私のスタートアップ、Read Your Storyは、2015年7月のある暖かい夕暮れ時に始まりました。カリフォルニア州パロアルトにある姉の家で、家族と夕食をとっていたときのことです。
私たちはワインを楽しみながら、子どもたちが裏庭で遊ぶのを眺めていました。おしゃべりをしているうちに、私たちが子どもに読み聞かせをする時間がどれだけ気に入っているかという話題で盛り上がりました。読み聞かせは子どもとの絆を深め、テクノロジーからしばらくの間離れる機会だからです。
ほかの多くの親と同様、自分の子どもたちがスクリーンを眺める時間の制限についていろいろと考えていたのです。
iPhoneもiPadもすばらしいデバイスです。親としてつかの間の平和が欲しいときにわんぱくな子どもたちを熱中させておくには便利ですが、便利すぎるのが問題です。
当時、マーケターとしてグーグルに勤めていた姉のジャネットが興味深い質問をしました。「幼い子どもたちにとってiPadよりも魅力のある絵本を作れない?」
疑問に応えるべく、私たちは子どもたちを観察した結果、おもしろいことに気付きました。子どもたちは自分の名前が印刷されていたり、自分の写真を見たりすると興奮するのです。
そこで、子どもの名前と写真を絵本に融合できないかと考え始めました。
このディナーのあと、数週間にわたり研究を重ね、姉と私は、子どもの名前や写真が入った絵本を作れる会社が驚くほど少ないことが分かりました。あったとしても絵本の質はとても低く、自分たちのほうがうまくできると確信したので、次の段階へ進みました。
それは、市場での需要を検証するため、短期間、実験的に絵本を販売することでした。
当時、私はプロダクトマネージャーとしてFacebookで働いていましたが、退職する準備はまだできていません。だから、ゆっくりと着実なペースで、サイドプロジェクトとして進めることにしました。
ファーストランからコンセプトを検証する
いくつかの絵本のコンセプトをブレインストーミングしたあと、親にも人気のあって分かりやすい「ABCブック」のフォーマットを選びました。
ネットワーク作りにとても熱心なジャネットのおかげで、プロジェクトを実現してくれたすばらしい絵本イラストレーター、ドナに出会えました。ドナはこのあと私たちの会社の3人目の共同創業者になりました。
このときの絵本販売の目的は収益を得ることではなく、プロダクト・マーケットフィット(PMF)の方向性を検証することでした。
最初は、50冊の絵本の制作に専念し、10月にテスト販売の準備が整ったときには、十分な品質の製品に仕上がっていました。しかし、ユーザーエクスペリエンスはひどいものでした。というのも、ひどい買い物しかできないような、Squarespaceで作ったお粗末なWebサイトしかなかったからです。
本を買ってもらって届けるまで、必要なステップが5つあります。
- フォームに子どもや配送方法の詳細やEメールアドレスを入力する
- 購入用のクレジットカード情報を入力する
- 注文を確認したチームがユーザーにメールで連絡し、子どもの写真を送ってもらう
- ユーザーから写真を受け取ったら、写真から顔の部分を手動で切り抜き、絵本の各ページに挿入する
- 絵本原稿を印刷業者に送り、完成したらユーザーの家へ直送する
絵本制作にはPhotoshopを使い、1冊あたりの製作時間は約3時間。各ページに手動で作業しなければならない部分がたくさんあり、中でも、髪の毛のマスキングは本当に大変でした。
ユーザーが注文した絵本の原稿が完成したら、高画質のPDFに書き出し、Blurb.comにアップロードして印刷します。Blurb.comはフォトブック制作ツールとしては本当にすばらしいのですが、同時にお金がかかります。
私たちがテスト販売した絵本の値段は1冊35ドルですが、Blurb.comは印刷・運送代として1冊45ドルかかります。
一番大切なことは、人びとが私たちの絵本を購入したいかどうか、先入観のないデータが欲しいという点でした。従って、友人たちにはプロジェクトについて一切知らせず、偽名を使い、私たちの絵本のニュースを潜在顧客のリストや子どもを持つ親に向けてシェアしていきました。
また、ブランドの知名度の向上とちょっとしたダイレクトレスポンスを狙い、Facebook広告も少し使いました。積極的なマーケティングはわざと避けて、先入観のないデータにこだわりました。
要するに、ユーザーが私たちの絵本にどのように反応するかを見たかったのです。
ありがたいことに、ユーザーエクスペリエンスのひどさにもかかわらず、とても良い反応がありました。ユーザーがWebサイトをシェアしたり、友達にすすめたりしてくれたので、売り上げのほとんどは口コミ経由のオーガニックなものになりました。
テスト販売から利益は得られませんでしたが、ほんの少しだけ、私たちのアイデアに需要があることは理解できました。
販売前に6000件のカスタマー登録を得た方法
テスト販売が成功したあと、より規模の大きいビジネスのテストに進みました。しかし、絵本の販売そのものではなく、もっと需要を検証したかったので顧客リスト作りが目的でした。
製品を売りたいなら、新規ビジネスを始める前に市場検証をするべきでしょう。顧客リストの作成は、PMF検証だけではなく、販売開始1日目からユーザー整理のためにも役立つ大切な手段の1つです。
Read Your Storyの共同創業者は、自分たちのカスタマイズできる絵本は市場で話題になると感じていました。しかし、ブランドを一から始めようとしていたので、自分たちのビジネスをどこまで拡張すればよいのかの検証から始めなければなりませんでした。
検証方法について、私たちが出した答えがFacebook広告でした。
ステップ1:Facebookページで「いいね!」を得る
最初は、シンプルなFacebookページの作成から始めました。
ロゴとカバー画像は見栄えのするものにして、かわいらしい雰囲気のある投稿をしました。そのあと、気に入ってくれそうなユーザーに最適化したFacebookのキャンペーン広告を出したのです。
自分自身、Facebook広告のプロダクトマネージャーとして働いていたため、「いいね!」に最適化することは普通はおすすめしません。
基本的に、Facebookがターゲットとするオーディエンスを「いいね!」に対して最適化すると、さらに「いいね!」してくれそうな人びとに絞られることになります。
つまり、見たものすべてに「いいね!」をするユーザーが集まる、ということです。こうしたキャンペーンで得たオーディエンスは、少なくとも何らかの指標にはなりますが、私たちの絵本に本当に興味があるとは限らないということです。
しかし、個人的にはさほど気にしませんでした。最初の目的は単純に100件の「いいね!」を集めることだったからです。私たちの会社に興味のあるオーディエンスを、まずは100人集めたかったのです。100人のファンを集められれば、類似オーディエンスが作成できるようになります(類似オーディエンスの作成には、最低でも100人のファンが必要)。
ステップ2:さらに「類似」を極める
「類似」というキーワードは、ビジネスにとって最高に心強い味方です。
カスタムオーディエンスのリストをFacebookにアップロードし、Facebookのアルゴリズムがリスト内のユーザーの共通点を解析し、プロフィールに合った類似ユーザーを数千人、または最大で数百万人まで推定します。類似オーディエンスは、Facebookが広告者に提供するツールの中でも非常に心強いものです。個人的な意見では、自分のビジネスに高い関心を持つカスタマーをターゲットにするための最高の方法です。広告開発をする際には、最適なターゲットカスタマーを得られるまで類似オーディエンスを常に再構築していました。
その手法にのっとって、Facebookページのファンを対象に類似オーディエンスを作成しました。少々粗かったでしたが、始めるには十分のファンシグナルを得られました。集まったファンリストに対し広告を出し、ランディングページで商品の先行販売に登録するように呼びかけました。当時、1回登録されるたびに5ドルかかりました。
ランディングページ経由で先行販売に登録してくれたユーザーが100人に達したあと、そのリストをFacebookにカスタムオーディエンスとしてアップロードし、そこから再び類似オーディエンスを作りました。
スタートアップにしてははるかに良質のファンを得られたので(メールアドレスを提供してくれるファンだったので)、そうしたファンに対し広告を出し始めました。登録率も上がり、登録1回ごとの費用が2ドルに下がりました。
広告を出して登録者数を増やし、新規カスタムオーディエンスを構築して新しい類似オーディエンスを作成するといったプロセスを、ターゲットの効果が大きい1つのメールアドレスの登録料が1ドル以下になるまで、何度も繰り返しました。
ステップ3:ランディングページを無視してはならない
Facebook広告にとって、より良質な類似オーディエンスに向けた最適化はとても大切なことです。そして、そのためにもっともお金がかからない方法が、質の高いランディングページです。
私たちは広告テストの過程で、約20種類のランディングページがありました。最大28%の登録率に達するまでにはいろいろな教訓がありました。
- 1枚の画像は1000の言葉よりも価値がある:会社の歴史や製品を説明できる良質なビジュアルに投資する
- 登録フィールドとボタンは大きくする:大きければ大きいほど良い
- シンプルにする:Webページの要素は少なければ少ないほど良い。登録の際、気を散らさないようにする
ランディングページはすべて、WebflowというWYSIWYGのWebサイトプラットホームを使って作りました。おかげで、ランディングページのドラフトは、まったく時間がかかりませんでした。
先行販売ランディングページは複雑な技術は必要ではありません。この段階ではSquarespaceやWeeblyでも十分です。
顧客リストが十分な数になったら、製品販売を始めます。
上で説明したプロセスを繰り返した結果、カスタマーリストは約6000人になっていました。
販売開始後数週間で驚くほどの売り上げを達成できましたが、大部分はこれまで紹介してきたような質の高い先行販売リストによるものです。
顧客リストは、売上増を狙うときのマーケティングを大きく支える存在です。来年には10万人に増やしたいと楽しみにしています。
顧客リストを増やす方法は決して安くはなく、5000ドル以上かかりましたが、いまでは絵本の売上で相殺できています。コンバージョンにつなげる仕組みがあれば、メールアドレスは取得するときに使った費用の何倍もの価値を持つのです。
先行販売リストが果たしたもっとも大きな役割は、PMF検証でした。製品開発の段階で、顧客メールリストを集めるのがいかに簡単かに気づけて満足できたし、チームのモチベーションを高めてくれました。
リストと製品の作成中に、カスタマーから販売日を尋ねるメールが数多く届いたこともうれしいことでした。こうした問い合わせはチームに活力と、1日目からすばらしい商品を出荷できるという自信をつけてくれました。
現在の状況
現在、チームは7人です。共同創業者が3人、エンジニアが3人、Webデザイナーが1人です。ビジネスとしてのレベルアップの準備もできています。
親がオリジナルの絵本を作れるような仕組みをWebサイトに作っただけでなく、注文処理、品質保証、印刷、配送の自動化にも時間と費用を費やしました。7人と少ないチームでも月に数千件の注文にスムーズに対応できる自信があります。
数カ月後に、姉はグーグルを、私はFacebookを退職し、このプロジェクトにもっと専念できるようにしました。来年にはテンプレート・カスタム両方の絵本の種類をもっと増やし、ビジネスを拡大できればと考えています。
(原文:We Quit Facebook and Google to Build a Children’s Book Startup)
[翻訳:加藤由佳/編集:Livit]