ASCIIネクストイノベーターズ「新型ラジオハードウェアHintの気配」 第5回
吉田尚記アナに聞いた「Hintクラウドファンディング成立」への道のり
「ヤバい。全然伝わっていない……」大成功となったHintの転機
2016年11月02日 09時00分更新
9月20日、Hintがクラウドファンディングの募集を終了した。結果的には大成功。最終的に目標額を大きく超える、3045万円以上を集め、CAMPFIREでのクラウドファンディングの最高額という記録を打ち立てた。
連載の取りあえずの締めくくりとして、発案者であるニッポン放送・吉田尚記アナウンサーに、クラウドファンディング開始から終了までの流れ、そして製品化に向けた意気込みを聞いた。
「ラジオを背負った」クラウドファンディング、伝え方の変化で成功へ
「いやー、クラウドファンディングをスタートしてすぐに、すごいことに気づいちゃったんですよ。『あれ、もしかして僕らは、大変なことを言っちゃったんじゃないか』って」
吉田アナは開口一番にそう話した。
吉田(以下敬称略):クラウドファンディングというのは、私たちのアイデアに価値があるか、を判断していただくものです。僕らは「ラジオは素晴らしいものだ、投資に値するものだ」と言ったわけですよね? ということは、このクラウドファンディングは「ラジオには価値があるかないか」を問う、そういうものになってしまった。成立しなかったら「ラジオはやっぱりダメじゃないか」という話に傾きかねない。
ということはですよ、「僕らがラジオにを背負ってしまった」となるわけです。これにはすぐに気がついて、「あ、ヤバいことを言ってしまったかもしれない」と思いました。
7月20日にクラウドファンディングはスタートした。だが、スタート直後から好調に数字が伸びたわけではない。当初の伸びはジリジリというレベル。ちょうど、本連載のために関係者への取材を進めていたところだったので「ギリギリですね」といった会話を裏ではしていたことを思い出す。
吉田:地上波のニュースなどもかなり取材には来たんですよ。そこで来てくれる人々は、Bluetoothビーコンのような技術には興味があるんですけど、それ以外の話はしてくれません。一方で、普通の人に見せると、まず形を見て驚いてくれる。でもBluetoothビーコンの話をしても「それなに?」という感じです。
「ヤバい。これ全然伝わっていないんだな……」と思いました。
Hintには多様な側面がありますが、そのどこを誰に訴求するのか、ちゃんと考えなくてはいけない。そうしないと、告知も精度が低くなるのだな、ということがわかりました。
そこでまず吉田氏は、ニッポン放送内のビジネスを改めて見直すことにした。
吉田:弊社には「ニッポン放送プロジェクト」という関連会社がありまして、そこでは「ラジオリビング」という通販コーナーをやっているんですね。実はラジオリビングでは「ラジオ」というものは人気商品なんですよ。
吉田氏は担当者に連絡をとり、ラジオリビングで使っている台本を取り寄せた。そしてそこで、「なぜ通販でラジオが売れたのか」を理解する。
吉田:そこで訴求していたのは「形」ではないんです。「そこでしか買えない」ことであり、「誰がこのラジオをいいと言っているのか」ということだったんですよ。
そこから、吉田氏は訴求ポイントを「絞る」ことに決めた。
吉田:受注数が「ハネた」番組が2つあるんです。
ひとつ目は、土曜の朝にやっている「徳光和夫 とくモリ!歌謡サタデー」というラジオ番組に出演させていただいたとき。なにせ土曜の朝ですから、ガジェッターはまったく聞いてません(笑)。この番組で、徳光さんがハマってくれたんです。「これは新しいラジオです」ということ、「ラジオ局が本当に作ったラジオなんです」ということをお伝えしました。そして、「今しか買えません」「今買わないと手に入らないです」ともお伝えしました。「今は2万1500円からですが、一般販売の時には、同じ価格で売るとはお約束できません」という話をしたんですね。
ここから、本当に申込数が伸びました。やっぱり訴求ポイントを絞ったのが良かったんでしょう。同じ時間をいただいても、そこでBluetoothビーコンの話をしても、まったくハネなかったでしょうね。
もうひとつが、ガジェット系のポッドキャスト「backspace.fm」に出演した時です。これもハネました。こちらでは「マックス振り切っていいんだ」と思って、1時間半、みっちりHintの話をさせていただいたんですが、終わったあと、申込数がすごく伸びましたね。
吉田アナは、今回の一件で「ラジオパーソナリティとしても勉強になったというか、精度が上がった」と語る。Hintはプロモーションに苦労したが、振り返ってみると「後から追加で考えた施策はなかった。一貫して同じことしか言っていなかった」という。ただし、そのプロデュース方法は大きく変わった。
吉田:たとえば、アイドルやアーティストがブレイクする時、ある人ひとりがほめるだけではダメなんです。さらに誰かが別の方向からほめたものを聞いたとき、「ああ、あれって本当なんだ」と思います。3回くらい別々の方向から推さないといけません。だから最初から、「プロモーションは死ぬほどやろう」とは決めていました。
今は二極化の時代です。ゆるいメディアにゆるいままとどまる人もいれば、欲しい情報を貪欲に、戦闘的に追いかける人もいます。その両方に訴求できるのが「ラジオ」というメディアだったんだなあ、と思うんです。
ファンは裏切らず、これからが本番
クラウドファンディングは、やってみなければわからないところがある。とはいえ、「ダメでした」では、最初に投資していただいた人々からの期待を裏切ることになる。
Hintが未成立である可能性について吉田アナに尋ねると、彼はこう答えた。
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