「VR、VRって言うけど、ゲームやらないし、興味ないなぁ」という人こそ注目してほしいのが、マイクロソフトのHoloLens(ホロレンズ)。一見するとただのVR HMD(ヘッドマウントディスプレイ)ですが、実はリアルの世界にバーチャルのオブジェクトを重ねて表示したり操作したりできる、ミライ感あふれるMR(複合現実)デバイスなのです。
実際にどんなことができるのか? ARとの違いは? デジタルマーケティング分野でのHoloLensの活用ついていち早く取り組んでいるIMJ R&D室すまのべ!のマネージャー 加茂春菜さん、エンジニア 田野哲也さんに、デモを見せてもらいながら話を聞きました。
ARとの違いは「リアルを認識している」こと
——デモを体験させてもらって一番驚いたのが、HoloLensを通して見ると、「リアルの机」の上に積み上げた「バーチャルなブロック」が、机の端からころんと床に落ちたことです。
加茂さん:ミライ来た! って感じですよね(笑)。HoloLensは、リアルの机の位置だけでなく、立体的な形状をセンサーで取り込んでいて、バーチャルなブロックのデータも3Dで持っています。なので、机からはみ出したブロックは床に落ちるし、ブロックを机の下から覗き込んだり、裏側から見たりもできるんです。
スマホで体験できる従来のARとは似ているようで全然違う。HoloLensは本物の3Dなんですよ。
——HoloLensはどうやってリアルの空間を認識しているのですか?
田野さん:最初にHoloLensを被った状態で部屋全体を見回していきます。すると、HoloLensが赤外線を周囲に照射し、センサーが反射光の戻る時間を測定して空間を認識します。じっくり見つめるほど精度はよくなりますが、赤外線を使っているので、光を通すガラスや光を吸収する黒いモノは苦手ですね。
——それが従来のARとの違いを生み出している。
田野さん:一般的なARはカメラを基準に周りを見て、その中に物体を配置しています。一見すると3Dですが、実際は奥行きの情報は持っていないので、3D風の「絵」をマーカーなどのある地点に浮かべているだけに過ぎません。HoloLensは逆で、空間を基準としている。自分から見てモノがどこにあるかではなくて、空間の中に自分がどこにいるかを認識しているんですよ。
加茂さん:だから、リアルの机の向こうの床の上にバーチャルなモノを配置すると、机が邪魔になって配置したモノは見えない。従来の一般的なARだと、机の存在を認識できないので、机にモノが重なって表示されてしまう。マイクロソフトはMR(Mixed Reality:複合現実)と呼んでいますが、リアルとバーチャルの世界が連動していることがHoloLensのすごさであり、私たちが可能性を感じているところです。
Google Glassでやりたかったこと
——そもそも、お2人はなぜHoloLensに注目されたのですか。
加茂さん:私たちの「すまのべ!」という部署ができて3年ほどになります。すまのべ!はいわゆるR&D部門で、新しいテクノロジーをデジタルマーケティングの領域でどう活用していくかを研究しています。特に、IMJの得意とするオンラインだけでなく、オフラインでのユーザーの行動をセンサシングすることに注力しています。
以前からARにも注目していて、スマホをかざすタイプのARに始まり、Google Glassを使ったARにも取り組んできました。HoloLensが出てきて、もう1回ARを研究してみよう、となったんです。
——HoloLens以外にもいろいろなARデバイスや技術を試してきたんですね。
田野さん:中でもGoogle Glassは、先行して世の中に出てきただけあって、実験的な要素が強いデバイスでした。その分、使い勝手的な部分も試行錯誤が感じられました。
その後、エプソンの「MOVERIO」というデバイスを試したり……メガネ型のデバイスなんですが、両端にごく小さなプロジェクターが組み込まれていて、非常に優れたハードウェアなんです。ただ、MOVERIOもスマホ型のARと同様に、カメラを通じて捉えた映像にバーチャルな画像を重ねるものなので、リアルとバーチャルの世界を同期させるという意味には限界がありました。
加茂さん:ほとんどのARは、カメラで写していても、リアルのモノを認識しているわけではありませんからね。Google Glassでやりたいと思っていたことが、HoloLensでできるようになった、という感覚はあります。一方で、いまVRが盛り上がっていて、一緒くたに語られることも多いですが、本来はVRとARって全然違うものなんですよ。
——ほかにもHoloLensとARデバイスとに違いはありますか?
加茂さん:HoloLensはただ映像を映すだけのヘッドマウントディスプレイではなく、Windowsが内蔵されているコンピューターなので、スマホやパソコンとつなぐ必要がなく、スタンドアロンで動くのも魅力ですね。また、先ほど説明したとおり、リアルの空間を認識するので、ARにありがちなマーカーの設置が必要ありません。
たとえば、MRの先駆け的なデバイスに、キヤノンの「MREAL」があります。HoloLensとはまったく異なるアプローチでリアルとバーチャルを連動させていて、非常に精度が高い。でも、やはりマーカーの設置が必要です。
HoloLensはいろいろな場所で使えるので汎用性が高く、一時的な利用でも使いやすい。逆に、赤外線を使っているので、空間を認識するための対象物が少ない屋外や広すぎる部屋では使いにくいデメリットもあります。
リアルとバーチャルのミックス度合いがカギ
——実際にHoloLensを試していく中で、IMJではどんな用途をイメージしていますか?
田野さん:私たちが最近作ったデモアプリを紹介します。HoloLensとRoBoHoNを組み合わせたものです。
バーチャルな物体に干渉するとリアルなRoBoHoNがリアクションしてくれるMRのアプリで、HoloLensを通じて見たリアル空間の中に、バーチャルなオブジェクトが配置されています。そのオブジェクトに触れると、リアル世界にいるRoBoHoNがオブジェクトの名前を読み上げてくれる、というものです。
加茂さん:ショウルームなどに配置して、ロボットが商品説明をしてくれる、といった使い方をイメージして作りました。リアルとバーチャルのミックス度合いはいろいろと試しているところで、このデモの逆もおもしろいと思っています。
リアル世界の商品にバーチャルで透明の見えないオブジェクトを重ねて配置して、HoloLensを掛けた状態で触れると、ロボットが説明してくれるとか。もしHoloLensでポケモンGOを作るとしたら、リアルでボールを投げたらバーチャルのキャラが逃げるとか、リアルポケモン狩りもできるでしょうね。痛そうだけど(笑)。
——確かにゲームなどの用途もおもしろそうですね。アプリはどうやって開発するのでしょうか?
田野さん:基本的にはHoloLens開発用のUnityとVisual Studioを使って開発します。空間を認識するところはHoloLensがやってくれるので、Unityを触ったことがあればちょっとしたアプリの開発はさほど難しくはないでしょう。
ただ、ゲームの場合、普通のゲームと違うのはスタート位置がプレイヤーの視点を基準とする点です。普通、ゲームって、スタート地点が固定されていますよね。HoloLensの場合はプレイヤーがアプリを起動したところがスタート地点になるので、どの地点から始まるのかがわからない。自分がどこにいるか、キャラがどこにいるのかといった位置関係の考え方が必要になります。
——3Dのコンテンツを用意するのも大変そうです。
加茂さん:無理に3Dにしないで、2Dのコンテンツを3D空間に配置することもできます。キッチンの前にはレシピを表示しておいて、リビングに移動するとテレビが表示される、みたいなことともできます。表示するコンテンツ自体は2Dでも構わないのです。
https://www.youtube.com/watch?v=aThCr0PsyuA
——いろいろなアイデアが浮かびそうですね。
加茂さん:私たちとしてはマーケティング活動での活用を考えていますが、JALさんの事例では、パイロットのトレーニングにHoloLensを使っていると発表されていましたね。国内でも有志による開発者コミュニティが立ち上がっていて、みんなでいろいろな活用アイデアを話し合っています。試行錯誤しながら、おもしろい使い方を探っているところです。
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ゲーム中心で盛り上がっているVRとは異なり、さまざまな用途での活用が考えられるMR。今回お話を伺ったIMJのように、今後はデジタルマーケティングの分野で活用も広がりそうです。HoloLensは現在のところ、北米のみでの販売、それも3000ドル〜という価格なので、気軽に試せるものではありませんが、日本上陸をにらんでいまから動向をチェックしておきたいですね。