ラズパイを使い、高音質・高機能な単品コンポを作る
ラックスマンは、ワンボードオーディオ・コンソーシアムのボードメンバー。ワンボードオーディオ・コンソーシアムは、ラズパイなどシングルボードコンピューターを使ったハイレゾ再生機の筐体の仕様や規格を決めて、互換性を持ったモノやサービスを作ることをコンセプトにしている。オトトイ、共立電子産業、サエクコマース、ティアック、トップウィングサイバーサウンドグループ、バリュートレード、ブライトーン、ラックスマンが参画している。
ポータブル向けでは、すでに同団体の規格「π-A1」を採用し、HAT準拠のカードを収められるアルミ製ケース「CASE 01」や、HAT準拠のDACボード「DAC 01」が販売中。バリュートレードが「AVIOT」ブランドで展開中の製品となる。
一方コンソーシアムには「コンポーネントグループ」と呼ばれる据え置き機器を担当するグループもある。JU-01/02は、その最初の成果である。
なお、高周波ノイズ対策などを意図して、デジタル回路であるラズパイ本体とオーディオ回路を分離する考え方にしている。コンソーシアムでは、これをそれぞれDEJIA=出島(ラズパイ部)とSHIKISHIMA=敷島(オーディオ回路部)と呼んでいるが、その橋渡しとなるインターフェース部分をUKISHIMA=浮島として統一し、ライセンス供与していく計画があるという。
ラズパイオーディオ用の軽量Linuxディストリビューションも
同コンソーシアムの発足人でライターの海上忍氏は、シングルボードコンピューターのメリットとして、PCオーディオで一般的なUSB出力ではなく、I2S(アイスクエアエス)のサウンドバスに直結して音声信号を出力できる点を挙げる。DXDレベル(384kHz/32bit)の信号が通せること、Linuxを利用し、ハイレゾ再生にも余裕の性能を持つこと、そしてデジタル回路を新規に設計するより圧倒的に安価だとする。
また、ラズパイオーディオ向けに「1bc」という独自の軽量Linuxディストリビューションも準備している。標準(Raspbian)との違いは、ノーマルカーネルではなく、リアルタイムカーネルを採用している点だ。「経験則から、リアルタイムカーネルは、レイテンシーが少なく、ジッター抑制に効果があるため選んだ」(海上氏)とのこと。
音楽再生に使うMPD(Music Player Daemon)を最優先のプロセスに上げ、使用するコアの割り当ても決め打ちするといった調整を加えている。
ほかにも、OSの動作時にクロックを上げるか下げるか、適切な電圧を何かなどを聞き比べながら試行錯誤し、パラメーターの調整をしているそうだ。DLNAにも対応。OpenHomeで手元にプレイリストを保存できる。コントロールは、アイ・オー・データ機器の「fidata Music App」やルーミンの「LUMIN App」、LINNの「Kazoo」といったスマホアプリが使える。
「音質向上にはコンフィギュレーションの試行錯誤が欠かせない。音の調整をしないとダメ。ラズパイだから音がいいとか、リアルタイムカーネルだから音がいいということではなく設定やパラメーターの詰めが必要」(海上氏)。
OSの違いや外部クロックによる音の変化をデモ
ラックスマンの試聴室で、プリメインアンプのラックスマン「L-509X」やフランスフォーカルのスピーカー・UTOPIA III EVOシリーズ「Scalla Utopia EVO」を使って、OSによる音の違いや、外部クロック入力による音の違いなどをデモした。
組み合わせる機器のクオリティーもあり、素の状態でも堂々とした再生。能力の高さが引き出されていた。情報量が豊富で、ハイレゾ音源の持ち味がよく引き出されていた。
JU-01ではUSBメモリーからラズパイのOSをブートする形をとっている。これを標準から1bcに変えると、アナログ的で優しい感じになった。ソースからトゲトゲしさが消えて、音が滑らかになる。例えばボーカルの再生は、子音の硬さや発音時のノイズなどが目立たずなじむ。温度感があり、ニュアンスが豊富で、全体にウォームな感じのまとまりになった。
一方、外部クロックのエソテリック「G-02X」に変更すると、芯があって、重心のはっきりとした、メリハリ感のある音になった。なまりや濁りが消えた、いかにもHi-Fiオーディオ的な再生だ。
音に関しては好みもあるので、ぜひ聴き比べてほしいが、一般的なプレーヤーと比較しても、一皮むけたような明晰な表現がある。JU-01のポテンシャルを感じる部分だ。
訂正とお詫び:外部クロックのメーカー名に誤りがあったため修正しました。(2018年3月8日)
より手軽な、差すだけのUSB再生もデモ
コンソーシアムでは、さらにより手軽な再生を実現するため、ラズパイにexFATでフォーマットしたUSBメモリーを差せば自動再生、抜けば停止する「Music Plug&Play」の機能も提案中だ。
オトトイ代表取締役の竹中直純氏が試作したプログラムを利用し、デモも行われた。
USBメモリーはOSからデータを書き込まず読み込むだけであるためソフト的にも電気的にも安全。今後は曲順設定をしたり、ランダム再生ができるようにするなど、再生機能を強化していきたいとのこと。曲順設定で一番簡単なのはm3uファイルに書くことだが、ランダム再生などに対応したプレイリスト形式は現状で存在しないので、フォーマットを含めて考えていく必要がある。
「USBメモリーで著名なアーティストが楽曲をリリースすることはあるが、このレベルで簡単に再生できるものはない。逆に売っては見たものの、どうやってPCに移したり再生したらいいかという質問が殺到してサポートが困る面もあった。こういった仕組みが普及するのはアーティストにとってもメリットになる」(竹中氏)
また、海上氏が自作したスキルを利用した、Alexa連携機能も披露した。ラズパイはLinuxベースであり、機能拡張を時間をかけず取り入れられる点も利点だという。
ワンボードオーディオ・コンソーシアムの設立から1年。ラズパイを使ったオーディオ機器開発はまた一歩進んだようだ。