大企業もスタートアップ企業も、AIに巨額を投資して、ゲームに勝ち残ろうとしている。しかし企業が短期的利益を求めてAI研究に投資するほど、本来は巨大なメリットがあるはずの汎用人工知能の研究が疎かになり、AI研究は停滞してしまう。
人工知能の研究プロジェクトに最近注ぎ込まれている巨額の資金に騙されてはいけない。ウーバーAI研究所のゲイリー・マーカス前所長は、AI分野は、多くの人々が思っているほど速くは前進していない、と述べた。
MIT Technology Reviewが今週サンフランシスコで開催したEmTech Digital 2017カンファレンスで、マーカス前所長は、統計的機械学習に対する現在の執着的な関心や、AIに投資している企業の短期的視野の関心は、人間レベルの人工知能の実現に向けた進捗を制限していると述べた。
マーカス前所長は映画『ターミネーター』シリーズに登場する殺人人工知能の名前をあげて、人工知能研究の現状について話した。「私の最大の恐怖は、スカイネットではありません。研究は行き詰まりつつあるのです」
マーカス前所長は、近年の技術的発展にも関わらず、コンピューターにはできない単純なことが多くあると述べた。こうした限界が、本物の汎用型人工知能の実現に向けた進歩を妨げているのだ。
マーカス前所長は、AIに関する大げさな宣伝の批判者としてよく知られている人物だ。その発言は、オープンAI(イーロン・マスク等が出資したAIの基礎研究を担う非営利組織)のイリア・スツカバー研究所長とは対照的といえる。
マーカス前所長の前に講演でスツカバー所長は、機械学習の新手法について説明した。スツカバー所長は講演で、汎用的な、あるいは人間レベルのAIの実現は、さほど遠い話ではないかもしれない、という考えを述べた。
「今現在だと遠い先の話に感じますが、5年前に比べるとだいぶ近くなっています。進化的戦略アルゴリズムの開発に関わる人数と費やされる労力の量は極めて大きいです。非常に堅調に進歩しているといえます」
一方、ニューヨーク大学の教授で、今月、家族ともっと多くの時間を過ごすためにウーバーを去ったマーカス前所長は、自身の講演で企業による投資は、AI分野の長期的目標に対してはそれほどよいことのではないかもしれないと述べた。以前にも、研究の進展が期待外れだったため、AIへの投資が枯渇した時期がある。今回の場合、過剰投資によって、研究者は長期目標に対する視野を失うかもしれない、とマーカス前所長は示した。
AIへの商業的関心(多くの研究者を産業界へと引き寄せている要因)はよいことだろうか、と問われたマーカス前所長は、諸刃の剣だと答えた。「ウーバーのような企業だからこそ実現できることもあります。ウーバーには莫大な資金や人があります」とマーカス前所長は話す。「法人市場の問題は、短期的な物事への関心があることです。深層学習で今すぐ利益をあげる方法があるでしょうか?」