エネルギー分野のイノベーションを支えてきた米国政府の研究投資プロジェクトARPA-Eが、トランプ政権で存続の危機にある(インターネットの発明につながったARPAは米国防総省の研究プロジェクトで、ARPA-Eはエネルギー省管轄)。
ARPA-Eが今週開催したエネルギー・イノベーション・サミットのオープニング・セッションでは、エネルギー研究全般、特にARPA-Eの補助金をどう維持するかに関心が集まった。
米国エネルギー省の大型研究投資部門ARPA-Eのエリック・ロルフィグ副所長は、ワシントンD.C.で開催されたARPA-Eエネルギー・イノベーション・サミットの開幕にあたり、ARPA-Eのプロジェクト74件が民間企業から180億ドルの資金を調達し、56件のプロジェクトは新会社設立に至ったと発表した。ロルフィグ副所長に続いて登壇したマサチューセッツ工科大学(MIT)のL・ラファエル・レイフ学長は、大掛かりで困難な科学的アイデアを学術研究の場から産業分野に飛躍させるには政府の支援が重要だと強調し、テクノロジーや科学、将来の雇用創出の競争で米国の優位性を保つには、初期研究に対する政府投資が不可欠だと述べた。
「初期研究に政府投資が不可欠だとする考えは、保守でもリベラルでもありません。米国の未来に関わることです」とレイフ学長はいう。
会場全体に漂っているのは、このサミットあるいはARPA-Eそのものが来年の今頃まで存続しているのかに関する漠然とした疑問だ。各種報道によれば、トランプ政権はほとんどの連邦政府機関の予算から540億ドルをかき集めて国防費に回そうとしており、クリーン・エネルギーや気候変動に何らかの形で関わる組織が狙われるのは明らかだ。ヘリテージ財団のレポート(2016年にARPA-Eの廃止を提案)がトランプ政権に明らかに大きな影響を与えており、ARPA-Eの職員は確実に脅威を感じている。
サミットの会場では出展者、参加者の多くが言葉を交わしており、特にARPA-Eやエネルギー分野への政府補助金の行く末は共通の話題だ。MIT Technology Reviewのインタビューに応じた人のうち、ARPA-Eが消滅するとまで予測した意見がなかったのは、トランプ政権のあらゆることが予測できないのも一因だろう。しかし、今後数カ月で何が起きるか、クリーン・エネルギー研究の推進にどんな影響があるのかは参加者の多くが懸念していた。
シリコンバレーの有名なテクノロジー研究機関PARC(多くのプロジェクトにARPA-Eが投資している)の単独研究では、現在、エネルギー分野の規模が最も大きい。PARCのハードウェアシステム研究所のスコット・エルロッド所長は「ARPA-Eは不可欠で重大です。ARPA-Eが投資してくれたからこそ、当社は従来の基幹事業から離れてエネルギー分野に移行できたのです」という。
カーネギーメロン大学のスコット・エネルギー・イノベーション研究所(Scott Institute for Energy Innovation)のデボラ・スタイン副所長は、ARPA-Eのエネルギー・イノベーション・サミットは今年で最後になるかもしれないと思っているが、その理由は単に、サミットがクリーン・エネルギー分野に特化した大型イベントだからだ。しかし、ARPA-Eは、民間企業にはできない、あるいは民間企業以上の規模で初期段階のプロジェクトに投資する点で、ARPA-Eが民間産業に重要であることは明らかだ。そのためスタイン副所長は、ARPA-Eは最終的には存続することになると考えている。
「ARPA-Eの存続には、ARPA-Eのイベントに参加し、従来からARPA-Eを支えてきた産業が立ち上がって『いいか、ARPA-Eは我々にとって大切なんだ』という必要があります」とスタイン副所長はいう。