クラウド電話APIサービスの「Twilio」が日本上陸から5周年を迎えた。Twilioは同名の米スタートアップ企業が展開するサービスで、日本ではKDDIウェブコミュニケーションズ(KWC)が提供している。簡単に説明すると、電話の受発信やSMSの送受信といった、インターネットだけでは完結しない、通信事業者との接続が必要になるインフラ部分をクラウド化して、開発者がWeb APIとして利用できるようにしたものだ。
「コミュニケーション版のAWS」といえばわかりやすいだろう。実際、AWS出身のエンジニアであるジェフ・ローソンCEOは、「ユーザーとコミュニケーションできるアプリを作りたいと考えていた」ものの、「通信に対する知識や技術が足りず、実現できなかった」ことが創業のきっかけだったと以前のインタビューで語っている(関連記事)。サーバー構築や運用の知識がなくてもAWSを使えばすばやくインフラを調達できるようになったが、これと同じようなことを通信の世界で10年前にやろうとしたわけだ。
実際、TwilioはAWSと同じようにスピードを重視するスタートアップ企業に重宝され、業績を伸ばした。創業間もないUberはユーザー認証にTwilioのSMS認証を使い、Huluはコールセンターの構築にTwilioを採用している(関連記事)。
4月24日には、LINEとの接続を発表。メッセージング用API「Twilio Channels」がラッパーAPIとなって、LINEとFacebookメッセンジャー、Slackといったさまざまなチャットプラットフォームとのやり取りを単一のAPIで処理できるようになった。同日開催された5周年を祝うパーティに登壇した米Twilioのパトリック・マラタック氏は、その場でLINEのチャットボットを作るデモを披露。昨年リリースされた「Twilio Studio」というビジュアルエディターを使い、わずか5分ほどで、キーワードに対して反応するチャットボットを作って見せた。
KWCの青木宏憲氏によると、日本での業績は非公表だが、国内のトラフィックはこの2年間で2倍以上に伸びているという。これまでは開発者向けのサービスだったが、最近のリリースではStudioのような「ソリューション寄りのサービスが増えている」といい、従来の「クラウド電話API」という枠を超えた広がりがユーザーの拡大にもつながっているようだ。
振り返ってみるとTwilioが創業した10年前、あるいは日本上陸した5年前に比べて、電話を使う機会は激減している。電話に加えて、チャットによる問い合わせ窓口を設置する企業も増えた。それでも、電話が完全になくなったわけではない。だからこそ、Twilioのこの5年間の歩みもある面では「脱電話」を感じさせつつも、バラバラで煩雑になったコミュニケーション手段を1つに統合した基盤となるための着実な進化だといえそうだ。