採用が進んでいる注目のフォーマットがMQA
MQAは音のにじみが少なく、原音に近いサウンドを実現できる。CD並みの小さなファイルサイズで、ハイレゾに匹敵する情報量を届けられる点が特徴だ。周波数特性ではなく、音の過渡特性(立ち上がりや立ち下り)の明確さに注目。10μ秒以下の時間軸分解能をうたい、192kHz/24bit音源と比較して、時間軸方向の分解能を悪くする“リンギング”を1/10以下に低減できるという。
開発担当の渡邉 勝氏は「新しもの好きのクリプトンとしては、MQAに力を注いでいる」とコメントした。
「人間はF特よりも時間軸方向のずれに敏感。10msぐらいでその差に気付くと言われているので、その範囲内に収める。また音楽情報を記録する際、サンプリングレートで48kHz、ダイナミックレンジで120dB程度あればおおむね十分だが、ハイレゾ音源のダイナミックレンジは160dBほどある。であれば、残りの40dB(4bit)ぐらいの部分にエンコードしたデータをカプセル化して折り紙のように収納し、再生時には専用のデコーダーを使ってこれを展開して再生する」
MQAファイルは音楽の折り紙という手法を活用。通常のDACで再生した場合にはCD品質のFLACファイルとして、MQAデコーダを利用した際には、この追加の情報を復号し、より高音質な再生ができるようになっている。
その真価を発揮するには“専用デコーダー”が必要で、現時点では対応機器が限定される。クリプトンは8月に自社サイトの“HQM Store”でMQA音源の配信を開始したこともあり、ハードウェアに強い会社として、再生可能な製品も用意した形だ。クリプトンの濱田正久社長は以下のように語る。
「MQAを採用するにあたって2年ほど前から準備を進めてきた。カメラータ・トウキョウさんを加えて、慎重に慎重を重ねて実験した。しかし、ハードウェアの会社としては、配信だけではだめで同時期に発売したいと思っていた。少し時間がかかったが(MQAの提唱者である)ボブ・スチュワート氏の評価もいただきながら、MQAにふさわしい音質を実現することができた。われわれらしく先進の個性、先を言って挑戦していく会社の風土を大事にしていきたい」
クリプトンはビクターの出身者が中心になって作られた会社だが、日本の責任者としてMQAを担当している鈴木弘明氏も旧知の仲だという。
鈴木氏はMQAの現状として、シンタックスジャパンが“RME Premium Recordings”として、明日からMQAのアルバム3枚をリリースする点などを紹介。国内ではe-onkyo musicやHQM Storeが配信を先行しているが、ototoyも近々配信を始める予定であるとした。
コンテンツ面では、5月に大手レーベルのワーナー・ミュージック・グループが楽曲すべてをMQAで処理して配信していくと表明。イギリスにあるMQAの本社で毎日エンコード処理を続けているそうだ。合わせてユニバーサル・ミュージックやソニー・ミュージックといった大手にも働きかけており、メジャーレーベルの参加を期待しているという。同時にファイルサイズが非常に小さく、ストリーミングに向いたコーデックという点を生かし、海外で好評の高品質ストリーミングサービス“TIDAL”も近々MQA配信を始める見込み。また、名前は明らかにできないが、ある米国企業が年内にMQA専用のストリーミングが始まる計画もあるという。
MQA対応のハードに関しては開発に関係の深いイギリスのMeridian Audioのほか、国内ではオンキヨー/パイオニア、MYTECHなどが製品をリリース。これにクリプトンが加わる。また、米国のBLUE SOUNDはWi-FiでMQAデータを飛ばす機器を発売している。
「日本でも様々な企業が関心を示しており、年内には発表があるのではないかと思っている。秋以降進展があるのではないか」(鈴木氏)