先日スマートスピーカーで子どもが楽しそうに遊んでいる海外の動画を見かけました。
今年のクリスマスから日本でもそんな光景が見えてくるのかなと思いつつ、実際そんなに遊べるサービスはまだ市場にないのでは? と感じていましたが、ポケモン社が8日に発表したスマートスピーカーアプリ「ピカチュウトーク」は1つのキラーサービスになりそうです。
ピカチュウトークは、Google Home、Amazon Echoで、ポケットモンスターに登場するキャラクター・ピカチュウとおしゃべりできるサービスです。Google Homeなら「OK Google」、Amazon Echoなら「Alexa」と呼びかけたあと、「ピカチュウと話したい」というとピカチュウを召喚してくれます。スマートフォンのアプリとちがい、ダウンロードやインストールは必要ありません。電話で「117」を押すと時報が流れるような感覚ですね。
ピカチュウは基本「ピカ~」「ピカチュウ」という鳴き声しか出しませんが、鳴き声のパターンは様々です。「ピカチュウ、10万ボルトだ!」と話しかけると「ピィ~~……カチュウゥゥゥ!!」とさけんだり、「今日誕生日なんだ」と話しかけると「ピッカ(ハッピ)ピーカー(バースデー)ピーカー(トゥーユー)♪」と節をつけて歌ってくれたり。数百種類の呼びかけに、100種類以上の音声を返します。今後アップデートもあるそうです。ゲーム版ポケモンのプレイヤーなら思わずうれしくなってしまうようなサプライズも用意しているということ。色々試したくなりますね。
グーグルが9日に開催した「Actions on Google」(Google Home向けサービス開発環境)説明会にはポケモン社の新藤貴行氏、小川慧氏が登場し、なぜピカチュウトークを開発したのかを語りました。ポケモン社の社是は「ポケモンという存在を通して現実世界と仮装世界の両方を豊かにすること」。スマートスピーカーはポケモン社がめざす2つの方針にマッチしていたそうです。
2つの方針とは、「最新技術で新しいエンタメを生み出す」「間口を広く、奥行きを深くとる」。スマートスピーカーという最新技術を使い世界中のさまざまな人にポケモンのコンテンツを楽しんでもらいたいと考え、ピカチュウトークを開発したそうです。開発で心がけたのは「声で真剣勝負」。簡単に使える一方、「ピカ」と「チュウ」の音声だけでどこまで世界観に奥行きを出せるかにこだわり、面白法人カヤックと、アニメ版ポケモンテーマソング作詞家・戸田昭吾さんの協力を得て、サービスを開発していったということ。
ようするにポケモンはブランドプロモーションのためにピカチュウトークを作ったということですが、他社はどうなのでしょうか。ピカチュウトークのようにGoogle Homeから呼び出せるActions on Googleサービスは、Ameba、SUUMO、食べログ、ホットペッパーグルメ、楽天レシピなどが提供中。たとえば料理のレシピが知りたければ楽天レシピを呼び出して使うといった形です。グーグルを介して自社サービスを使ってもらう情報ポータル的な意味合いが強そうですね。
Actions on GoogleはGoogle Playとちがって、サービス上で有料アイテムを販売したり、広告を入れて収入を得たりといったお金儲けはできません。冒頭に時報といいましたが、通信料金さえ払えばだれでも利用できる無料サービスです。一方、時報なら「117」というように、どんな呼び出しコマンドでどんな機能があるかは、ユーザーがどこかで探さないと見つかりません。ディスプレイがないスピーカーでどうやって目当てのコマンドを使ってもらうかは今後の課題になりそうです。
こうしてActions on Google対応サービスを見ていくと、ピカチュウトークは本当によくできたサービスだなと感じました。なぜかといえば「ピカチュウと話ができる」以外何もできないからです。
最初はユーザーの位置情報にもとづいてピカチュウが天気予報を教える機能をもたせるアイデアもあったそうですが、それではピカチュウではなく機能が主役になってしまいます。「10万ボルト」でスマートスピーカー対応ライトを光らせるアイデアもありましたが、やはり実装見送り。気持ちよくピカチュウと会話する方法を徹底的に追求してできたのがピカチュウトークです。
新しい技術でこんなこともできると言われるとそちらに目を向けがちです。しかし実際スマートスピーカーに話しかけたいと感じるのはピカチュウと話すのが楽しいからで、それ以外の要素が入るとむしろ邪魔になってしまいます。子どもをはじめとする利用者に楽しんでもらうことだけを考えて、声という本質だけを追求したのはさすがだなと感じました。
機能的にはたとえばAmazon Echoユーザー限定で音楽聴き放題が月額980円から月額380円に下がるというのも魅力的なのですが、AIやロボットはむしろ便利さや機能性といった概念から離れたところ、愛に価値があると感じます。とくにスピーカーにできることは音声を出すことだけなので、ピカチュウトークはスマートスピーカーの価値を最大限引き出すサービスではないかとも感じました。
実際に子どもが楽しんでくれるかどうかはわからないのですが、とりあえずわたしはサプライズを探すべく、今から候補リストの準備をはじめています。
書いた人──盛田 諒(Ryo Morita)
1983年生まれ、家事が趣味。0歳児の父をやっています。Facebookでおたより募集中。
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