糖尿病における医療課題解決策を競うコンテスト「Diabetes Innovation Challenge」が開催された。グローバルヘルスケアカンパニーで、日本では糖尿病薬をはじめとした医療薬品を提供するMSDが、糖尿療病域における医療課題の解決策となるビジネスプランを募集。テーマは「Beyond the pill」。医薬品提供の価値をより高めるとともに、医薬品提供にとどまらないサービスやソリューションの提供で社会に貢献することを目的とした、スタートアップ企業向けのビジネス支援プログラムとして開催された。
コンテストの主催者であるMSD 執行役員 クリス・リージェント氏は開催の狙いについて次のように説明した。
「糖尿病患者数は、80年代にはグローバルで1億人程度だったが、2014年以上には4億人以上に増加している。日本でも肥満が大きな問題になっているが、遺伝型よりも、生活習慣病、それにともなうインスリン分泌などが原因の人が多い。その原因は食事の欧米化で、日本では700万人が糖尿病と診断されていが、実際には1100万人の潜在患者が存在するといわれる。MSDは今後も糖尿病治療に貢献したい。だが、食事改善、運動せずにただ薬だけ飲んで、疾患を治すのは難しい。薬+何らかのライフスタイルに影響するものがいると考える。今回のコンテストはそのための取り組み」
コンテストのテーマは次の3つ。このうちいずれか1つを解決するビジネスプランが募集された。
1.健康診断等の受診率向上
2.糖尿病が疑われている人の医療機関受診率の向上
3.糖尿病薬の服薬アドヒアランス(服薬順守)不良の改善
医療に関連したビジネスプランを募集するコンテストだが、今回、あえて医療従事者は応募不可として、学生や会社員、起業家を対象とした。MSDがこうした取り組みを日本で開催するのは初めてだが、23件の応募が集まった。最終審査会には、応募の中から選ばれた5つのビジネスプランが登場し、熱い思いがつまったプレゼンテーションが行なわれた。
最優秀賞を獲得したのはエーテンラボ株式会社「みんチャレ」。優秀賞には、株式会社プライム・ファクターズの「ロボホンとHarmoをつかった服薬管理システムの構築」が選ばれた。
最優秀賞、優秀賞を受賞した2つのプランには、MSDからメンタリングが提供され、ヘルスケア業界からの知見の提供や医師、医療機関へのコンタクトチャンネルの提供、さらにヘルスケア業界が持つ課題や、医療従事者や患者側の視点といったヘルスケア業界の専門知識と規制を理解するためのアドバイスが提供され、ビジネス化に向けた支援が行なわれる。
また、審査員から、「非常に興味深いソリューションということで審査の中で注目されたが、今回のコンテストでは糖尿病との関連性が薄い」ということから、MSDアライアンス賞として、九州ビジネススクール「歯っぴ~歯ブラシをIoTでつなぐ」が選ばれた。
審査員長である、順天堂大学 名誉教授の河盛隆造氏は、「ウィットに富んだ素晴らしいプレゼンで、今日のことは若い医師にも伝えていきたい。糖尿病は世界で急増しているが、日本には検診制度があり、患者を発見しやすい環境にある。ところが、糖尿病であることが発見されても無視する人が多い。今回、合計では23の素晴らしい提案をもらって、こうすればよいのかというヒントを頂いた」とコンテスト開催には大きな意義があると話した。
シンプルだが応用性ある点が評価されたエーテンラボ
最優秀賞を獲得したエーテンラボの「みんチャレ」は、三日坊主防止アプリとして開発された。習慣を身に着けたい人5人1組がチームを組み、チャットで励ましあうことで三日坊主に終わってしまうことを防止する。
エーテンラボの長坂剛氏は、「製薬メーカーから、さまざまなアプリが出ているものの、ほとんど使われていない。みんチャレは、5人でチームを組むことで、通常の8倍習慣化しやすくなるという実績がある」とこれまでみんチャレがアプリとして積んできた実績をもとに糖尿病薬飲み忘れに効果を発揮するとアピールした。
チームを組む5人は匿名で参加することになるので、参加者は個人情報を知られることなく参加できる。また、6人目のメンバーとして、医療機関の関係者などがチャットに参加してアドバイスを行なうこともできるので、投薬の重要性、運動療法の実践など、糖尿病患者に必要な情報を提供していくことにつながる。
また、利用開始段階で医療機関から働き掛けを行なうことで、これまでアプリを使う習慣がなかった利用者がアプリを使い始めるきっかけになるという。高齢者でもスマートフォンを利用する人が増えていることから、幅広い年齢層に利用してもらえるのではないかと訴えた。
仕組みとしては他社でも真似できそうに思えるものの、ユーザーが長いことアプリを使い続けるよう、細かい設定を行なっていることから、「実は簡単に真似することができない」と長尾氏はアプリ提供を続けている企業として自信を見せた。
審査員からは、「私たち医療スタッフが日ごろ行なっている指導内容を、スマホの中に閉じ込めたよう。高齢者にアプリを使ってもらう際にも、権威ある医師が勧めることで使ってもらいやすいのではという点も、非常によいアイデアだと感じた」(盛岡大学 栄養学部 栄養学科 木村京子氏)、「長年の課題であるアドヒアランス向上に対し、スマホという現在のテクノロジーを使って解決に取り組む方法だが、やっていることはシンプルで、応用も色々と考えられる。発展性、可能性を感じた」(グローバル・ブレイン ベンチャーパートナー 石榑智晃氏)と評価した。
エーテンラボの長坂氏は、最優秀賞獲得の喜びを、「弊社のアプリは習慣を根付かせることに特化したもの。できれば、診断されたら、とりあえずみんチャレを使い始めるというサイクルを作りたい。今回、ビジネスプランを考えるためにMSDについて色々と調べさせてもらったが、糖尿病といえばまず名前が出てくるのがMSDだった。連携させてもらうことで大きなメリットが生まれると確信している」と話した。