SitePointではここ数カ月にわたって、アーリーステージのテック起業家にニッチ分野で成功する秘訣をインタビューしてきました。
インタビューは、『How I Made $2,000 in 1.5 Months Starting with a Google Form-Based MVP』、『FacebookとGoogleを辞めた私たちが絵本のスタートアップで実践したこと』、『「なぜ買わないの?」たった1つのシンプルな質問がCVRを27%も向上させた話』にまとめてあります。
しかし、多くの人はMVP(訳注:実用最小限の機能を持った製品のこと)の検証またはコンバージョン率の最適化の前に越えなければならない大きな壁に直面します。その壁とは、
ニッチ市場を見つけること
です。
この記事では、ソフトウェアの作成者でありマネタイザーでもあるAlex Moskovskiが、適切なニッチ市場の発見、MVPの検証、動的なテストモデルを使った初期段階の適切な価格設定の分析について紹介します。
最近、ロシアで運営しているごく小規模なSaaS「Menumake」の実証実験に関する記事を執筆しました。Menumakeはすでに毎月1000ドルの固定収入を上げています。
記事は口コミで広がり、ビジネスの構築プロセスに関する詳しい情報や成功の秘訣について、多くの質問が寄せられました。そこで、この記事では寄せられた質問の中から、もっとも興味深く複雑な部分である、ニッチ市場を見つけ、初期段階の価格設定を検証する効果的な方法を詳しく紹介します。内容は以下のとおりです。
- 3つの簡単な戦略でニッチ市場を見つける
- 自力で無駄のないMVPを作成する
- 手慣れた技術スタックを使ってすばやくリリースする
- 2つの簡単な戦略で初期段階における価格設定を決定する
3つの簡単な戦略でニッチ市場を見つける
無用なMVPの作成に無駄な時間を使いたくないはずです。どのようにして新しいアイデアを見つけ、需要があるか検証しますか? 一番はっきりしているのは、問題点を特定する統計情報が必要だということです。
戦略1:データにより問題点をはっきりさせる
冒頭の記事のSaaSの例では、私が設立した別のスタートアップPostioの検索に使われていたキーワードをGoogleアナリティクスから取得して利用しました。
Postioは、誰もがもっと簡単にコンテンツを見つけ、自分のソーシャルアカウントやグループへ公開できるようにしたいとの思いで開発したサービスです。Postioではマーケティング戦略の一環として、見込み客をターゲットにしたさまざまなテーマの記事を費用をかけて作り、トラフィック増加を目指しました。
すると、突然、GoogleやYandex(ロシアの検索エンジン)からPostioとは関係のない検索キーワードでトラフィックを獲得し始めたのです。
キーワードのデータは以下のようなものです。
ユーザーは明らかに「メニュー」に切実な問題を抱えていました。
この時点では、2つの選択肢がありました。
- 既存のプロジェクトで「メニューの作成」機能を作成する
- スピンオフとして「メニューの作成」機能を新たに作成する
私は後者を選択しました。最初にSEO戦略を決めてからブランディングしたほうが簡単だろうと思ったからです。また、Postioのコンセプトである「コンテンツの公開」と、新たに発見された「メニューの作成」とでは考え方がまったく異なります。
戦略2:舗装する
既存のプロジェクトまたは統計情報がなくても、私が「舗装」と呼んでいる方法があります。
ニッチ市場に関するフォーラムを訪問し、どのようなやりとりがされているか、コミュニティを利用してどのような問題を解決しようとしているかを分析すればよいだけです。
たとえば、これはSitePointに掲載される記事ですから、SitePointの姉妹サイトのFlippa(編注:Webサイトやドメインを売買するマーケットプレイス)について考えてみましょう。Webマスターが集まるフォーラムには共通の傾向があり、たいていWebサイトやドメインの売買についてやりとりされています。ただし、フォーラムでのサイトやドメインの売買は非常に不便でリスクを伴います。
この道は舗装される必要があります。FlippaはWebサイトとドメインの売買をシームレスにすることを軸に、SitePointからスピンオフして、エレガントかつ効率的な舗装(改善)を実現しました。
私はロシア市場で同様にコミュニティを利用した「舗装」の手法を取っています。ほかのローカル市場でも同じことが適用できるはずです。
ニッチ市場のコミュニティを訪問し、意見を聞き、問題を発見するたびに、「どうすれば自分の持つ技術を使ってこの問題を解決できるか?」と自分に問いかけてください。
問題を見つけることではなく、問題を解決することばかり学校で教えられてきた私たちには難しいことですが、このような思考プロセスを持つことはとても重要です。いつも問題を与えられるとは限りません。プロセスをリバースエンジニアリングして問題を見つけることは、本業でも個人的なプロジェクトでも重要なスキルです。
戦略3: ニッチ市場に特有の洞察ツール
3つめの方法です。ちょっとややこしいですが、この方法でしばしば頭をリフレッシュして、頭のモードを切り替えましょう。エンティティと対応する動詞の表を生成する簡単なスクリプトを書き、関連性のある新しい分野を見つけやすくしました。
以下は例です。
これから調査したいニッチ市場に適合するように、スクリプトは微調整する必要があります。また、動詞とエンティティである必要はなく、ほかの組み合わせでも問題ありません。重要なのは、できるだけ多くの関連する共通点を見つけることです。
例に使用したコードは次のようなものです。
<?
$entities = array('image', 'photo', 'text', 'source', 'site', 'traffic', 'money', 'book', 'e-book', 'file', 'smartphone', 'camera', 'notebook', 'cities', 'distances', 'cars', 'mobile', 'book', 'sex', 'love', 'classifieds', 'ads', 'alcohol', 'travel');
$verbs = array('sell', 'buy', 'rent', 'exchange', 'free', 'give', 'book', 'clean', 'find', 'classify', 'compare');
echo '<table style="width: 100%">';
foreach ($entities as $entity)
{
echo '<tr>';
foreach ($verbs as $verb)
echo "<td style='font-size: 14px; padding: 5px; text-align: center'>$verb $entity</td>";
echo '</tr>';
}
echo '</table>';
?>
良いアイデアを見つける秘訣はほかにもたくさんありますが、いまはほかのアイデアに焦点を当てるのはやめておきます。スタートアップを始動するという次のステップに移る必要がありますから。
無駄のないMVPを作成し、検証する
メニュー作成サービス「Menumake」のMVPを作成するときには、あとで追加される可能性のあるものをすべて排除するようにしました。
下の図は、MVPでのメニュー作成インターフェイスです。比較のために、右側には実際のMenumakeのメニューを並べています。
なにをMVPにすれば良いかを尋ねる人はたいていの場合、機能の重要性を過大に見積もる傾向があります。MVPでは次のようなものは省くべきです。
- 認証:問題解決のためにユーザーは各々のアイデンティティを持つ必要が本当にあるのか
- 専用サポートインターフェイス:初期段階ではフッターのどこかにメールアドレスを記載するだけで十分
- 支払いゲートウェイ:支払いの徴収は手動でもできるし、Stripeなら後で追加することも可能
- 洗練されたデザイン:検証後にできることで、初期段階ではBootstrapで十分
- 堅牢なインフラストラクチャ:難しい問題。読めないコードは書くべきではないが、拡張性の問題は後で解決できる。拡張性のあるインフラをすばやく構築できればベストだが、この時点で指数関数的な成長のことばかり考えるのはすすめない
どのような技術スタックを使っているか?
私はすべてのWebサービスに対して簡単なLAMPスタックとCodeigniterやjQueryを組み合わせて使っています。タスクによって必要であれば、Goを使います。
これだけです。
自分がもっとも快適だと感じ、すばやく作業できるものを使います。この選択が最終的な差を生みだします。スタックはユーザーには見えません。
該当するサービスで「省けないもっとも重要な機能はなにか」について考えます。もう一歩踏み込んで「見込みユーザーは私たちからなにを得られると期待しているのか、そして、なぜこのサイトにいるのか」という大胆な質問をします。
これらの質問に対する回答は、申し込みフォーム、サポート、洗練されたデザインではありません。メニュー作成インターフェイスもまだユーザーにとってメリットはありません。
ユーザーは自分のサイトに、いますぐにメニューがほしいのです。
これこそユーザーにとって邪魔になる障害物を取り除き、苦労して手に入れるべきソリューションです。シンプルなメニュージェネレーターと、メニューをインストールする方法の説明書を用意するだけで十分です。
MenumakeのMVPには、認証、ユーザーアカウントUIのような機能があり、先に書いたアドバイスに従っていません。ただし、これができるのは、ニッチ市場に進出するのがはじめてではなく、たくさんのテンプレートを持っており、すばやく用意できるからです。
メニュージェネレーターの話に戻ります。
先ほどと同様に、変わったものはなにも使っていません。昔ながらのシンプルなImageMagickを使っているだけです。
すべてのメニュー画像を作成できたら細かく分割し、Webサイトに組み込む方法をまとめたドキュメントとともにダウンロードできるようにします。
以上で作成したMPVから私は50ドルの売上を得ることができ、アイデアが正しかったことを証明できました。
再度強調させてください。私は自分がプロの開発者だとは思っていません。ソフトウェアエンジニアリングの現代的なアプローチのような複雑な話になると分かりません。したがって、難しいことは説明できません。はじめから簡単に拡張性のあるインフラを構築できる人は、私よりも先を行っています。
この時点でインフラばかりにとらわれないでください。たいていの場合、これからスタートアップを成功させられるかどうかとは無関係です。
MVPの価格設定
価格設定は難しい問題です。困ったことに、この時点では価格を見積もれません。些細なミスが1つあっただけでも、長い目で見れば簡単にコストが増加してしまうからです。価格設定は感性で考えずに、むしろデータに基づいてアプローチする必要があります。
一般に、価格設定の問題は見積もりと微調整の2段階で解決します。
ステップ1:見積もり
最初に、さまざまな価格設定を調べてニッチ市場における平均価格を把握します。以前から市場で提供されているSaaSがあれば、CapterraまたはGetAppなどのカタログを使って流通価格を把握します。あるいは自分で競合他社から生のデータを収集することになりますが、データの収集は外注をおすすめします。単純作業でおもしろみがないですから。
データを収集したらチャートで可視化します。通常、チャートは釣鐘曲線になります。
そうならなかった場合、または釣り鐘が1つ以上ある場合(下のスクリーンショットのように)、1つではなく複数のニッチ市場からデータを取得している可能性が高く、市場のセグメントに属さない情報源を排除する必要があります。
チャートに必要な情報は2つです。1つは釣鐘の先端部分、もう1つは釣鐘の末端部分の情報です。
この2つの情報が、最低と最高の価格帯を示します。
この範囲を超えた部分には基本的には意味がありません。しかし、ケースバイケースであり、特定範囲外の価格もテストするかどうかを判断するなら、考慮すべき不確定要素がたくさんあります。
通常は、次のステップ2で取り上げる微調整後に実際の統計値を得るまで、価格の分析は先延ばしします。市場がまだ存在しないため価格帯を見積もるのが不可能である場合もあります。Menumakeではそうでした。
したがって、ユーザーが製品に支払ってもいいとする上限価格を把握するため、別の方法を見つける必要があります。繰り返しになりますが、確実な方法はありません。しかし、Menumakeに関しては、プロのデザイナーがこの種の仕事に対して求める金額を見て上限価格を見積もりました。
ステップ2:微調整
価格見積もりを微調整します。ここまででニッチ市場における価格設定を十分に把握したと思いたいですが、まだできていません。もっとも収益が得られる価格を実際に把握する唯一の方法は、それぞれの価格を1つ1つテストすることです。
Menumakeでは任意の価格を割り当ててテストしました。テストした価格はステップ1で見積もった範囲の価格とし、申し込み後の各ユーザーに対して提示しました。
まったくおもしろくなくて恐縮ですが、ここでAIのアルゴリズムを示します。
同時に2つの価格をテストしていることに注意してください。1つはメニューの作成価格、もう1つはメニューの更新価格です。
しかし、ユーザーがもし不公平な価格テストを実施していることを知ってしまったらどうすれば良いでしょうか。その場合は、本当のことを伝えてください。製品の本質的な価値を見積もっているのだと話します。
そのとき、ユーザーが価格に不満があり価格交渉したいと申し出たら値引きします。
個人的にはカスタマーがこれほど価格設定に柔軟だとは信じられませんでした。確かに怒ってしまうカスタマーも多少はいましたが、大幅値引きして解決できなかった問題はありませんでした。
必ずテスト期間を長く取ってください。
もっとも効果的な価格を速く把握すればするほど、長い目で見れば稼ぎが大きくなることを忘れないでください。
不当に高い値段の影響を受けたユーザーに対して価格を再調整することを忘れないでください。少し値引きをすれば良いのです。テスト期間の最後にすべきことはMenumakeのために収集したデータから分かります。
以上の統計情報からなにが分かるでしょうか。実は、非常におもしろいことが分かるのです。
- メニュー作成は1ドル、または2ドル、または3ドル、メニュー更新は0.50ドルが、もっとも収益の上がる価格
- 1ドルでは2ドルのメニュー作成の2倍、3ドルのメニュー作成の3倍の依頼がある
- ARPUに関しては1ドル/0.50ドルの組み合わせがもっとも収益を上げた
- 2ドルの価格設定では同一の収益で相対的にいざこざが少なかったが、1ドルに固執した。すべてのメニューがなかなか利用されないため、ユーザーにできる限り多くのメニューを作成してほしいと考えたからだ
これらの結論ではまだ不完全で改善の余地があります。しかし、少なくとも少し現実的になってきました。
この記事と以前執筆した記事を合わせて読むと、SaaS Webアプリを開発する重要なポイントが明確になるのであればうれしいです。まだまだ書きたいことはたくさんありますが、ここまでとします。
(原文:How to Find a Niche and Validate Early Stage Pricing)
[翻訳:中村文也/編集:Livit]