『クリムゾン・タイド』や『レッド・オクトーバーを追え!』など潜水艦映画を見たことがあるなら、いつも聞こえてくるある音に聞き覚えがあることだと思います。そう、暗闇の中から響いてくるような、「ピン! ピン!」という警告音です。
もちろん、これはもっとも深く暗い海の中を進むときに潜水艦が用いるアクティブ・ソーナーの音です。「ピン!」という警告音はそれぞれ水の中に響き渡り、障害物をはじいたり、潜水艦を取り囲む周りの環境になにか変化があったときに知らせたりしています。
つまり、潜水艦は常に周りの環境をチェックするシステムを使っているということです。「ピン!」という警告音が途絶えてしまったら、潜水艦は実際にはなにも見えず、感じられなくなってしまいます。
UXテストもこれとあまり変わりません。
- 企業はどのようにしたら、Webサイトやソフトウェアのユーザーエクスペリエンス(UX)に変化があり、なんらかの影響をもたらしているかを知ることができるのか
- Webサイトに寄せられる苦情が以前より増えたかどうか、どうすれば気づけるのか
- 企業はUXデザイン要素の成功度をどのように評価できるのか
こうした点を頻繁に評価しなければなりません。
UX要素を頻繁にベンチマーク(評価)していない企業は、警告音を無視する潜水艦のようなものです。周囲でなにが起こっているのか、少しなら気づいているのかもしれませんが、詳細情報はすぐに消えてしまい、変化に対応しなければならない際に大変なトラブルとなってしまいます。
UXデザインの範囲はソフトウェアとWebサイトと非常に広いので、全体として評価しようとすると複雑になるかもしれません。しかし、それぞれの要素を区分けにして評価すれば、非常にたくさんの情報を得られます。
企業には、UX要素に変更を加えたとき、その成功や失敗を測定できるようなUXベンチマークも必要です。こうした統計の評価が可能なベンチマークがなくては、まったく価値がなくなってしまうからです。従来のベンチマークから有用な情報を得られますが、使える情報を入手するためには、パフォーマンスに関する現行のベンチマークを頻繁に更新しなければなりません。
自分のキー指標を知る
目まぐるしい進化を遂げるデジタル世界においてUXデザインは比較的新しい概念ではあるものの、UXデザインのあらゆる要素のパフォーマンスを評価する指標を見つけ出している企業は存在します。そのうちのいくつかはカスタマーエクスペリエンス研究、実事業ならではの特徴など、いままでに見聞きしたことがあるような面から発見されていますが、そのほかはUX独自のものです。
テストするべきUX要素は企業が持つ特定の目標によって変える必要があり、テストの計測方法もそれぞれで変えなければなりません。ある要素のパフォーマンス向上が狙いなら、次の点に注目できます。
- ユーザーエラーやクレーム数の変化
- ある要素の使いやすさが向上したか、あるいは悪化したか
- デザイン要素の使いにくさに向上または悪化が見られたか
ソフトウェアやWebサイトの認知度を上げるというのもよくある目標です。テストするには、次の点が役立ちます。
- トラフィック量やインタラクションの数、ユーザーの規模に変化があったか
- 常連客の訪問数が増加したか、減少したか(カスタマー定着度)を意識する
- 訪問者の内、新しいカスタマーの割合がどう変化しているか(カスタマーアトラクション)を記録する
- 検索エンジンからWebサイトを訪れる新トラフィック量を意識する
時間別のUXパフォーマンスを評価するには、Google Plot Rowsが使えます。下にあるのは、Google アナリティクスがいろいろな指標の中でも、ユーザーインタラクションをどのように評価しているのかを示したものです。
カスタマーに取り引きを考えてもらいたいなら、信頼のできるWebサイトが必要です。信憑性の高さを評価するには、以下の点が参考になります。
- カスタマー満足度の変化
- Webサイトを信頼しているユーザー数
- 紹介されてWebサイトを訪れるユーザー数の増加または減少(ユーザーコンバージョン)
Webサイトやソフトウェアが必要とするリソースを減らすという方法はいつでも有効に働きます。企業は以下の点を評価すべきです。
- 開発にかかる全費用
- 開発にかかる時間数の変化
- メンテナンス、リデザインまたはほかのサポートコストの増加または減少
- 基本研修における必要条件が減ったか、または増加したか
- 必要な書類の数
最後に、売り上げの増幅という目標は、取り引きや購買、そして製品売り上げ数における変化を評価することにより監視できます。こうしたキー指標を常に監視できるように、全力を尽くしてください。
ユーザー情報を集めるための方法
UX評価方法は多岐に渡るので、UXデータ収集方法にも多種多様さが求められます。異なる情報は異なるソースから発生するからです。トラフィック数、訪問数、売上高、そのほか数字に関するデータ統計はシンプルなモニタリングツールから簡単に収集できますが、UXの問題は統計だけではありません。
UX研究およびデザインはカスタマー目線のものです。カスタマーに関するデータ集めはいろいろな方法でアプローチできます。
コンテキストインタビュー
Webサイトやソフトウェアにおけるユーザーインタラクションを観察してください。ユーザーはどのようなタスクをどのように達成しようとしているのでしょうか。UXデザイナーはこのようにして得られた情報を利用し、カスタマーの好みやどのようにタスクが達成されているか、現実世界における考察必要事項についての情報を得られます。コンテキストインタビューを用いると、企業はユーザーがサービスについて感じている感想を情報として入手できます。
フォーカスグループへの注意を惜しまない
フォーカスグループはスクリプト型の情報収集方法なので、コンテキストインタビューほどはマイナー評価を多く集められないかもしれません。しかし、企業にとって有益な情報をすばやく集められます。フォーカスグループは初期評価や特定の質問への回答にも使えます。
プロトタイプ方法を知る
UX要素の初期パフォーマンスに対し最初のベンチマークは、プロトタイプ方法を知るのがお勧めです。プロトタイプだけでは不十分ですが、ほかの情報収集タイプと合わせて使えます。実際、プロジェクトを進めるのかどうか決定する前の情報収集フェーズなので、本格的な情報収集はできません。
A/Bテストを徹底する
2つ以上の選択肢から決断するときに使われる情報収集方法です。Webサイトやサービス、UX要素またはソフトウェアで発生した変化のパフォーマンスを、いろいろな面から比較できます。
下の表は、ユーザーがどこからやって来てどのようにターゲットを発見するかの追跡方法の一例です。マーケティングメソッドを使える場所でもあります。
こうしたUX情報収集方法はリアルなユーザーに対して使うのが一番効果的ですが、ほとんどは仮想ターゲットカスタマー向けにも使えます。
UX評価を賢く使う
UXパフォーマンスの評価をすることと、頻繁にすることがなぜここまで大事なのでしょうか。
その理由は、それによってカスタマー基盤を監視したり、Webサイトやソフトウェアとカスターとのインタラクションに改善を加えたりできるからです。しかし、これはUX評価から得られる明白なメリットにすぎません。ビジネスにとって認識不可能となることもあるUX評価から得られる、というメリットもあります。
まず、もっと広範囲のUXから特定目標を追跡できるというメリットがあります。年度末に利益や多くのトラフィックを得られたと認識できるのは頼もしいことですが、とても有用ではありません。特定のユーザーのUX要素のパフォーマンスを評価すれば、より多くの情報を生み出し、さらに明確な改善目標を設定できます。
UXにおける変化がトラフィックや売り上げの増加にどれほど貢献したか分かれば、単純になにが起こったかを知っている、というよりもさらに実りがあるのです。
特定のUX要素のパフォーマンス以上の情報を得ているというメリットを積極的に活用すれば、UXデザインチームのモチベーションアップというメリットも得られます。再度ですが、パフォーマンス全体が良好であったと知っているだけではあまり役に立ちません。UXデザイナーのモチベーションを上げるには、マネージャーは成果が上がった分野をピンポイントで指摘して賞賛を与え、もっと作業が必要な場所についてデザイナーに情報提供できなければなりません。社員はフィードバックを与えると成長し、UX要素の評価は一緒に作業をする社員へのフィードバックにつながるのです。
UX評価に多くの時間を費やせば、企業はユーザーについてさらに考慮することができるようになります。カスタマーの視点から物事を観察したり、それに合わせて事業決定をしたりするのがうまい企業がある一方、カスタマー以外のことにより集中し、そのためにカスタマーを困らせてしまう企業もあります。
最後に、UXベンチマークにより、企業はさらに効果的なデザイン決定ができます。Webサイトやソフトウェアのデザインはカスタマーの反応に基づくべきであり、デザインに変更を加えるならそれがどんなものであっても、カスタマーへの影響を評価しなければなりません。以前のカスタマーインタラクション情報を評価しなければ、デザイン変更による結果の評価は難しくなります。また、ある分野においてUXの大幅な改善になにが役立ったか分かれば、ほかの分野でのデザイン変更にも役立ちます。
UXデザインパフォーマンスのベンチマークと評価は、企業で考慮されるべきほかの要素と同じくらい大切です。企業によってはそのほかの要素より重要視しなければならないケースがあるかもしれません。ベンチマーク、そして現在進行形で評価しなければ、企業は自身の成功そして失敗をほとんど意識できなくなってしまいます。また、UX評価にはデザイン決定を推進し、企業全体に影響力を与えるという驚くべきメリットもあります。
(原文:How Constant UX Benchmarking Helps You Avoid UX Nightmares)
[翻訳:加藤由佳/編集:Livit]