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ITによる課題解決が披露されたkintoneCafé大阪 立命館大学Special

立命館大学の学生がkintoneで挑んだNPOの課題解決

2018年02月22日 09時30分更新

文● 重森大

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多数のファイルで個別管理されていた情報の一元管理で業務効率化を実現

 NPO法人兵庫セルプセンターは、障害福祉事務所の中間支援を行う団体。行政や企業から仕事を受注し、福祉事業所に業務斡旋を行なっている。啓蒙や障害を持つ人が作った製品の販売会などイベント開催も多く、法人内にはそれぞれの業務に関する情報が大量に蓄積されていた。

 業務を斡旋するためには福祉事業所の情報を把握しなければならない。障害を持つ人が何人所属しているのか、それぞれのスキルレベルはどの程度なのか。業務を斡旋するために必要なこれらの情報は頻繁に変わり、そのたびにファイルは書き換えられる。新人は事業所の情報把握だけで時間がかかるという。

 兵庫セルプセンターを担当したチームは、個別に管理されていた情報をメインリストと呼ぶアプリにすべて集約し、一元管理する仕組みを作った。各業務で使うアプリでは、ルックアップ機能でメインリストの情報を引き出して利用して入力の手間を省くとともに、どの業務でも最新の情報を簡単に間違いなく参照できるようにした。

 兵庫セルプセンターからは、堂前健太氏が来場しており、次のように講評を述べた。

「たくさんのファイルがメインリストで一元管理できるようになったことだけでも、かなりの意義があります。これらのリストは、県職員でも一元管理できていなかったものです。毎年開催するセミナーでは、昨年のファイル、一昨年のファイルといくつものファイルを参照しながら資料を作っていましたが、一元管理されたことでとても便利になりました。入力回数も手間と感じないレベルです」(堂前氏)

NPO法人兵庫セルプセンター 堂前健太氏

アプリ開発を通して実感した初期要望と現場とのギャップ

 NPO法人み・らいずは、障害を持つ人の地域生活支援を行なっている。ヘルパーの派遣や就職支援、障害を持つ子供の放課後居場所づくりなど、支援活動は多岐にわたる。すべての活動は、支援を求める人との面談時に作成するフェイスシートから始まる。これには住所や氏名、障害の内容や程度などの情報が記載される。その後受け入れが決まれば、個人ごとにアセスメントシートが作成される。面談で得た基本的な情報のほか、活動履歴、支援履歴などが記入されるため更新が多い。

 み・らいず担当チームは当初の要望を元にアプリを開発しながら、現場に足を運んで実際に働く人の声にも耳を傾けた。更新が多く情報が多くなりがちなアセスメントシートでは項目を減らしたり選択式にすることで入力の省力化を検討していたが、実際に現場で耳にしたのは正反対の声だった。事業部間の情報共有や、これまでに学校、職場でどのような経験をしてきたのか、入力の手間がかかってもいいので可能な限り細かく記載されている方が助かると言われたのだという。こうした声を受けてアプリも方向修正され、項目数を増やし、自由記入欄も設けた。

「窓口となって最初に要望を伝えてくれた人と、実際に現場で働く人との観点の違いを肌で感じることができました。やはり現場の人の方が細かい要望を挙げてくれます。このアプリで問題ないという言葉を最後にもらえたのは、そうした現場からの声を反映できたからだと思います」(み・らいず担当チーム)

 初期の要望と現場で使う人の要望との間にギャップがあるというのは、実際にITを使った業務改善においてよくあることだ。現場に足を運ぶことでそうした現実を実感できたのは、いい経験となったに違いない。

技術的な難しさばかりがアプリ開発のハードルではないと気づいたチームも

 社会福祉法人ぷろぼのは奈良市を中心に就職支援、相談支援、働く場づくりを通して、障害を持つ人の経済的自立を助ける団体だ。障害を持つ人が暮らしやすいまちづくりも、活動の一環となっている。ぷろぼのから挙げられた課題は、奈良市にある社員食堂「ぷろぼの食堂」におけるメニュー管理だった。

 拠点事業所内にある8事業所の利用者が昼食をとるのが、ぷろぼの食堂だ。提供される食事は日替わりメニューとカレーライスの2種類。希望者は9時半までにkintoneを使って日替わりメニューかカレーライスかを注文する。食品アレルギーを持つ利用者向けに日替わりメニューのアレルギー情報も提供する必要があるが、従来は紙で張り出したり口頭で伝えたりすることで精一杯だったとのこと。

ぷろぼの担当チームの発表風景

 ぷろぼの担当チームはこの課題を解決するため、メニュー管理アプリを開発。他のチームが入力の省力化に腐心するのと対照的に、ぷろぼの担当チームはアレルギー情報の入力においてあえてルックアップなどの機能を使わず手入力にこだわった。さらにその後、入力済みのデータを管理者が確認するという2段階の手間をかけている。そしてもちろんこれには理由がある。

「レシピのデータはテキストデータとして届き、合わせてアレルギー情報が届きます。これをデータ入力したのちに管理者がデータを確認します。人手を介する作業をあえて繰り返すことで、アレルギー情報の抜け漏れを避ける意味合いがあります」(ぷろぼの担当チーム)

 できあがったアプリでは注文前にアレルギー情報を確認でき、問題なければそのまま注文に進めるようになった。IT観点では難しいシステムではないが、アレルギー情報という生命に関わる問題だけに、慎重な対応が求められた。こちらはアプリ構築に関して技術面以外にも気を配るべき点があるという意味で大きな学びにつながったのではないだろうか。

求められる機能を想像して独自の工夫を凝らし、NPO法人にヒントを

 NPO法人G-netは岐阜を中心として学生や社会人と地域企業との間に立ち、インターンシップの仲介を行なっている。見込み企業の開拓、インターン希望者との面談を通じて、インターン先のマッチングを行う。課題は、データ管理まで手が回らず情報共有できていなかったこと。さらに、データを整理することでマッチングしやすくなればなおいいという要望も挙げられた。

 G-net担当チームは学生情報を管理するアプリと、企業情報を管理するアプリを開発。このときに工夫したのが、マッチングにつながる情報を盛り込むことだ。具体的な手法としては、学生側と企業側が求める情報を網羅したマッチングアプリを別に作り、学生情報、企業情報からルックアップ機能をつかって取り込んでいる。同じマッチングコードが入っている学生と企業は、相性がいいとわかる仕組みだ。うまいのは、マッチングアプリに埋め込まれている情報の書き分け方だ。同じマッチングコードにひもづく表現が、企業視点と学生視点で書き分けられているのだ。たとえば企業視点では「独立志望歓迎」という項目が、学生視点では「将来のステップアップにつながる」となっている。

企業側、学生側で書き分けられたマッチングアプリ項目

 会場を訪れていたG-netの荒木陽一氏は、同NPO法人でSalesforce.comの導入を検討を続けていることを明かしつつ、こう講評した。

「私たち自身がクラウド導入を検討中で仕様策定を進めている段階だったので、マッチングやログに関する機能についてはうまくアドバイスできませんでした。そのような中で学生さんたちが工夫して作ったマッチングの仕組みは、私たちにいいヒントをくれたと感謝しています」(荒木氏)

 通常業務が忙しくなかなかフィードバックの時間を取れなかったことを反省していると言う一方で、業務が忙しいのは当たり前、もっとがっついて質問してきて欲しかったと要望も付け加えた。

NPO法人G-net 荒木陽一氏

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