2018年2月26日、セールスフォース・ドットコムは「『働き方改革』のその先にある働きがいのある会社の創り方」と題したプレスセミナーを開催。リンクアンドモチベーション執行役員の麻野耕司氏をゲストに招いて従業員エンゲージメントの重要さをアピールするとともに、従業員のエンゲージメントを向上する同社のプラットフォームについて説明した。
従業員エンゲージメントの向上は21世紀企業の共通課題
昨年を代表するキーワードにも選ばれた「働き方改革」。国内市場の縮小と少子高齢化を前提とした人材不足から、今後日本が持続的な成長を実現するには従業員1人あたりの生産性向上が喫緊の課題となる。こうした生産性向上の鍵となるのが、「従業員エンゲージメント(Employee Engaement)」になる。
従業員エンゲージメントとは企業に対する従業員の関わり方を指す用語で、エンゲージメントの高い社員は「仕事に対してより深い関心を持ち」「自らの意思で積極的に関与し」「付加価値を向上すべく、主体的に行動する」という。こうした関係は従業員の満足が高ければ、顧客満足もおのずと高くなり、ひいては業績向上の原動力となるという因果関係は「サービス・プロフィットチェーン」というフレームワークとしても知られている。セールスフォース・ドットコムの伊藤哲志氏は、「現在、消費者が商品を買うとき、安いから買うのではなく、商品に強く関わっている人から買う。これがエンゲージメントの本質ではないか」と指摘する。
こうした従業員エンゲージメントの重要さを語ったのは、人事コンサルティング会社大手のリンクアンドモチベーション執行役員の麻野耕司氏。同氏は大前研一氏の「20世紀の経営は、人・モノ・金だったが、21世紀は人・人・人」であるというフレーズを引用しながら、企業における人材の重要性をアピール。一方で、労働市場は流動化しており、適切な人材の採用と定着がきわめて難しくなっているのも事実。会社が人を選ぶのではなく、人が会社を選ぶ時代、労働市場への適応は企業の至上命題になっているという。
こうした中、従業員エンゲージメントはグローバルにおいて経営のキーワードになっており、企業は従来のような給与や設備、福利厚生だけではなく、風通しのよい風土や仕事のやりがい、魅力的な経営陣、明確な理念、ブランドなどさまざまな要素が必要になってくる。しかし、従業員エンゲージメントを高めれば、退職率の抑制や生産性の向上を見込めるとともに、顧客満足度や戦略実行度も高められる。実際、リンクアンドモチベーションと慶應義塾大学ビジネス・スクール岩本研究室との共同研究でも、従業員エンゲージメントの向上と売り上げ・純利益がリンクしている傾向が得られたという。
これからの企業と個人は「選択できる」関係へ
安倍政権が重要課題と位置づける働き方改革だが、麻野氏は掲げられた9項目のうち「長時間労働の是正」にのみフォーカスが当たっているのではと警鐘を鳴らす。「確かに労働時間の適正化が必要だが、働き方改革はそれだけにとどまらないはず。このまま単なる『ゆとり労働』になりかねないのではと危機感を持っている」(麻野氏)。その上で、人口と生産性を掛け合わせたGDP(国民総生産)を今後も向上させるのであれば、労働時間の適正化や多様化する労働形態への対応に加え、生産性の向上により注力すべきだという。
とはいえ、生産性の向上に寄与する従業員エンゲージメントに関して調べると、雇用状況に満足している社員の割合が24ヶ国最下位(エクスペディアジャパン調査)。人手不足という認識はあるものの、「採用にだけお金をかけ、出口(離職抑止・定着)に力を入れていない企業も多い」(麻野氏)という。
こうした状況を解消し、エンゲージメントを高めるポイントとしては、「体重計なしにダイエットは難しい」(麻野氏)ということで、まずは数値化したモノサシを組織内に持ちこむこと。その上で、人材の採用だけではなく、育成、風土、制度など全方位的に施策を進める必要があるという。
「今まで企業と個人は相互を拘束する関係だったが、これからは相互を選択できる関係にならないと、システムとして維持できない。そのためには新しいマネジメント手法が必要になる」(麻野氏)。
働きがいのある会社になるための3つのステップ
CRMというプロダクトで顧客のエンゲージメントを向上させてきたセールスフォースとしては、テクノロジーによって従業員エンゲージメントも高められるとする。いわゆるERM(Employee Relation Management)という分野で、約2年前に「Salesforce for HR」として発表されたイニシアティブに、AIを用いた「Einstein」やコラボレーションツールの「Quip」などを取り込み、今も進化させているという。
後半、壇上に戻ったセールスフォース・ドットコムの伊藤氏は、働きがいのある会社になるまでの道のりを披露「ワークスタイルの確立」「ライフスタイルの確立」「イノベーションの創出」という3つのステップで、労働効率や従業員エンゲージメント、個人の価値を上げていったという。
まずワークスタイルの確立に関しては、マーク・ベニオフCEOから発表される「V2MOM(Vision,Value,Methods,Obstracts,Measure)」を企業文化として浸透させつつ、業務プロセスをプロセスビルダーで管理。ライフスタイルの確立に関しては、さまざまなデバイスを用いたリモートワークはもちろん、社員ごとにカスタマイズされた従業員ジャーニーを設計している。最後のイノベーションの創出においては、社内SNSの「Chatter」やQuipを用いることで情報格差をなくし、自律的なコラボレーションを促進できる環境を実現しているという。
こうした一連の働き方改革の結果として、仕事を完了するための役割や仕組みを自ら整えるという社員は96%におよび、3年後も在籍すると答えた社員も89%におよぶという。また、セールスフォースを他人に推薦する意思がある社員も87%となり、実際新入社員の55%が社員の紹介により入社しているという。さらに「VORKERS AWARDS 2018」の働きがいのある企業ランキングでも1位に選ばれ、先日発表されたGreat Place to Work 2018でも大企業部門で4位に輝いた。
同社の従業員エンゲージメントソリューションを導入する企業も増えており、社員と派遣スタッフの健康管理を実現したパソナや週休3日制を導入しつつ、売り上げを2倍に上げた老舗旅館の陣屋の事例も披露された。