自動運転を研究中の各社は、人工知能にはまだ運転免許を与える段階にないことに気付いている。あらゆる状況に対応できるほどには賢くなく、雨やひょうで性能が下がるセンサー、レーザー光線の干渉など、事業化にはほど遠い段階なのだ。
ロボット工学やAI研究に巨費を投じ、ライバルの先手を取るウーバーの戦略には、何か問題があるようだ。
最近数カ月間で、ウーバーの「先端テクノロジー・グループ」(ピッツバーグ拠点の自動運転車プロジェクト)所属の幹部何人かが離職した。また、新設されたAI研究所のゲイリー・マーカス所長は、就任から数カ月後に所長を辞任、現在は特別顧問を務めている。ウーバーにまつまるこうした事実は、大局的に見れば、非常に複雑な最先端テクノロジーを事業化することの課題を明らかにしている。
ウーバーは、ニューヨーク大学のマーカス教授(認知科学)が率いるスタートアップ企業ジオメトリック・インテリジェンスの買収後、昨年12月にAI研究所を設立した。ウーバーのAI顧問を続けるマーカス教授は3月27日、MIT Technology Reviewが主催する「EmTech Digital」カンファレンスで人工知能に関する未解決の課題について講演する。
ウーバーは先週も失敗が報じられた。ウーバーの自律自動車が別の車を巻き込んで事故を起こし、同社はアリゾナ州での自動運転車試験の中止を余儀なくされた。ただし、事故を起こした自動運転車が故障していた証拠はない。
マーカス教授は、運転など、命に関わる状況でコンピューターが人間と同等にスマートに判断するのは、依然として難しい課題であることをテーマに講演する。自動運転車は、道路で起こりうるすべての状況まではまだ反応できず、学習には膨大な量のデータが必要だ。
ウーバーは、自動運転がタクシー業界にとっての破壊的テクノロジーであることに気づき、ライバルに先を越されないため、自身で自動運転車の開発を急ピッチで進めてきた。ウーバーはあっという間に自動運転テクノロジーを身につけ、いくつかの都市では道路で自動運転車を走らせている。しかし、MIT Technology Reviewの記事にあるとおり、自動運転システムは、通常の運転状況でも完璧には機能できない。
設計上の課題も残っている。たとえば、自動運転車が運転中、雨やひょうのためにセンサーの信頼性が下がった場合、あるいは多くの自動運転車が道路を走っている状況で電磁波を発するシステム(レーザー光線による画像検出・測距システムであるライダーなど)が、どう干渉する可能性があるのかなど、わかっていないことは多い(「試験中の自動運転タクシーはしばらく試験中のままな理由」参照)。
マーカス教授は機械学習について、人工知能の手法であるニューラル・ネットワークに過度に依存していると辛らつに批判してきた。マーカス教授は2014年に、代替手法を模索するため、ジオメトリック・インテリジェンスを設立した(“Can This Man Make AI More Human?”参照)。
ジオメトリック・インテリジェンスは特に、効率的な機械学習の手法を模索している。人間は新しい交通標識を素早く認識できるが、コンピューターは、現在の最高の機械学習手法でも、何千もの訓練データが必要だ。
自動運転を研究中の他の企業も、期待より進歩が遅いことに気付いている。グーグルは、自動運転車プロジェクトを「ウェイモ(Waymo)」としてスピンオフさせた。自動運転の事業化に先鞭をつけたグーグルでさえ、事業化には至っていないのだ。