第1回のゲストは、UXデザイン会社・スタンダードの吉竹 遼さん。ガンダムや趣味の話で盛り上がった前編に続き、後編では注目のツール、そして仕事の着想法について聞きました。
ボットツールに「これで俺に反応してくれる二次元嫁が作れるぞ」、って(笑)
小島 趣味の話は永遠に続いちゃうのでこれぐらいにして、お仕事であるデザインに関することを。Web業界、アプリ業界ってすごく流れが速いじゃないですか。今日もFramerの発表があって(※)、ちらっとVRに対応みたいなことが書いてあったんですけど、デザイナーはこれからVRもできるようになったらいいじゃん、みたいな感じがあって。吉竹さんが最近気になっている技術、今後に向けて触っているツールってありますか?
吉竹 ドコモが出している、コードを書かないでボットが作れるサービスってありますよね。「Repl-AI(レプルエーアイ)」っていうものなんですけど。
吉竹 例えばユーザーが何か発話したらそれに答えて、それに対して何かを引っ張り出して反応して、といった感じで……
小島 条件分岐をビジュアルプログラミングしていく、と。だからコードを書かなくてもボットが作れる。
吉竹 最近、Facebookメッセンジャーとも連携できるようになりました。弊社(スタンダード)のSlackには「ランチチャンネル」っていうのがあるんですけど、このボットに、例えばカレーがいいなって尋ねると、会社の近くにあるカレーのお店を出してくれるっていう。これは完全にお遊びで、カレーというワードに反応したらこの店を出す、といった感じで設定しているんですけど。
実用的な用途としては、お問い合わせの対応に使えますよね。弊社のデザイナーの鈴木智大は、クライアントのSlackのチーム内に、ペルソナのボットを常駐させたりしています。覚えておいて損はないってのもありますけど、単純に触っていておもしろい。
小島 今年に入っていろんなボットが出て、FacebookもLINEもどんどんAPIを公開して、エンジニアだけで盛り上がるかなと思っていたら、コードが書けない人でもボットが作れるサービスがどんどん出てきてますよね。中でも、このRepl-AIはわかりやすい。
吉竹 「iコンシェル」(※)と同じドコモの自然言語処理エンジンを使っているそうなんですよ。すでに脳みそができあがっている状態で、自分たちのリソースを使ってこういうのが作れた、みたいな感覚が楽しい。これは最近よく触っているツールですね。
小島 社内でも結構盛り上がっている?
吉竹 いや、僕だけですね。「これで俺に反応してくれる二次元嫁が作れるぞ」、って(笑)。
小島 ひどい(笑)。
吉竹 ところで、ボットって今後どうなっていくんですかね?
小島 最近、僕が使っていて、テクニカルクリエイター.comにも書いていますけど、レシピを毎日おすすめしてくれる「CALNA」(※)っていうサービスがあります。毎日3食ぶんのレシピを作ってくれて、ときどきメッセージが届くんですよ、CALNAから。で、チャット風のUIになってて、質問が来るんですけど……
吉竹 選択肢を出して、選んでいくと。
小島 これって要は、Q&AをUIでうまいこと見せているだけなんですけど。ボットって、実はただのテキストのやり取りだけじゃないですか。そこをもうちょっとUIで何かおもしろくできるんじゃないかな、って思っていて。テキストを打つだけだと、面倒くさいしコマンドとか覚えらんないし、難しいじゃないですか。そこをなんとかがんばれないかな、って思うんですよね。
ほかに注目しているツールってありますか?
吉竹 正直そんなに使ってはいないんですけど、「LiveSurface」っていうサービスで、Illustratorで作ったグラフィックデータを現実のバックのデザインに適用したら状態を見せてくれるものです。たとえば街中の街頭広告に適用したらどうなるか、合成して見せてくれる。
実際の案件でグッズを作ったりとかする機会はそんなにないんですけど、ほかにはないサービスだなと思っていて。割と昔からあるんですけど、いまもちゃんと頻繁にアップデートして使われているみたいです。
小島 パッケージだったら、すぐにこんな感じになるかなって作れるかもしれないですけど、屋外の大きな看板とか、乗り物のラッピングとかを再現できるのはおもしろいですね。しかも、いろんなアセットが用意されていて。
吉竹 そうなんです。用意されているアセットはアメリカっぽいものが多いので、日本に合うものは少ないんですけど。
小島 はめ込むグラフィックはIllustratorのデータを用意するだけで?
吉竹 ええ。Illustratorのデータはそのまま普通の平面で編集できて、LiveSurfaceとデータを同期すると合成した状態で確認できるっていう。いつかちゃんと仕事で使ってみたいですね。
まあ、ぱっといま思いつくのはこれぐらいですか。
SFが描く未来がデザインのヒントになる?
小島 それから、最近読んだ本の中からおすすめがあれば紹介してほしいんですが。
吉竹 1つ宣伝を挟むと、最近、「本棚とノート」というサイトを作りまして。
で、仕事に関係するまじめ本の紹介はサイトに載せているので、今回は僕のパーソナルに近い本をすすめようと。最近読んだ本なんですけど、2冊持ってきました。1つがコピーライターの岩崎俊一さんが書いたエッセイ集『大人の迷子たち』、もう1つが『年刊日本SF傑作選 アステロイド・ツリーの彼方へ』っていう(笑)。
小島 エッセイとか小説も結構読むほうですか?
吉竹 エッセイは読みやすいから好きですね。あとは、岩崎さんが個人的にすごく好きなコピーライターだったので。岩崎さんは2014年に亡くなられたんですけど、この本はその前に出版されたエッセイ集で、もともとは東急のフリーペーパー『SALUS』に掲載されていたものですね。本当にやさしい言葉が多くて、すごくいいんですよ。
小島 コピーとかも好きなんですね。
吉竹 好きというか、僕の父親がもともとコピーライターだったんですよ、某大手広告代理店の。なので、コピーライターになろうと思っていたときもありましたね。学生時代ですが。
小島 そういう意味では親の影響を受けて、近い業界にいるんですね。
吉竹 いや、たぶん親の影響はないです。
小島 ないんだ(笑)。
吉竹 自分の親がコピーライターだって知ったのは高校半ばぐらいでしたから。
小島 わかりづらいといえばわかりづらい仕事ですよね、コピーライターって。
吉竹 語尾が「ター」っていうところで、父親の職業をずっとフリーターだと思っていて。
小島 (笑)
吉竹 でも父親がもともと作家を目指していたりした影響もあって、言葉はすごく好きでしたね。富野由悠季さんも言葉使いが独特じゃないですか。
小島 確かに、富野作品もわかりづらいですよね。いきなり変な用語出てきたぞ、みたいな。
吉竹 そうそう。なので、いまでも言葉は気をつけて使っていますね。
小島 言葉って大事ですよね。たまに、デザインはよくても文言やラベルが「う〜ん」みたいなサービスって見かけますけど。もっとちゃんと考えてあげればいいのに、って。
吉竹 そうですね。あと、やっぱり言葉全般をもっと大事にすべきなんだろうなっていうのは日々思いますね。たぶん、(ユーザーの言葉ではなく)自分たちの言葉を使っちゃう、というはあるじゃないすか。それをなるべくなくしていくことは大切だと思いますね。
小島 そしてこっち(年刊SF傑作選)はかなり趣味に偏っている。
吉竹 そうです(笑)。これは2015年に同人、商業出版問わず発表されたSF作品の中で、審査員によって選ばれた作品をまとめた本ですね。
小島 SFとか、最近僕、全然読まないんですけど……
吉竹 いや、僕もそんなにたくさんは読まないですよ。ちなみにこの本は漫画も載っています。
小島 漫画?
吉竹 そうなんです。このページ、途中から急に漫画になっている。
小島 本当だ。
吉竹 漫画もちゃんと審査対象として扱っていて、たとえば森見登美彦さんの作品とかも載っていておもしろい。
小島 しかしすごいページ数(編注:612ページある)。
吉竹 1つ1つの作品が長くても数十ページで終わるので、意外とさくさく読み進められるんですよ。作家さんの個性が全部違うので、作品が変わるたびに全然違う世界がやってきて。1冊の本でこれだけ違う世界観が体験できるのはすごくお得というか、刺激になります。
小島 僕、小さいころにジュール・ヴェルヌが好きだったんですけど、『海底二万里』とか『地底旅行』とか。もう100年以上経っているはずなんですけど、いま読み返しても、よくそんなの考えたなっていう。
吉竹 確かに。例えば星新一さんの作品とかも、おもしろいサービスのヒントになったり。
小島 そういう意味では、古いSFを読み返してみると、意外と発見があったりするかもしれないですね。 SFって、昔は未来をがんばって描いていたじゃないですか。最近のSFってどうなんですか? 未来をちゃんと描けているんですか?
吉竹 それこそ『インターステラー』(※)あたりは……あ、あれは表現の話か。確かにそうですね、どうなんだろう?
小島 SFの世界に現実が近づいてきちゃったじゃないですか。
吉竹 現実的な範囲でSFをやる『her』(※)みたいな作品はありますよね。あれは割と現実に近いSFですけど、ちょっと先取りっていう意味だと『エクス・マキナ』(※)っていうロボット、人工知能みたいな……。かというと、例えば『プロメテウス』(※)みたいな、思いっきりファンタジーとかもありますね。
小島 SFが仕事に影響しているところって?
吉竹 未来を想像するという話だとあるかもしれないですね。じゃあ、そこから戦略にどうつなげるか、みたいな話まではいかないにしても。
小島 でも結局、「Pepperを作ってみたい」だって、ルーツは鉄腕アトムだったりドラえもんだったりするかもしれないですよね。
吉竹 現状に縛られないマインドを持つには、いい着火剤になるというか。
小島 最近、小説はまったく読まなくなっちゃいましたけど、そういう意味では読むともうちょっと視野が広がるのかな? っていう気がしてきました。
吉竹 小説はおもしろいですよ。この間久しぶりに、いわゆる「日常ミステリー」の本を読み返したんですけど、結構おもしろくて。現実にあるような些細な問題点を推測、推論して解決するっていうストーリーなんですよね、日常ミステリーって。それって自分の仕事に割と近いなと思っていて。
突拍子もないSF設定的な課題なんてなかなか降ってこないじゃないですか。現実に多いのは、むしろ小さな問題だったりして。その解決のための考え方に近いな、って最近気がつきました。
(担当編集)本の話が意外と盛り上がりましたね。
小島 本のサイトをやってますからね(笑)。
一同 (笑)
経営者やエンジニアと会話ができるデザイナーに
小島 ぼちぼちまとめに入りますけど、今後はどんなことをやりたいですか?
吉竹 もともとスタンダードに入ったきっかけ、意思としては、上流工程を経験して、経営者と話せるようになりたいなと思っていて。それでも、まだまだできてはいないので、いまがんばっているのは、経営サイド、事業を考えてる人と話せるようになる、っていうことですね。
あとは統計的な知識を持って、もっとデータに基づく具体的な改善提案できるようにしたい。それを使ってエンジニアやグロースハッカーと会話ができる。そういう、会話ができる言語、分野を増やしていきたいとは常に思っていますね。
小島 共通言語を増やしつつ、でも、デザイナー目線で、共通言語を使いながらアプローチするみたいな。
吉竹 なので、主要言語はデザインだけど、なるべくバイリンガル、マルチリンガルでほかの言語もしゃべれるようになっていきたいな、と。そこは今後の実践をとおして実現したいですね。
小島 そうすることでデザインから価値提案できることも増えていきそうですね。
吉竹 それがイコール僕自身の学びにもなるだろうし、会社の存在価値にもつながるだろうなっていうところですね。引き続きやっていきたいなと思います。
小島 きれいにまとまりましたね。
[撮影:宮川朋久]
KEYWORD
- Framer(↑)
- Webブラウザー上で動くモックアップを作れるJavaScriptライブラリー。GUIツールも用意されており、コードを書かなくてもプロトタイピングツールとしても使える。新機能についてはテクニカルクリエイター.comの記事を参照。
- iコンシェル(↑)
- NTTドコモが2008年11月に開始した、もともとは携帯電話(いわゆるガラケー)向けのサービス。位置情報や利用履歴などをもとに、ひつじ(執事)のキャラクターが最適な情報を通知してくれるほか、質問に答えてくれるチャットボット的な機能を持つ。現在はスマホ向けのアプリもある。
- CALNA(カルナ)(↑)
- ミューロンが10月4日にリリースした健康管理アプリ。身長や体重、目標を設定すると、大手コンビニや外食チェーンのメニューの中から、最適なメニューを提案してくれる。
- インターステラー(↑)
- 2014年に公開されたSF映画。監督はクリストファー・ノーラン。人類滅亡の危機を回避するため、元宇宙飛行士の男が新天地を開拓するミッションに挑む。科学考証の正確さや、実際の科学理論に基づくリアルなCG映像などが評価された。
- her/世界でひとつの彼女(↑)
- 2013年に公開されたSF恋愛映画。生身の女性よりも魅力的な人工知能に恋をする男を描いたストーリー。監督はスパイク・ジョーンズ。
- エクス・マキナ(↑)
- 2015年に公開されたSFスリラー映画。人検索エンジン世界最大手の会社社長の別荘にいたのは、人工知能を持つロボットだった。別荘からの脱出を試みるロボットとプログラマーの心理戦を描く。アレックス・ガーランド監督のデビュー作で、第88回アカデミー賞で視覚効果賞を受賞した。
- プロメテウス(↑)
- 2012年公開、監督は『エイリアン』などでおなじみのリドリー・スコット。未知の惑星に向かった調査チームが、人類の起源にまつわる謎に迫る。もともとはエイリアンの前日譚として企画された。