太く鮮やかで、自然な見通し、この音を聴くとワクワクする
開発方針や設計思想などがすべて音に向いているとなると、俄然その質が気になってくる。これはもうこれは聴いてみるしかないというわけで、早速リファレンス音源を歌わせることにした。
なお、メーカーが推奨する本機のエージング時間はなんと200時間(!!)。その姿勢に敬意を表して可能な限りの時間で鳴らしたが、機材スケジュールの都合により約120時間のエージングで試聴に臨んだことをお断りしておく。リファレンス機材はラディウス「ドゥブルベ・ヌメロキャトル」と純正バランスケーブルの組み合わせ、音源は「Hotel California」「Waltz for Debby」、そしてヒラリー・ハーンの「バッハ:ヴァイオリン協奏曲」だ。
一聴して感じるのは、見た目からは想像ができないほど音がガッシリと太いことだ。聴いていて安心するくらいに、とにかく身の詰まった音だと感じる。
Hotel Californiaでは低音が安定しており、音が機敏に動いて音楽自体にメリハリが付いている。Waltz for Debbyでは巧みなダイナミクス表現を音楽へ存分に活かしており、ベースソロの終わりでピアノとドラムセットがグッと音量を上げると、それまでのちょっとジェントルな曲の色が見事に明るく変わる。
音色はウォーム気味で明るく、ヒラリー・ハーンのヴァイオリンは響きが実に柔らかいが、芯はかなりしっかりしていて存在感がある。基音に対する倍音もよく乗っていて、そのおかげで特に低音がドッシリと安定して聴こえるのが印象的だ。
この低音の豊かな響きは、高音にも“パッセージが映える”といういい影響を与えている。高域の速い動きは音が細いと貧相になるが、このプレーヤーは上から下までとても充実している。
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一音目が出た瞬間に「あ、このヒラリー・ハーンはヤバい」と本能が訴えてきた。しなやかで伸びのある音色、それでいて音の芯と存在感があり、とにかく脳裏に強く残る音のバッハだ |
しなやかで自然な表現も持ち味のひとつだ。Hotel Californiaのギターは撥弦のアタックが痛くならず、優しさと力強さを兼ね備えている。Waltz for Debbyはダブルベースの弦が弾む様子が手に取るように判る。マスターテープに起因するアナログの残留ノイズをものともせず、冒頭からピアノもダブルベースも凄まじい生々しさだ。ドラムセットが入ると“痛くないのに鋭い”という驚異的なスネアの響きに思わずゾワッとした。
ヒラリー・ハーンのヴァイオリンも実にしなやかで、豊かな響きの演奏を通してメロディーそのものが歌っているように聴こえる。このワクワク感こそ、オーディオの醍醐味のひとつだ。
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「Waltz for Debby」はステージの見通しの良さが特に印象的だった。低音にも高音にも不自然な強調感はなく、それでいて印象的で耳の感覚に優しい音色。始めから終わりまでしっかりと聴きとおすことができた |
解像感の高さや定位の良さも見逃せない。Hotel Californiaではサウンドフィールド中央のヴォーカルをはじめ各楽器のポジションがしっかり安定していて、楽器の音を聴き分けやすく演奏の見通しが良い。奥に隠れがちなエレキギターまでしっかり存在感があり、アウトロ(後奏)のエレキギターは一気に存在感が増すという、非常に熱のこもったパフォーマンスを聴くことができる。
Waltz for Debbyでも楽器の音像がハッキリとしていて、ドラムセットのスネアは鋭く、ハイハットはさわやかで小気味よく、オープンにすると響きがとても粒立っている。見通しの良さは高音だけでなく低音でも聴かれ「ダブルベースはこんなに動いていたか」と思わせるほどしっかりと楽器を聴き取ることができた。
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「Hotel California」では必ず冒頭のギターで「さあ、聴くぞ!」と耳をそばだてるが、QP2Rは必要にして充分の解像感と程よい丸さで歌い上げた。人間の感覚にフィットするもので、音が出てすぐに肩に入った力が抜ける思いがした |
リファレンス音源を通して聴いた感想としては、音の輪郭がしっかりして音形がよく判り、アーティストの意図を読みやすいというものだった。
それにしても、これほどまでに充実した音が手のひらに載るポータブル機から出てくることが、にわかに信じがたい。純A級フルバランスのチカラをまざまざと見せつけられた気分だ。
いとうかなこの対比やみのりんのまっすぐな歌唱など、個性をより引き出す表現力
これだけ音が太くパワーがあって、さらに定位がしっかりとしているとなると、きっとアニソンが愉しいに違いない。そういうワケでアニソン・ゲーソンをたっぷりと味わおう。
楽曲は太い音に聴き入る意味を込めて、いとうかなこ「アマデウス」。それから夏の終わりの一大イベント「アニメロサマーライブ」を少し意識して、茅原実里「ありがとう、だいすき」、そしてangela「Shangri-La」をチョイスしてみた。男性ヴォーカルも入れたかったところだが、手元に適当な楽曲が見当たらなかったのは残念だ。
まずはいとうかなこ「アマデウス」、人気ゲームの続編「Steins; Gate 0」のテーマ曲だ。この曲の聴きどころはズバリ“対比”。様々な所に対比が現れ、それが曲の世界観を創る。音色、音程、音形、リズム、といった描き分けがどれだけできるかが勝負だ。
楽曲は全体的に打ち込み音源で音は硬め、その中でひとり有機的ないとうかなこの声がとても映える。デジタル音に彼女の歌声を載せることでで生命が宿るようだ。
メロの部分ではオケが16ビートを基調としたアップテンポ、ヴォーカルが8ビート基準のゆったりとしたもので、両者はテンポ感が違う。それがサビに入って16ビートのハイスピードでバチッと合い、楽曲の波ができる。こういったテンポ感の違いを音の正確性や解像力の高さでしっかりと描き分けていて、楽曲に深みを与えている。
リズムもヴォーカルは有機的に揺れ、ドラムは極めて機械的に刻み続ける。その様が人間の想いにテクノロジーで挑むという作品世界とオーバーラップする。追い立ててくる伴奏に人間の声の熱さが抗うようにも感じた。
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タイトルの「アマデウス」は前作ヒロイン牧瀬紅莉栖の人格を移植したAIシステムの総称。楽曲そのものが「人間の意志が息づく機械」というテーマを内包している。余談だが「Steins; Gate 0」のアニメ化決定という嬉しいニュースも先日出てきた |