユーザーが使用しています。利用率の高い機能に対してシンプルなジェスチャーを取り入れており、1度使い方がわかれば便利だというのが、高い利用率を実現している理由です。ちなみに、カメラに続くのが背面のライトを点灯する(端末を2回振り下ろす)ジェスチャーで、91%の利用率を誇っています。
社長が「ゆるキャラ」化した理由
――最近MVNOの伸びが停滞しており、それがSIMフリースマートフォンの販売にも影響しつつあります。そうした状況下で、どのようにして販売を伸ばそうと考えていますか?
アダモポウロス氏:確かに、SIMフリー市場にはここ最近大きな変化がありました。ですがモトローラの業績自体は変わっていません。今後はむしろMVNOが盛り返す変化もあるでしょう。短距離走ではなくマラソンのような長距離走だと思い、持続的な事業を展開していこうと考えています。
私は日本での経験が長く、モトローラ本社にも10年間関わってきましたが、最初に学んだのは「失敗するなら早く失敗すべき」ということでした。そこでモトローラではSIMフリー市場への参入に際して3ヵ年計画を立て、最初の1年間は販売を一部のMVNOなどに絞り小規模で展開し、徐々に販売を拡大したことで、堅調なビジネスができ良いポジションを獲得できたと思っています。
島田氏:MVNOやEコマース経由で購入するユーザーは端末に触れる機会がないことから、量販店にまで販売を拡大し、直接触れて端末の良さを知ってもらえるようになったのは良かったと考えています。モトローラはまだ小さい会社なので、タッチ&トライイベント会場に社員が立っているのですが、参加者が喜んで詳しく話を聞き、コミュニケーションできるのがいいと感じています。そうしたタッチポイントを、もっと面で広げていきたいですね。
――MVNOでの販売はまだ一部に限られるなど、販路には課題があるように感じます。
アダモポウロス氏:今後も販売チャネルは継続して増やしていきます。特に「moto e5」は価格が安いので大きな助成金が必要なく、MVNOに適している製品だと思いますし、オンラインでのプロモーションには力を入れていくことになると思います。戦略があるので、それを実行していきたいと考えています。
島田氏:去年までauのVoLTEをカバーできていなかったのが、「Moto G5S」でカバーできるようになりました。それがauのネットワークを使ったMVNOに選ばれる上で、大きく貢献したと思っています。MVNOも厳しい状況にあるかもしれませんが、モトローラもミドルクラスだけでなく、より手ごろな価格の製品も出していくことで、いっしょに並走していきたいと考えています。
――ちなみに、国内でのプロモーションに当たって、アダモポウロス氏がモチーフの「ゆるキャラ」も登場しましています。なぜでしょう?
アダモポウロス氏:私は知らないよ!(笑) 18年のモトローラのキャリアの中で、キャラクター化されたのは初めてです。
島田氏:マーケティングチームがTwitterやFacebookを通じてファンとコミュニケーションする中で、ダニー(アダモポウロス氏)をキャラクターとして見て、手書きのイラストにするユーザーがいたのです。ファンの方から始まったものを、クールジャパン的な意味合いもあってきちんとやっていこうというので、動いています。どうしてもモトローラってオタク的であったり、尖っているというイメージがあったのですが、それだけでは駄目なので、あえて可愛い路線で行こうかなと(笑)
――十分尖ってると思います(笑) 本日はありがとうございました。