業務を変えるkintoneユーザー事例 第13回
見えなかった進捗を生産拠点と共有したクラボウインターナショナル
バングラディシュと日本をつなげたkintone製の生産管理システム
2017年08月14日 07時00分更新
6月16日のkintone hive osakaの事例セッションに登壇したクラボウインターナショナルの福嶋徹夫氏は、「kintoneでポジティブマネジメント」というタイトルでバングラディシュと日本で進捗を共有する生産管理システムをkintoneで実現した事例を披露した。
「バングラディシュでTシャツを240万枚生産せよ」
大手繊維メーカーであるクラボウ(倉敷紡績)の子会社であるクラボウインターナショナルはメーカー機能を備えた繊維の専門商社。ジーンズやシャツ、ジャケットなどのカジュアル衣料、ワーキングウェアや白衣などのユニフォーム、生地や糸などを国内外の工場で生産し、日本のアパレルや小売りに販売している。「名前は表に出てきませんが、みなさんの着ているシャツやジーンズは私たちが生産している商品かもしれません」(福嶋氏)。
そんなクラボウインターナショナルのIT部門に所属する福嶋氏がkintoneに出会ったのは2015年。とある案件において「バングラディシュでTシャツを240万枚生産せよ」というミッションが発生し、そこでのシステム化に使い始めたのがきっかけだ。
繊維産業が国の産業のほとんどを占めるバングラディシュは、労働力が豊富で、中国の1/3という賃金が大きな魅力。クラボウインターナショナルは2011年から同国に進出しており、チッタゴンという港町に生産拠点を設けている。ただ、日本から拠点があるチッタゴンまで24時間くらいかかるほか、労働や品質に関しての考え方が異なるために生産管理が難しく、テロのような政情不安もある。
そんなバングラディシュで生産することになったのが、子供用のTシャツだ。一口にTシャツといっても、実際は生地、プリント柄、洗濯ネーム、サイズネーム、商品タグなどさまざまな要素で構成されており、これらがきちんと仕様通り仕上がっているかをチェックする必要があった。
海外生産のメリットを吹き飛ばす悲惨な生産管理
バングラディシュでの生産において、課題は日本と現地とのコミュニケーションにあった。やりとりをメールに依存していたため、大量のメールの中から品番で確認内容を検索する必要があり、膨大な時間を費やしていた。また、メールでは人によって情報が異なるため、理解に齟齬が生まれていた。「メールでらちがあかないと電話。電話でもダメだと、1日かけて現地に行って、進捗を確認していました。相互が現状を把握できない悲惨な生産管理でした」と福嶋氏は振り返る。
生産のステータスが把握できず、納期遅れにつながったことも何度かあった。納品に間に合わせようと、バングラディシュから日本まで3週間かかる船便をあきらめ、飛行機で送ると、海外生産のコストメリットが吹き飛んでしまう。「いったいなんのためにコストの安いバングラディシュで生産しているかわからなくなっていました」(福嶋氏)。こうした悲惨な状況から脱却すべく、現場から「システムでなんとかしてくれ!」という要望が上がってきたという。
現場の声に応えるべく、福嶋氏はさまざまなセミナーやイベント、Web媒体などでニーズにフィットする製品を探し、結果としてサイボウズのkintoneに行き着いた。「セキュリティがしっかりしていること、簡単にアプリが作れること、kintoneを手がけるベンダーもいるということなどがわかった」という福嶋氏は、システムの開発でkintoneを採用することにしたという。
バングラディシュと日本の関係者全員が同じ情報を共有できるこのシステムは「KIOMS(Kurabo Inter Order Management System)」と名付けられた。「この名前はバングラディシュで名付けられたもの。システムに名前を付けるというのはとても重要で、どういう目的で作られたか立ち返ることができます。実際、社内ではkintoneよりもKIOMSと呼ばれています」と福嶋氏は語る。
初代のkintoneアプリは使われないシステムへ そこからの再起
しかし、初代のKIOMSは使われないシステムだった。バングラディシュ側の要望を1つのアプリに詰め込んだ結果、管理項目が膨大になり、kintoneが固まるという事態に陥ったからだ。「やはりkintoneは万能ではない。1つのアプリでできることの限界を知った」ということで、残念ながらお蔵入りとなった。
再登場のきっかけになったのは、70万枚という大型の追加注文が決まったことだ。「初代KIOMSの反省から学び、アプリを複数に分けることにしました」ということで、バージョンアップした新KIOMSでは、品番などを登録したマスターデータベースを日本側で構築。オーダー情報の入力、バングラディシュ側でのオーダーの検索、量産(バルク)管理、全体の進捗管理などは、すべて別のアプリとして作成した。
具体的には日本側でオーダーを入力すると、工程別に必要な単位で入力枠が生成されるので、これらをバングラディシュ側で入力。入力された情報から進捗一覧を自動更新し、色分けで全員が確認できるようになっている。「今は生地を裁断している状態か、プリントしている状態か、検査している状態か、色でわかるようになっています」(福嶋氏)。さらに出荷管理(Shipment)のアプリも作り、品番を検索すれば、出荷状態がリアルタイムに把握できるようになった。
これらはkintoneのマスターDBをベースに複数のアプリが連携することで実現されている。こだわったのは徹底的にシンプルにすること。「項目を最低限にし、一目でわかるアプリにしました」と福嶋氏は語る。また、入力は日本とバングラディシュで分担し、なるべく日付や状況を選ぶだけにしたり、写真を添付して商品がすぐわかるようにしたり、アプリを入力する担当を決めたり、前回の反省を活かして多くの工夫を盛り込んだ。こうしてシンプルさを重視したことで、マニュアルもないのに、バングラディシュ側も勝手に使い始めたという。
kintoneをやめようという話は一度も出なかった
2代目KIOMSの開発は、大阪でkintoneのシステム構築を手がけるアールスリーインスティテュートと共同で行ない、2週間というスピードで実現した。「対面開発とオンライン開発で進めたが、非常にスピーディに開発できた」と福嶋氏は語る。
導入効果は大きかった。まず進捗が明確に管理できるようになったことで、航空便は激減し、現状把握のためだけの出張もなくなった。もちろん、クライアントからの問い合わせもスピーディにレスポンスできるようになり、KIOMSのコメントログや資料を使うことで業務効率も大幅に向上した。「悲惨な状況でのマネジメントが、ポジティブなマネジメントという思考にシフトしました」という。
福嶋氏は、今回のシステム開発のポイントとしては、現場として明確な課題、課題にあったkintoneというツール、構築や運用を支えるベンダーの知恵の3つを挙げた。実際、kintone標準機能では難しいスプレッドシートのような全体進捗管理や複数アプリとの自動連携などはベンダーであるアールスリーの知恵の結果だったという。「自分たちで作るというのもありですが、課題が明確であったり、時間がないのであれば、知見を持ったベンダーと組むのがよいと思います」と語り、セッションをまとめた。
セッション後、サイボウズの伊佐政隆氏は、一度失敗したkintoneに再度チャレンジした理由を聞いた。福嶋氏は、「kintoneが優れたツールであることは、現場もわれわれもわかっていました。再チャレンジの時には、開発のやり方を変えてみたらよいのではという話になったし、kintoneをやめようという話は一度も出ませんでした」と振り返る。今後、KIOMSを他の生産拠点でも拡げ、ゆくゆくは全社的に使えるモノに育てていきたいという。
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