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スタートアップ支援を推進する福岡市と4社のIT企業はなにを目指すのか?

髙島市長も熱弁!さくら、アカツキ、ピクシブ、メルカリが福岡拠点開所へ

2017年02月15日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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2月14日、さくらインターネットは福岡オフィスの開所を発表した。同時期に福岡支社を開所するアカツキ、ピクシブ、メルカリと共同で行なわれた発表会では、ITやデジタルコンテンツの振興に取り組む福岡市の髙島宗一郎市長も登壇。スタートアップ支援やIT人材の育成に向けた期待を表明した。

「バレンタインの日に想いに応えてくれた」

 共同発表会の冒頭、登壇したのはスタートアップ支援を強力に推し進める福岡市の髙島宗一郎市長。壇上に立った髙島氏は、「今をときめく、あこがれのベンチャーのみなさまには以前からラブコールを贈っていたが、このバレンタインデイにその想いに応えてくれた。今日、みなさまといっしょにこの発表ができるのを大変うれしく思います」と4社を歓迎し、さまざまなデータを元に福岡市の現状と直近の取り組みを説明した。

福岡市 髙島宗一郎市長

 現在、福岡市は東京を抜いて日本一の人口増加率を実現し、税収も過去最高を更新している。また、住みやすさでは市民の95.8%が住みやすいと答えており、イギリスの雑誌でも住みやすい都市の世界第7位にランキングしたという。こうした福岡市が目指すのは「アジアで一番のまち」。単なる経済規模だけではなく、「住みやすい」「仕事がある」「リフレッシュできる」「グローバルにチャレンジできる」まちに成長させていくのが基本方針だという。

 短期・中期・長期に分けられた成長戦略の中で、福岡市のスタートアップ支援は知識創造型産業の創造を目指す中期戦略に位置づけられる。実際、2011年から2015年の5年間で誘致した242社のうち、知的創造型産業の割合は55%におよぶ。このうちには本社機能の誘致も含まれるが、特に福岡市がチャレンジしているのがスタートアップの支援だ。

 福岡市では、起業の第一歩となるスタートアップカフェを立ち上げたほか、海外企業も参入しやすいスタートアップビザや賃料補助などの施策も推進。さらにはスタートアップ特区という取り組みで勝ち取った法人税の減税のほか、市税の軽減も進める。「(法人税率30%に対して)福岡市では両方合わせて22%になる。これは海外と比べても競争力のある数字だと思う」(髙島氏)。こうした積極的な施策もあり、開業率は7.0%に上り、3年連続で政令市中第1位を達成した。特に12.3%という若者の企業率は2位の相模原市(神奈川県)に比べて大きな差が開いているという。

福岡市のスタートアップ支援事業

福岡市内をLoRaWANで包む計画まで披露

 次世代を見据える福岡市は現在、大型クルーズ船の着岸を可能にするウォーターフロントの開発のほか、福岡空港の滑走路の増設、航空法の規制緩和を利用した天神地区の再開発など大型プロジェクトを進めている。さらに九州大学のキャンパス集約から生まれた50haもの広大な土地をスマートシティ化し、IoT、モビリティ、セキュリティ、セーフティなどいろいろなイノベーションの実証実験を行なっていく。「スタートアップの技術やビジネスは、まさにこういったところで活かされると思っている」(髙島氏)。

 そして現在もっともホットな話題は、旧大名小学校の校舎を活かしたスタートアップ支援施設だ。髙島氏は、「天神のど真ん中にあるこの小学校を活かして、福岡市のインキュベーションに関わる施設をすべて集合させ、産官学をマッチングさせる。まさにスタートアップとエコシステムの見える化。福岡のスタートアップ支援がさらに熱々になることは間違いない」と熱弁を振るう。

旧大名小学校の校舎にスタートアップ支援施設を集約

 さらに予算会議を終えたばかりの髙島市長は、「新年度は福岡市内ほぼ全域をカバーするLoRaWANのネットワークを張りめぐらせる。日本でも最大のエリアになるのは間違いないので、センサーを張り巡らせ、見守りや観光などの社会実装をやりたいというスタートアップには、さらに魅力的なまちになる」と宣言。最後は4社に対して「ようこそお越しくださいました!」と熱い謝辞と期待を述べ、福岡名産のバラを4社の登壇者に手渡した。

効率性を考えて東京に集中する時代はもはや終わった

 フォトセッション後に登壇したのは、同日に福岡オフィスを開所したさくらインターネット代表取締役社長の田中邦裕氏だ。18歳で起業し、昨年末に20周年の節目を迎えたさくらインターネットを率いてきた田中氏は、まず「スタートアップが盛んな場所で、われわれも成長したい」と福岡オフィス開所への意気込みを語った。

さくらインターネット代表取締役社長 田中邦裕氏

 成長は今回の福岡オフィス開所の大きなキーワード。田中氏が福岡市に焦点を当てたのは、都市の成長と企業の成長がリンクするという考え方からだという。「スタートアップは全国津々浦々で起こっているわけではなく、やはり熱量の高いところで生まれている」と語る田中氏は、今や企業を誘致して人が増えるのではなく、多様性や寛容性を受け入れる成長都市に企業や人が集積するというモデルに変化していると持論を展開。福岡市の拠点開所は、まさに必然だとアピールした。「移り住みたい都市こそ企業にとっての成長につながる」と田中氏は語る。

 経営的な視点で見れば、拠点を増やすのは単純にコストに響いてくる。大阪で起業したさくらインターネットは、東京に支社を作り、メインのデータセンターは北海道の石狩にある。効率性のみを考えれば、極論東京にのみ拠点を置くという選択もあるはずだ。しかし、効率性の追求から脱却し、創造性の発揮を高める方向性を明確にするさくらとしては、拠点を集約することにメリットを感じなかったようだ。「企業は効率性を追求し、原価を抑えることで、確かに利益は得られるようになった。でも、われわれは売り上げを伸ばし、企業を成長させる方向に舵を切りたいと考えている。みんなが住みたい、進出したいというところに拠点を作っていくことが、成長への近道」と田中氏は語る。

 こうした中、今回の福岡進出はトップダウンで決まったわけではなく、どうしても福岡にオフィスを構えたいという2人の社員の熱意が大きかったという。これに対して田中氏は、「効率性で考えれば、飛行機で東京から行った方が早い。それでも福岡に拠点を作りたいんだったら、お前たちの熱意を見せてみろと言いました」という。これに応えた2人は、2年前に福岡に移り住んでしまい、コワーキングスペースを拠点に、現地でさまざまな活動を繰り広げてきた。結果として、福岡のまちとしての魅力を理解し、自社の成長の活かせると踏んださくらインターネットは、今回福岡のオフィス開設に至ったわけだ。

 田中氏は、「効率性を考えて東京に集中する時代はもはや終わったと考えている。企業が持続的に成長していくためには、コストカットしてきたこの20年から次の世紀に生まれ変わらなければならない。そのためには、一番成長が見込まれる場所に自らも身を置き、その都市と成長すれば、最終的に会社も成長する。最後に強く申し上げたいのは、成長する人や成長するまちと仕事をすることで、自分自身も成長できるということ。シリコンバレーなど海外に行くのもいいけど、国内で成長を実感できるのは、まさしく福岡だと思っている」とまとめ、さくらインターネットの成長戦略の中で福岡オフィスがきわめて重要なポジションを占めていることを強調した。

開発、新規事業、サポートなどオフィス開所の目的はさまざま

 今回、さくらインターネットと同時期に福岡オフィスを開所したのが、アカツキ、ピクシブ、メルカリなど、今をときめくスタートアップだ。今回の共同発表会はたまたまタイミングが重なったとのことだが、福岡拠点の役割はそれぞれ異なっている。

 ゲーム事業を中心に据え、リアルライフの充実を事業としてす推進するアカツキは、3月中旬に福岡オフィスを開所する予定。おもにゲーム開発からスタートし、2年間で60人の採用を予定している。アカツキ共同創業者 取締役COOの香田哲朗氏は、「レベル5などが福岡に本社を構えており、ゲーム系の技術者が豊富で、専門学校や大学の学生もコンピューターに明るい」と語る。また、コンパクトシティという点で、同社が構える台湾の台北と福岡が似ており、親近感があったという。

アカツキ共同創業者 取締役COOの香田哲朗氏

 イラストや小説、マンガなどのコミュニケーションプラットフォームを手がけるピクシブは、新規事業開発の拠点として昨年12月に福岡オフィスを立ち上げた。ピクシブ代表取締役社長の伊藤浩樹氏は、「今後はある意味、既存のPIXIVを破壊するようなプロダクトが必要になる。こうした独立した新規事業を興すためには、東京と完全に独立したマインドセットが必要になる。次のステージに行くには福岡しかなかった」と述べ、福岡オフィスを社内ベンチャーとして扱う。グローバル展開を検討する中でも、アジアに近い福岡の位置づけは大きいという。

ピクシブ代表取締役社長 伊藤浩樹氏

 フリマアプリを手がけ、国内では数少ないユニコーン企業として成長し続けているメルカリは、3月に福岡にサポートセンターを開設する。サポートセンターは仙台にもあるが、すでにパンパンの状態。国内・米国で6000万ダウンロードにまで膨れあがったユーザーのサポートを担う場所として福岡を選んだという。「先日、講演したとき、客席の最前列に髙島市長がいて、完全にロックオンされていた(笑)」とは、メルカリ取締役の小泉文明氏の弁。英語で社内ドキュメントを整備していることもあり、アジア圏の人材採用にも福岡オフィスが大きな役割を果たすと見込んでいる。

メルカリ取締役 小泉文明氏

 さくらインターネットは、営業、スタートアップ支援、開発の3つの役割を福岡オフィスで担う。「コストが安いから地方に行くわけではない」(田中氏)とのことで、都内とあくまで同一の労働条件で、九州での事業を運営していくという。また、福岡市の旧大名小学校のスタートアップ支援施設にも入る予定で、福岡市が推進するIoT関連のプロジェクトにも積極的に関与していくという。

 スタートアップやIT企業が増えてきた福岡はすでに人材難とも言われているが、各社とも「福岡で仕事をしたい」というUターン・Iターン向けの社員も多いため、そのための受け皿としても機能するとのこと。また、今回の4社が連携した勉強会などもやっていく予定。「支店経済からの脱却」(髙島氏)を進める福岡市と志の高いIT企業とのコラボレーションがますます楽しみだ。

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