JAWS FESTAで小島英揮さんが語るVRへの不可避な流れ
Webやモバイルアプリの開発者はなぜVRに注目すべきか?
2017年11月22日 10時30分更新
パラレルキャリアの道を歩んでいることでも有名な小島英揮さん。今回はInstaVRのエバとしてJAWS FESTA 中四国に登壇してくれた。「Web/モバイルアプリデベロッパーが、今VRに注目すべき理由」と題して、VRコンテンツが増えていく不可避な流れと、そんな中でエンジニアやクリエイターはどのようなノウハウを身につけるべきなのか、InstaVRの紹介も交えながら語った。
クラウド、モバイル、その次にVRが来るのはエコシステム連鎖の不可避な流れ
小島さんは、ここ10年ほどの間にIT業界で起きたさまざまなブレイクスルーの歴史をひもとくことから、セッションをスタートした。2006年に、AWSが商用サービスとしてクラウドコンピューティングを提供し始めた。それより以前からレンタルサーバーやホスティングのビジネスは一般化しており、技術的なブレイクスルーが起こった訳ではなかった。そこで起きたのは、調達のブレイクスルーだ。必要なときに必要なだけリソースを確保でき、使った分だけのコスト負担で済む。コンピューターの使い方の革新が起きたのだった。
「クラウドが普及したことで、必要な環境を必要なときだけ使えるようになり、試行錯誤をしやすい土壌が生まれました。これにより進化したのがモバイルであり、ビッグデータです。モバイルの普及により、Webコンテンツの閲覧スタイルも変わりました。そのひとつとして、VRが注目されている訳です」(小島さん)
VRが注目されるためにモバイルが必要だったのはなぜか。それは、既存のVRコンテンツ視聴環境を見てみればよくわかる。ハイスペックなPCに、専用のゴーグル。それぞれの機器に合わせて作り込まれたコンテンツ。制作にも閲覧にも高いコストを要求するのが、これまでのVRコンテンツだった。
「しかし、いま皆さんの手元には高性能な端末があります。そう、スマートフォンです。これに簡易なゴーグルを取り付けるだけでVRコンテンツを閲覧できるようになったのです」(小島さん)
小島さんは、Amazonで百数十円で購入したという簡易的なVRゴーグルを見せながらそう語った。左右の視野を区切ってレンズで広い視野を演出するだけの簡単なガジェットだが、それでも十分な没入感を得られるという。考えてみれば、集中して読書をしているときには、周囲のことは目に入らない。小さい画面とはいえ、スマートフォンで動画に見入っているときもそうだ。それよりも、VRコンテンツの再生がWeb技術に組み込まれたことと、高性能なスマートフォンが広く普及したこと。この意味が大きいのだ。
「VR、AR、MRは、技術的には新しいものではありません。コンテンツを作って配信して、みんなが閲覧できるようになった、つまりVRのエコシステムができつつあるからこそ、いま注目されているのです」(小島さん)
VR、AR、MRってどう違う? スマートフォンとの親和性は?
VRと切っても切り離せないくらい近い技術として、AR、MRがある。ARは技術的な難易度が低く、スマートフォン普及初期からいろいろなアプリで活用されてきた。古くはセカイカメラ、最近ではポケモンGoがわかりやすい例だろう。
「ARよりもVRの方が没入度は高いけれど、周囲との同期性はなく、2DのWeb的な感覚でコンテンツをつくれます。MRは周囲の現実世界と同期し、リアルタイムに処理されるので技術的に最も難易度が高く、3D的な作り込みが必要です」(小島さん)
こうした違いから、「VRは2DでWeb的」だと小島さんは分類。実際、Webコンテンツに360度画像が埋め込まれているのは珍しくなくなっており、納得感がある分類だ。
「VR市場の中でも今後伸びていくと言われているのは、ハードウェアよりもソフトウェア市場です。より高い没入感を得られるVR専用ハードウェアは、ゲームや高品質なコンテンツを楽しむための市場としてこれからも成長するでしょうが、VRコンテンツ市場にはそれよりさらに大きな期待が寄せられています」(小島さん)
その市場に食い込んでいくために、2DでWeb的なVRコンテンツは、制作する側にとっても視聴する側にとってもハードルが低いものということになる。だからこそ、小島さんは「スマートフォンが普及したいま、Webの次にVRが来るのは必然」と言い切る。Webが情報を共有するものだとすれば、VRは体験を共有するものだと小島さんは言う。その違いは、360度カメラの画像をぐりぐりと動かしてみたことのある人なら感覚的に理解できるのではないだろうか。また、「VRで体験を共有する」ことのメリットを示すために、小島さんはある不動産紹介のサイトを例に挙げた。
「物件をわかりやすく紹介するために、2LDK程度の部屋であっても30枚くらいの写真を用意します。物件を探している人は、数十枚の静止画をあたまの中で結びつけて、部屋全体のイメージをつかもうとしますが、結局最後は内見に行く方が早いってことになります。ところがVRなら、各部屋1枚ずつの写真で部屋の隅々まで、レイアウトを感覚的につかむことができるようになるのです」(小島さん)
利用コストも学習コストも低いInstaVRでコンテンツづくりを初めてみよう
VRコンテンツ市場の成長が期待されていると言われつつ、VRコンテンツが巷にあふれていないのはなぜなのか。それは前述した通り、VRコンテンツは制作にかかるコストが高いからだ。プログラミングスキル、高価な編集環境を揃えなければならない。
「それに加えて、既存のVR機器向けコンテンツはプログラミングで作り込んでいくので、作り始めるまえの仕様策定を細かく煮詰めなければなりません。これも、コンテンツづくりのハードルのひとつと言えます。InstaVRはこれらのハードルを解消したVRコンテンツ用のCMSです」(小島さん)
InstaVRで作れるのは、WebコンテンツのVR版だ。360度カメラで撮影した静止画や動画にリンクやタグ付けをして、他のページにジャンプしたり、ポップアップ表示を出したりするこができる。プログラミングスキルも、専用の編集環境も不要。作成したコンテンツはWeb向け、Android向け、iOS向けなどに出力できる。できあがったコンテンツを手軽に修正できるので、ユーザーの反応を見ながらPDCAサイクルを回せるというのは、仕様をがっちり決めてしまったら改変が難しかった既存のVRコンテンツとの大きな違いと言えるだろう。
「InstaVRはクラウドベースで無料でスタートできます。無料版であってもバックエンドではAWSを使ったレンダリングが走っている訳ですが、そこはInstaVRが負担しちゃうんですね」(小島さん)
InstaVRのロゴが表示されるなどいくつかの制約はあるものの、デジタルモックアップを作ったりVRでできることを感覚的に学んでみるには十分だ。また、登壇後の小島さんからデジタルモックアップの使い道について興味深い話を聞いた。
「2Dコンテンツはこれまでにたくさんあるので、プログラミングやコンテンツ制作の道に進みたいと考える人の頭の中には『あのゲームみたいなものを自分で作りたい』というイメージがあります。でもVRコンテンツはまだ数が少なく、どんなことができるのか、どんなものをつくりたいのか、イメージを描ける人が少ないんですよ。だからデジタルモックアップを作ってみてほしいんです。触れているうちに、自分が作ってみたいコンテンツ像が浮かんでくると思います」(小島さん)
実はこのお話、これからVRをさわってみたいと言っている次男のために質問した筆者へのアドバイスとしてもらったもの。ついでに、質問者にプレゼントされる簡易VRグラスもいただいてしまった。帰宅後、次男に速攻で奪われたのは、言うまでもない。
この連載の記事
-
第9回
デジタル
なぜAmazonはマイクロサービスに舵を切ったのか? -
第8回
デジタル
ウェブクリエイターズ高知の杉本さん、コミュニティ作りを語る -
第7回
デジタル
武闘派CIOが「コミュニティに参加する理由」を経営理論からひもとく -
第6回
デジタル
AWS+kintoneの高知発IoT事例は勉強会のスライドがきっかけ -
第4回
デジタル
娘の前で語った沖さんのマルチコミュニティ活用術がナウい -
第3回
デジタル
松山の参加者3人は東京の600人!Agile459懸田さんが叫ぶ -
第2回
デジタル
JAWS FESTAのメインイベント?懇親会のLTerはみんな叫ぶ -
第1回
デジタル
JAWS FESTAなう!全国のコミュニティメンバーが松山に大集合 -
デジタル
今年は松山!JAWS FESTA 2017レポート - この連載の一覧へ