音像定位が素晴らしい
ACRO S1000は基本的に50~60㎝程度の近さで聴く、ニアフィールド再生用の製品となる。典型的な設置方法としては、ノートパソコンやディスプレーを中央に置き、その左にACRO L1000、さらにその外側にS1000を置くイメージになるだろう。今回は「MacBook Air」にUSBでACRO L1000を接続。左右60~70㎝ほど離して設置したS1000の音を聴いた。
出力音圧レベルは87dB/mW。周波数応答は93Hz~40kHz。小ぶりのため低域の再生能力は抑え目だが、高域については、チタン振動板採用のスキャンスピーク製ユニットにより、ハイレゾクラスのワイドレンジとなっている。
まず驚かされるのは、音場の広さだ。正面に座って聞くと、左右60度ほどの角度で音が広がる。実際にスピーカーが設置されている場所よりもさらに外側まで音が広がっている感覚が味わえた。これはツィーターをウーファーより少しワイドに配置しているためかもしれない。
スピーカー設置では、ツィーターがちょうど耳の高さに来るのがよいとされている。本機をそのまま机に設置すると、見下ろす形となるため、理想を言えばしっかりとした台を利用して、高さを20~30cm程度、上にしたいところだ。個人の工夫でも改善できるが、純正でスタンドが出ればより手軽な気もする。
ヘッドフォン再生にないスピーカーの魅力と言えば、音像定位。実際の演奏を聴くのと同じように、前方からフォーカスのぴったりと合った音が鳴るのが理想だ。S1000はそんな期待にもしっかりと応えてくれた。これはニアフィールドリスニングの特徴でもあるのだが、音像がピンポイントで決まり、かつかなり深いところまで奥行き感が出ている。
定位がいいためか、音が特定の場所から鳴っている感じではなく、空間として響いているように思えた点も特筆しておきたい。まるでスピーカーが消えてしまったかのように、その位置をまったく意識させずに空間を感じられた。
宇多田ヒカルの「fantone」を再生してみたが、MacBook Airのかなり後方に3次元的な音場が展開され、画面よりさらに後方、数十センチ先に歌い手の像が浮かんできた。位置としては、左右のスピーカー位置を底辺にした正三角形の頂点あたりとなる。
位置関係は緻密で、曲をオーケストラ(ズヴェーデン指揮『春の祭典』から大地礼賛、オランダ放送フィルハーモニー)やビッグバンド(角田健一ビッグバンド『地下室のメロディー』)の再生に変えると、個々の楽器の位置がさらに明確化する。春の祭典では、左右1mぐらいの幅を持つサウンドステージ内に1㎝単位で、弦楽器や金管楽器などが緻密に配置されている感覚。正確性や明晰さという意味でも満足度が高い再生。地下室のメロディーは、水平方向に広がったストリングスと中央のぐっと奥まで切り込んだサックスの奥行き感の対比が印象的だった。