ネット通販市場の拡大とともに、ECサイト構築市場も拡大を続けている。(株)矢野経済研究所の調査によると、2016年度のECサイト構築支援サービスの市場規模は、前年度比6.2%増の546億円となり、年々拡大している。EC支援企業や制作会社が生き残りをかけ、リスティングなどの広告を積極的に展開しているなか、広告を一切出さず、テレアポもせず、口コミだけで売上を拡大しているECサイト制作会社が存在する。その珍しい会社が(株)レジットだ。「売れるECサイト」を制作した実績が口コミで伝わり、中小企業からの発注が相次ぎ、制作スケジュールは3カ月先まで埋まっているという。レジットのWEBディレクター・岩渕裕氏に「売れるECサイト」やLPを作る秘訣を聞いた。
レジットのWEBディレクター・岩渕裕氏
市場調査・分析で最適なECサイトを提案
同社がECサイト制作で重視しているのは、制作前の市場調査・分析だ。3C分析、SWOT分析を駆使し、競合よりも優位に立てるサイトを設計する。顧客(Customer)、競合他社(Competitor)を分析し、自社の立ち位置(Company)を把握する(3C分析)。その上で、自社の強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)について分析する(SWOT分析)。新商品や新サービスの開発時などには、3C分析やSWOT分析による分析が一般的だが、ECサイト構築でも、この作業が要になるという。
岩渕氏は「ECサイトをテンプレートにして成功する会社はほとんど見たことがありません。行き当たりばったりで制作したサイトは、見た目は良かったとしても将来的には伸びないケースが多い。ECサイトは基盤づくりにお金をかけないと。その商品やサービス特有の見せ方や販売の仕方があるのに、それを考慮しないでECサイトを制作することはできない」と語る。
市場分析からECサイトを構築するのは、時間がかかりそうで面倒だが、ここで手を抜くと、ECサイト制作後に伸び悩んでしまう。同社は市場分析の結果から仮説を立て、テストを繰り返して改善していく。これは通販のマーケティングの王道だが、ECサイト制作も同様。市場分析を通じて導き出した戦略は、LP制作にも生きる。
同社はこの市場分析で、自社ECサイトを制作してもまったく勝ち目が見えない場合は、ECモールへの出店を促すなど、制作を断ることもあるという。
運営代行は成果報酬型
レジットはECモールに出店するショップの運営代行も行っている。売れるための施策に自信を持っていることから、同社の運営代行は利益が出たら報酬が発生する成果報酬型。マーケティングには、外部に公開していない自社開発のツールを利用し、定期顧客の増加に役立てている。
ECサイト構築では、運営代行の依頼主が売上げを拡大し、新たに自社ECサイトの制作を依頼されるケースもある。このケースでは、ECモールの運営代行から自社サイト制作まで一貫して支援することができる。
ECモールには購買意欲が高い人がアクセスしていることから、ショップ側は集客やコンバージョンに至る施策が見えやすい。しかし、自社ECサイトになると、購買意欲が低い人も含めた不特定多数の人がアクセスするインターネットの大海原にこぎ出すことになり、CPAは一挙に上がる。そのため、同社ではコンテンツマーケティング向けのサイトを制作している。SEO対策を組み込んだサイト設計によって、広告に費用をかけずに、検索で集客できるようにしている。
ECサイトの業種にもよるが、コンテンツマーケティングでは、おすすめレシピ、まめ知識などのコンテンツや、ブログ作成など、誰でも更新できるものを推奨している。岩渕氏は「広告費がなくても、SEO対策としてできることがたくさんある。検索上位になるための施策が、中長期的に見れば有効となる」と話す。
売れるLPの制作手法は?
LP制作では、ECサイト構築と同様、市場調査や分析結果から導き出した仮説を元に、ターゲットを明確にし、サイトを構成する。ここに多くの時間をかける。その後は、テストを繰り返し、キャッチコピーやデザインなどをブラッシュアップしていく。
同社がLP制作で心がけているのは、すでに購入意欲を持った人がサイトに訪れることもあるため、「コンバージョンボタンをLPのファーストビューに入れること」「コンバージョンボタンの設置は5~4カ所にすること」など。男性に向けてはメリットを数値によって訴求し、女性に向けてはその商品を使ったらどうなるかというベネフィットを伝えるものにするなど、ターゲット層ごとにサイト構成やキャッチコピーが大きく変わってくるという。LPに関しても「テンプレートでは売上げを伸ばすのは難しい」(岩渕氏)としている。
通販サイト「越前宝や」
情報発信型のECサイトで売上拡大
ECサイトを構築した通販会社は、中小から大手まで幅が広い。サイトの年間売上が500万円程度だったものから、億単位に成長した会社もある。これまでのECサイト制作事例は、健康食品、食品、農園、美容商品、化粧品、アパレル、雑貨など、幅広い業種に渡っている。
このうち、福井のカニ・干物専門のECサイト「越前宝や」は、同社のコンテンツマーケティングの手法を取り入れ、業績を伸ばしているわかりやすい例だ。越前宝やは、越前がにで有名な越前町の漁場から直接商品を買い付け、発送する海の幸専門店。港近くの加工所で、干物作り60余年の職人が新鮮な魚を一枚一枚手作りしている。
「越前宝や」は、「楽天市場」「Yahoo!ショッピング」でネット通販を行っており、売上も好調だった。しかし、ECモールには安い商品が目当てのユーザーが多いため、高価格帯の商品を販売しても売れないという課題があった。
そこで、「干物のギフト専門の独自ECサイトを開設したい」という依頼が同社に入った。制作では干物のギフト専門店らしく、高級感と和の雰囲気を軸にしたデザインに仕上げた。また、コンテンツマーケティングも取り入れ、美味しい干物の焼き方やレシピ、ギフトを贈る際の例文集、旬な情報などを発信する情報発信型ECサイトを構築した。「越前宝や」の自社サイトは2016年11月にオープンし、アクセス数も上々で、客単価の向上にも成功した。
「和田商店」楽天ショップ
現在、売上を急増させているECサイトが雑貨ECの「和田商店」だ。レジットは楽天市場店のトップページ改修を請け負い、その実績から運営のサポート、自社ECの制作までを手がけている。自社ECサイトは現在制作中で、7月に公開予定となっている。トップページ改修では、和田商店の良さを前面に出すため、店主である和田さんと家族の似顔絵をヘッダーに配置。さまざまなメディアに取り上げられていたことから、そのことを伝えるコンテンツも配置した。ECサイトは、PCだけでなく、タブレット、スマートフォンにも対応し、それぞれ見やすく機能的な設計に仕上げている。
ECサイト構築サービスでは、LP制作やCRMツール、アクセス解析などの機能がパッケージ化されたものが多く、サイトの裏側の便利な機能にとらわれすぎると、自社の商品やサービスに最適な販売手法を見失いがちだ。自社の商品・サービスをEC構築支援サービスのパッケージに当て込むのではなく、まずは市場調査・分析で自社の立ち位置を見定め、自社商品・サービスに合ったECサイトを構築する方が、将来的な成長につながるのかもしれない。
(山本剛資)