タッチパネルを装備し、性能も通信速度もアップした新モデルの投入
サービス開始から5年ほどが経ち、ISDNが登場するなど通信環境が大きく変わってきていることもあって、新モデルの開発が始まった。CPUは16ビットのV30から32ビットのi386SXへと変更され、HDDも最初期の20MBから大幅に大容量化。また、レーザープリンターの採用やタッチパネルの搭載など、外見とは裏腹にかなりのスペックアップが実現された。
この新モデルで、従来127台体制だったTAKERUを一気に300台近くにまで増強。以前はかなり大きなターミナル駅などに行かなければなかったTAKERUが、意外と近くの店舗に設置されて驚いたという人も多いだろう。
「当初の計画では1台200万円で作る予定だったのですが、途中で通信カラオケをやろうってことになって、300万円にして中にイロイロ追加しました」
このときすでにソフト販売だけでなく、TAKERUで培ったノウハウを生かして通信カラオケをやろうと考えていたわけだ。また、後年には搭載のCD-ROMドライブを使い、回線で送るには大きなソフトの更新などに活用されていた。
同時に通信コストダウンの取り組みは続けられていて、ソフトのデータベースとして使われているコンピューターとTAKERU間の通信を最適化。Layer7で使って欲しいというメーカーを説き伏せ、限りなくLayer2に近いところで利用することで、70パーセントくらいだった実効値を90パーセントくらいにまで上げることができたという。
「なんだかんだで3カ月くらいやりとりしていたでしょうか。結局Layer2をそのまま公開はできないので、オリジナルのプロトコルを作って出してくれるということになりました。「そこまでやる?」っていうことを言われながらやっていましたね」
また、可能な限り通信はせず、できるだけオフラインで動作するように工夫したのも通信費の削減のためだ。この「オフラインで動作」というのは後の通信カラオケ、JOYSOUNDにも継承されている。他社の通信カラオケは、リクエストがあるとサーバーへ曲を取りにいく集中管理型だったため、同じ曲が同時に全国からリクエストされるクリスマスなどに処理しきれないという問題があった。これに対しJOYSOUNDは曲データが端末に保存されているため、こういった心配は無用だったのだ。
ソフトのダウンロード販売は実は他にもあった!?
通信回線を使ってソフトをダウンロードし、メディアに書き込んで販売するというものを考えたのは、なにもブラザーだけではない。
「TAKERUと同じような構想でソフトを販売しようとしたのは、6社あったんです。6社で競争していた時期がありました」
研究や構想段階まで入れれば、ソフトバンクやパナソフト、ハドソンなど、ブラザーも含め6社ほどが取り組んでいたというのだ。とはいえ、サービスとして立ち上げ、ソフトの販売までできたのはブラザーの「TAKERU」とソフトバンクの「エレキッド」だけ。しかしそのエレキッドも、大々的に展開することなく撤退してしまった。
「最後までしつこくやってたのはウチだけです」
意外な作品がヒット作に
定番の年賀状用素材を売ったのはTAKERUが最初
ゲームを数多く売っていたという印象が強いTAKERUだが、在庫を持たなくていいというメリットから、一般的なパッケージソフトでは出せないようなものでもラインナップできたのが強みだ。
「あるとき、年賀状の『謹賀新年』を売らないかっていわれたんです。その人の母親が毛筆の先生で、いろんな謹賀新年という文字が書けるから、それをスキャンしてFDに入れて売ろうって」
これは面白いなと思い、実際TAKERUで販売してみるとびっくりするほど売れたという。今でも雑誌や本で年賀状素材集が発売され、人気ジャンルになってるが、その最初はTAKERUだったのだ。
これ以外にも、文章作成支援/文例集となる「直子の代筆」、音楽のMIDIデータ、同人ソフト、CG画集など、ジャンルを問わず手広い商品を取り扱えたのは、TAKERUならではといえるだろう。
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